Rettyグルメニュース

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猟師にして料理人という人がいる。ジビエを出す肉料理店のシェフなどでたまにお目にかかることがある。休みの日には北海道の山に入り、エゾシカを撃つ。即座に血抜きを行い、30分以内には処理場で解体を済ませ、その肉を東京の自分の店で提供する。そんなシェフは確かにいる。

だが、それがマクロビオティックのシェフとなると話は別だ。マクロビオティックとジビエ料理のシェフにして、さらには猟師でもある。そんなスタイルが成立するのだろうか。その女性シェフは世田谷の喜多見で、スパイス料理店を経営しているという。

▲beet eat店主・竹林久仁子さん

「一般にマクロビオティックというと先鋭化したベジタリアンのようなイメージを持たれるかもしれませんが、本来のマクロビオティックは、食事に陰陽の概念を取りいれたもの。別に肉の摂取を禁じたものではないんです」

そう語る竹林久仁子さんが、自然派スパイス料理店「beet eat」を出店したのは一昨年、2015年3月のことだった。

「そもそものきっかけで言うと、10年ほど前に遡ります。実はその頃、交通事故に遭って3年ほど車椅子生活を余儀なくされていたんです」

思うように自分の体が動かせない日々。そんなある日、歩行のリハビリでヨガに出会う。それがインド文化との出会いだった。ほどなくインドに行く機会を得て、現地でスパイスや野菜の知識に触れることになる。 

帰国後、師事したのは、インドの伝統的医学「アーユルヴェーダ」をベースにしたスパイス料理研究の第一人者、香取薫さん。スパイスに火を通す順序や、火の通し方など厳しく教えられたアーユルヴェーダの技法はいまも忠実に守っているという。

「インドは国民の40%がベジタリアン。ただ、インドの"ベジ"は、そもそも宗教に由来するもので、西欧系のベジタリアンやビーガンとは思想や哲学が異なる。翻って言えば、インドでは信じる宗教の戒律さえ許せば肉だって食べるんです」

竹林さん自身に宗教の縛りはなかったが、体質上、市販の肉は体が受け付けなかった。スパイスと野菜中心の食生活に物足りなさが募る。そんなときに出会ったのが鹿肉――ジビエだった。

▲鹿のロースト

「いかにも生命力が強そうだから体が拒否しないか心配だったんですが、意外と平気でしたね(笑)。以来、鹿だけでなく、イノシシや熊などあれこれ試しているんですが、自然の野山で獲れたものなら大丈夫みたい」 

つまり、店主が安心して食べられるものを提供するのが「beet eat」。料理は南インド料理に近いが、型にこだわっているわけではない。「南インド」というイメージに押し込められるのを避けるため、今年はターリー(大皿)に複数のカトリ(小皿)を乗せるミールススタイルをやめることにしたという。

▲ビートイートカレー 全部盛り

この日の「全部盛り」は大皿の中央にバスマティライスと国産米のブレンドライス。その周囲を鹿肉のキーマ、チキン、エビとレモン、豆腐とインゲンの有機豆乳ヨーグルトといった複数のカレーが取り囲む。脇にはキャベツのピクルス、にんじんのポリアル、小松菜のトーレン。そして別の小皿でダル(豆)カレーとシークァーサーのサンバル(スパイス入りスープ)が供される。

この極彩色の素材と味わいを好きなようにブレンドして食べる。あれこれ混ぜても味が濁ることはない。むしろ混ぜるほどに味の深みとうまさが加速度的に増していく。

そろそろ我慢も限界なので、木内酒蔵の常陸野ネストビール(生)を注文! ゴクゴクと一気に三分の一ほどを流し込んだところで、お酒に目を向けるとヴァンナチュール(自然派ワイン)や日本酒も無農薬の酒米を使ったものなど目を引くボトルの数々が。

黒板メニューも「鹿のロースト」、「鹿のタルタル」、「北海道有機アスパラとイノシシグリル」なんて、胃袋をさらに刺激するメニューがずらり。もちろんそちらも注文だ。

▲鹿のタルタル

食べ過ぎじゃないかって? それはそうなのだけれど仕方がない。この店の料理は、体が「もっと食わせろ」と要求するのだから。

 

 

 

 

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ライター紹介

松浦達也

ライター/編集者。「食べる」「つくる」「ひもとく」を標榜するフードアクティビストとして、テレビ、ラジオなどで食ニュース解説を行うほか、『dancyu』から一般誌、ニュースサイトまで幅広く執筆、編集に携わる。著書に近著の『新しい卵ドリル おうちの卵料理が見違える』ほか『家で肉食を極める!肉バカ秘蔵レシピ 大人の肉ドリル』(ともにマガジンハウス)など。