首相官邸HPより

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「こんな人たちに負けるわけにはいかない」──安倍首相が都議選の応援演説で言い放った言葉がいまなお波紋を広げている。なにせ、一国の総理大臣が国民に対して暴言を吐いたのだから、当然だろう。

 だが、安倍首相には謝罪する意思がないどころか、完全に「敵」だと考えているらしい。というのも、反対の声をあげた国民を「選挙妨害の左翼活動家」とバッシングするフェイスブック投稿に、またも「いいね!」と評価していたからだ。

 安倍首相が「いいね!」したのは、自民党の永田壮一・千代田区議が7月3日にFacebookへ投稿した文章。千代田区といえば安倍首相が件の演説を行った秋葉原を擁する選挙区で永田区議も当日演説に駆けつけていたようだが、その永田区議の投稿では、こんなことが書かれている。

〈安倍総裁の
こんな人達に負ける訳にはいきません
という演説を受け
報道では
こんな人達=都民ファースト支持者
真実は
こんな人達=選挙妨害の左翼活動家〉

 都議選で自民党が歴史的大敗したのは、さまざまな大臣たちの失言だけではなく、森友・加計学園問題において説明責任をまったく果たさない、人を食う安倍首相の傲慢さに下された審判であることは間違いない。いや、特定秘密保護法や安保法制、共謀罪など安倍首相の独裁的で憲法を軽視する政治に対して反対の声をあげてきた国民は数多い。だが、安倍首相はそうした"怒り"をもつ国民を、すべて〈選挙妨害の左翼活動家〉だと決め付けにかかっているのだ。

 安倍首相は今年5月にも、加計学園問題を追及する朝日新聞を「言論テロ」とする投稿に「いいね!」していたことが問題になったばかり。口には出せない鬱憤を「いいね!」で晴らすとは、まったく総理としての知性を疑わざるを得ないが、それは他の議員も同様。事実、安倍首相を反対するコールを行った国民を〈反社会的共謀組織〉〈政治テロリスト〉〈テロ等準備罪で逮捕すべし!〉と書かれた投稿に、自民党の工藤彰三衆院議員が「いいね!」を押していたことが問題となっている。

 しかも、安倍首相の「こんな人たち」発言を、安倍首相同様、官邸も反省するどころか〈左翼活動家〉〈政治テロリスト〉などと同じようにイメージを植え付けることで、さらに"味方と敵"に分断しようと躍起になっている。

 それを象徴するのが、菅義偉官房長官の発言だ。記者会見で菅官房長官は「(発言は)まったく問題ない」「きわめて常識的な発言」と断言。「なぜ問題ないのか」と東京新聞の望月衣塑子記者が食い下がると「問題ないから」と、いつものように国民を馬鹿にしたような回答しか返さなかった。

 これは無論、安倍応援団たちも同じ態度だ。本日放送の『羽鳥慎一モーニングショー』(テレビ朝日)では、コメンテーターの高木美保が安倍首相の「こんな人たち」発言を「民主主義や多様性を軽んじていたのでは。悲しいものを見てしまった」と批判。すると、"官邸のスポークスマン"こと田崎史郎・時事通信社特別解説委員は、なんと、こうやって反論しはじめたのだ。

「そこで反対してた『安倍さん辞めろ』と言っていた人たちには、多様性があったんですか?」
「多様性は、安倍総理ももたなきゃいけない。でも批判する側も安倍さんの意見もある程度受け入れる、発信を認めるかたちにしていかないと民主主義は成り立たない」

 田崎の弁は、最高権力者たる安倍首相と一般国民の圧倒的な力の差をまったく無視したうえ、あきらかに反対者は組織に動員された者たちと言わんばかりだが、7月4日放送の『バイキング』(フジテレビ)では、前横浜市長の中田宏も「これねえ、ちょっとプロ的解説するとねえ」ともったいぶった後、こう述べた。

「見る人が見るとわかるんだよね。小籔さんはわかってたけど、あのヤジってる反対派っていうのは組織的活動家なんですよ。安倍さんたちはわかってるわけ。あそこから見て。『あー、来てる来てる。反対陣営の組織が来てる』って」

 中田といえば、加計学園が運営する岡山理科大学や倉敷芸術科学大学、千葉科学大学で客員教授を務めるという、まさに安倍首相と同じく加計学園とズブズブの関係にあるわけだが、一体、どうして「組織的活動家」などと言い切れるのだろう。さすがに、このような中田の発言にはMCの坂上忍も「我々一般人の発言の自由があるとする。こっち(安倍首相は)国の最高権力者ですよ? これ同じなんですかって俺はお聞きしたいわ! だって重みが全然違うし、圧力が全然違いますよ!」と声を荒げて反発したほどだった。

 また、同日7月4日に日本外国特派員協会で記者会見を開いた百田尚樹は、圧力団体「放送法遵守を求める視聴者の会」の新代表らしく"メディアの偏向報道だ!"とお得意の陰謀論を開陳した。

「これを報道した日本のテレビ局は、画像の切り取りをやりました。実際の映像を見ると、反対派が陣取っているのはほんの一角だけでした。ところが、日本のテレビ局は、その一角だけをクローズアップして放送しました。これは非常に汚い報道のやり方です」

 しかし、この百田の発言に、フリージャーナリストの田中龍作氏が「私は現場にいた」と前置きし、「全方位から安倍さんへの批判は飛んでいた。百田さんは現場に行かれたんでしょうか?」と質問すると、百田は「行っていません」と返答。田中氏が「百田さんこそフェイクニュースじゃないですか」と反論したのだった。

 だが、こうした「画像の切り取り」と同様に、報道の仕方を問題にする声はほかにもあがっている。お笑いコンビ・ロザンの宇治原史規は、4日放送の『ちちんぷいぷい』(毎日放送)で、こう語った。

「安倍さんの『こんな人たちに負けるわけにいかない』というところを切り取って、自分を非難する人たちを『こんな人たち』と呼んでいるという報道がよくなされているんですけど」
「(安倍首相は)演説を聞かずに妨害をするという人たちには『負けるわけにはいかない』という文脈だったと思うんですね」

 そして、宇治原はこのような報道のされ方を「フェアじゃないなと思う」と主張したのだ。安倍首相が〈選挙妨害の左翼活動家〉だとする意見に「いいね!」していたことがわかったいまとなっては、宇治原の見立ては虚しいばかりである。

 第一、宇治原の指摘は重要な前提が省かれている。演説カーに乗ってマイクを握り、大音量で言いたいことを言える総理大臣に対し、国民は自らの意思を示す方法が限られている。そうしたなかで、反対する意思を表した人びとに対して「こんな人たち」と言い捨てたことが問題なのだ。同時に、その根本には「自分に反対する者は国民ではない」という危険極まりない捉え方があることを指摘しなくては意味がない。

 さらに、ここまで挙げてきたように、安倍首相をはじめ官邸や安倍応援団たちは「組織的活動家の犯行」と決め付けにかかっている。これは、沖縄の基地反対運動における「反対しているのは一般市民じゃない」というネトウヨたちが流しているデマや主張とまったく同じものだ。こうやって、権力にとって都合のいい国民を「一般市民」、反対する国民を「一般的じゃない市民」に分けることで、「弾圧してもいい人びと」という印象付けを図ろうとしているのはわかりきっている。

 安倍政権に批判的なメディアは「言論テロ」とし、憲法に保障された正当な権利を行使し政権に反対の意志表示を行う国民を「左翼活動家」と非難する──。安倍首相が「いいね!」ボタンで宣言する危険な本質には、それこそもっと批判がくわえられるべきだろう。
(編集部)