安倍首相が狙う「12月改憲解散」の現実味

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7月2日投開票の東京都議選で自民党が歴史的惨敗を喫し、「安倍1強」に陰りが見え始めた。それでも安倍首相は改憲への意欲を隠さない。そこで狙うのが「必勝伝説」が定着しつつある「12月総選挙」の実施ではないか――。ノンフィクション作家の塩田潮氏が分析する。

■改憲案の国会発議と国民投票は「19年まで」

安倍晋三首相は5月3日に「憲法に自衛隊明記。2020年に新しい憲法施行」と打ち出して話題を呼んだが、それから2カ月が経過した。7月2日投開票の東京都議選で自民党が歴史的大敗を喫し、首相の政権基盤が揺らぎ始めたが、改憲挑戦計画には変更はない、と強気の姿勢である。在任中に改憲挑戦という決意は、今も変わりはないと見て間違いない。

安倍首相は5月3日の改憲メッセージ表明の後、早速、12日に自民党憲法改正推進本部の保岡興治本部長と会談して「安倍構想」に沿った改憲案の原案づくりを指示した。続いて21日収録のラジオ番組で「年内にまとめて国民に示す」と明言した。推進本部は6月6日、幹部会で年内をメドに党の改憲原案をまとめる方針を固める。6月21日の全体会合で本格的な議論を開始した。

自民党の尻を叩き続ける安倍首相は24日、神戸市での講演で、「年内」からさらに踏み込んで、改憲原案の衆参の憲法審査会への提示を「今秋の臨時国会の会期内に」と表明した。性急すぎるほどの前のめりだが、急ぐ理由の一つは政治日程である。

自ら「20年施行」と期限を切ったが、東京五輪・パラリンピックの年だから、開催前の「20年前半の施行」を想定していると思われる。であれば、改憲案の国会発議と国民投票は「19年まで」が条件となる。

ところが、衆議院議員は18年12月に任期が満了する。参議院は19年夏が次の改選期だ。自民党と公明党の連立与党はここまで衆参の選挙で4連勝を遂げ、その結果、首相が「改憲勢力」と見なす自公と日本維新の会の合計議席が発議要件である「衆参の総議員の3分の2」を初めて上回った。安倍首相は現有議席で発議の議決に挑む腹と見られるが、「20年前半の施行」から逆算して、こんなスケジュールを考えているのだろう。

まず今秋の臨時国会に改憲原案を提出する。安倍首相の2期目の自民党総裁任期は18年9月で満了するから、その前の18年の通常国会までに衆参で発議の議決を行う。総裁3選を果たして21年9月まで在任を可能にした後、19年までに国民投票を実施する。

その場合、18年12月までに行われる次期総選挙と改憲案の国民投票を同日選で実施するプランも選択肢に入れているに違いない。その点をめぐって、保岡氏は6月13日、都内での講演で、国会の判断次第で容認されるとの考えを示した。だが、憲法問題について、インタビューに答えて「それほど急がなくていい」と話している自民党の二階俊博幹事長は16日、反対に「一緒にやるのは適当ではない」と否定的な見方を口にしたという。

安倍首相は改憲原案の取りまとめについて、衆参の憲法審査会での与野党の協議に委ねるのではなく、まず自民党で原案を策定し、それを各党に提示するという「自民党主導型」を企図している。これまでと同じ「与野党協議重視型」だと、憲法審査会は小田原評定に終始し、目標の「在任中の改憲」が絵に描いた餅に終わる心配があるからだ。

筋金入りの改憲論者の安倍首相には長年、独自の改憲構想を主張してきた。「要改正項目」として重視するのは、「翻訳調」と批判する現憲法の前文、第9条、3分の2の発議要件を定めた改正手続きの第96条の3点であった。

だが、5月3日の改憲メッセージでは、現憲法第9条への自衛隊明記と教育無償化を唱えた。自民党の憲法改正推進本部は、検討テーマとして、それ以外に、緊急事態条項、参院選の2県合区解消を含む選挙制度を取り上げ、計4項目を対象とする方針である。

■「自民党主導型」で押し切ることができるか

自民党主導型とはいえ、憲法審査会での与野党協議、衆参での発議の議決という関門を通り抜けるのが必須条件だから、自民党策定の改憲原案も、当然、同じ「改憲勢力」の公明、維新の賛成が得られる案でなければならない。安倍首相は持論の「要改正項目」のうち、第96条については、第2次内閣発足直後の13年初め、この条項の先行改正論を唱えて猛反撃を食らい、引っ込めざるを得なかったという苦い思い出があり、今回の改憲メッセージでは取り上げなかったが、もう一つ、強く働いているのが公明党への配慮だ。

副代表兼憲法調査会長の北側一雄氏はインタビューに答えて、第96条について、「硬性憲法は維持すべき。3分の2の要件は維持しなければ」と語っている。さらに前文も変更不要という姿勢を示した。

安倍首相は自身の「要改正項目」の中で、第9条だけは引っ込めなかった。だが、北側氏は第9条への自衛隊の明記についても、「安全保障法制をあそこまで整備した今、急いでやるべきかどうかというと、現実の必要性はないと思う」と述べている。考えに開きがある公明党を、今後、「自民党主導型」で押し切ることができるかどうか。

それだけでなく、自民党内も一枚岩とはいえない。現段階での第9条改正に否定的な岸田文雄外相や、12年に自民党が策定した改憲案(日本国憲法改正草案)との整合性などを問題にする石破茂元幹事長など、異議・異論も多い。

安倍首相は声高にスピーディーな改憲挑戦を叫び続けているが、安倍流カレンダーどおりに「首相脚本・自民党演出」の改憲劇が進行する確率は五分五分がいいところだろう。改憲の要・不要、是非の議論や判断も重要なポイントだが、ここへきて、それ以上に改憲劇の行方を大きく左右しかねないのが「安倍政権の急失速」である。

■「改憲解散」する腕力と体力が残っているか

今年に入って、森友学園、加計学園の2つの疑惑噴出で支持率下落に見舞われ、都議選でも「1強」の驕りへの批判が大噴出して、政権発足後、最大の逆風に直面している。改憲カレンダーどころか、総裁3選のハードルを越えられるかどうか、と苦境を予想する声も上がり始めた。今年5月以降の「改憲前のめり」は、政権失速を乗り切るために国民の関心を改憲問題に誘導しようとする危機克服の仕掛けでは、と裏読みする人も少なくない。

だとすれば、「20年施行」からの逆算の安倍流改憲カレンダーも、実は「敵は本能寺」かもしれない。表向き「次期総選挙は18年秋」というスケジュールを色濃くにおわせながら、安倍首相は今年、「年内解散・総選挙」の一点突破作戦に踏み切る算段なのか。

今秋の臨時国会の会期中に自民党の改憲原案を大々的にぶち上げ、それを掲げて会期末に「改憲解散」を仕組む。「必勝伝説」が定着しつつある「12月総選挙」を実施する。その可能性は小さくない。今や落ち目の安倍首相に解散・総選挙を断行するだけの腕力と体力が暮れまで残っていればの話だが。

(作家・評論家 塩田 潮)