ニトリ会長・似鳥昭雄氏の経営哲学とは?

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「ん、今日は『プレジデント』の取材だっけ? あっ、『週刊ポスト』の密着か! はっはっは」

 人なつっこい表情で場を和ませ、たちまち笑いの渦に巻き込む。その声の主は、似鳥昭雄(73)。「お、ねだん以上。」のキャッチフレーズでおなじみの家具小売り最大手・ニトリの創業者であり、現在は会長を務める。

 彼のユニークな人柄が広く世に知られるきっかけは、2015年春に連載された日本経済新聞の『私の履歴書』だった。当時社長だった似鳥は、「校長にヤミ米を1俵届けて高校に補欠合格」「大学教授を尾行して行きつけの飲み屋を突き止め、奥さんへのアリバイ作りに一役買って単位を取得」など、企業トップのイメージとはほど遠いエピソードをあっけらかんと晒して、「面白すぎる!」と大きな反響を呼んだ。

「落ちこぼれの私でも、ロマンとビジョンを持って突き進むことで、こうして成功できた。実社会では学歴や出来だけが、すべてではない。やればできるぞというメッセージを伝えたい」

 そう語る似鳥だが、入社式でも新入社員に「私は高校を裏口入学、大学は替え玉受験。カンニングで騙して卒業してもいいんです」と熱弁する姿を見ると、さすがにひやひやしてしまう。

 かつてはポケットに手品の道具を忍ばせ、パッと披露しては周囲を驚かせていたと明かす。最近はフライドポテトの形をした真っ赤なカバーをスマホにつけ、ポケットへ入れている。

「色々とカバーを替えてみて、ポテトがいちばんウケがいい。これを取り出して見せるとみんなが笑うんです。行動も考え方もなんでもね、私は人と違うことを意識している。持ち物だって人とはちょっと違うものを選びたい」

 話しながら、卓上にあったカメラレンズを手に取り口元へ運ぶ。エッと叫ぶと、なんとレンズ型のマグだった。

「うふふ。ビックリした? これはゴルフの景品でもらったの。私はね、人の笑顔をみるのが大好きなんです。ウチのおふくろは人に喜んでもらおうと行動するタイプで、顔もそうだけど、私は非常におふくろと似ているんですよ。度胸がいいところもやっぱり、おふくろ譲りです。DNAですね」

 その度胸が、ニトリが成長を続ける原動力になっていると胸を張る。

「度胸とは“まずやってみよう”“人とは違うことをしてみよう”という好奇心です。私は人がまだやっていないことにいち早く取り組みたい。もちろん常にリスクがあるし、時には失敗することもあります。でも、リスクがあるところにこそチャンスがある。いまは非常識でも、未来には常識に変わるのが世の常です。時代が変わってから手をつけても遅い。流れを先読みして、臆せず、一番乗りをすることです」

 たとえば昨年は日本で初めてロボット倉庫を導入し、通販の発送に伴う作業効率を3.75倍も向上させた。

「日本初の試みは数えきれないほどやってきました。今でこそ当たり前になりましたが、家具だけでなく寝具、インテリアなど家庭用製品をトータルに扱うホームファニシングの業態を米国から日本へ輸入し、広めたのも私。

 1972年に米国を視察するセミナーに参加して、色やデザインがコーディネートされた生活空間に衝撃を受け、品質のいい家具が日本の3分の1の価格で流通していると知った。人生観も変わり、米国の豊かさを日本へ伝えたいと、今日まで走り続けてきました」

 他の参加者は、畳で暮らす日本と土足で暮らす米国では文化が違うと否定的だったが、似鳥は米国の家具文化を手当たり次第、取り入れた。

「米国の文化のどれが日本で受け入れられて、どれがだめかなんて、やってみなければわからない。だったら100%マネすればいいんだ、と。昔やった試験のカンニングみたいなものですよ(笑い)。あれから40年以上経って日本の生活も変わりましたが、まだまだ米国から学ぶことも多い。ニトリの社員にも海外との違いを感じて、高い志で仕事をしてほしいんです」

 ニトリでは上場企業平均の約4倍の研修費をかけ、毎年1400人以上の社員を海外へと派遣する。30期連続増収増益と快進撃を続ける同社にとって、人材育成は喫緊の課題でもある。

「“企業は人なり”と言って、会社のビジョンを達成するには第一に人を育てることなんです。お金と時間と熱意をかけないと、人は育たない。

 今年3月に東武百貨店池袋本店、マロニエゲート銀座、アトレ目黒で新店を同時開業しましたが、始めは日程がバラバラだったんです。ところが3店同時のほうが話題性もあって、効率的に広告できるのではと、店舗開発部が持ちかけてきた。意欲的な提案が現場から出てくるようになって、嬉しいですね。私が死んだ後も会社が成長するには、未来を見通して方針を打ち出す改革派がいないと潰れますから」

 その傍らで、似鳥国際奨学財団を設立して海外からの留学生に奨学支援を行ない、ライフワークとしても人材育成に力を尽くす。留学生たちは「日本の豊かさを自国へ伝えたい」と、若き日の似鳥のような志を胸に夢を語る。

【プロフィール】にとり・あきお/1944年、樺太(サハリン)出身。ニトリホールディングス会長。1966年、北海学園大学経済学部卒業。広告会社へ就職した後、札幌市内に「似鳥家具店」創業。1985年、社名を「ニトリ」へ変更。2002年東証一部に上場。2007年台湾に海外1号店をオープン。2010年、持ち株会社へ移行し、社名を「ニトリホールディングス」へ。2017年、30期連続の増収増益を果たし、2018年の連結経常利益を前年比18%増となる初の1000億円台を見込んでいる。趣味はゴルフ。昨年は80回ラウンドした。

撮影■江森康之 取材・文■渡部美也

※週刊ポスト2017年7月14日号