私ら都民は、ババアが天の岩戸に立て籠もる寸劇をもうすぐ見ることになると思うんですよ。

生きている内田茂

 まず、悪役にされていた自民党都連の「ドン」内田茂を出している千代田区民として、一言言わせていただきたい。町の行事で、町内会で、いままで十何回と「生きている内田茂」を見てきた私からしますと「ひょっとして内田茂のケツから出ているコードがコンセントから外れてるんじゃないか」と思うぐらい、凄みのない、静かなおじさんなんですよ、内田茂。


ドン、内田茂(中央) ©杉山秀樹/文藝春秋

 そもそも、千代田区に新しく来た住民は内田茂とか知りません。ずっと神田淡路町に住んでる婆さんたちとかと寄り合いで内田茂話になっても、最近できたマンションの住民は内田茂って言われても「歌手ですか」とか聞き返すレベル。それ松崎しげるだろ。まあ、当たり前ですよね、地方議員なんて普通の人知りませんから。仮に知ってても地蔵か置物ぐらいにしか思ってないんですよ。地元で政界を揺るがすドンと言われても、案外そんなもんなんですよね。

都議会選挙、その「仕上がってない感じ」

 んで、今回都議会選挙がありました。ぶっちゃけどこも応援してない私はここで困るわけですよ。誰に投票するんだこれ。都民ファーストの会からは樋口さんという髭男爵の山田さんじゃないほうが出馬したと思ったら別人だったとか、自民党はそのドン内田茂が引退したので公募でやってきた気の強そうな丸顔の変なのが立候補していて非常に萎える展開であります。自宅付近で各陣営が演説していましたが、良く言っても「フレッシュさを前面に出すのはいいけど、なんですか、その仕上がってない感じは」という。

 残る立候補者は共産党のテンプレ候補と昨今泡沫候補の新星として話題沸騰中の後藤輝樹さんでして、自民はちょっと、都民ファーストは気に入らない、共産党などとんでもないってなると、自動的に後藤輝樹さんになるんですよ。批判票のはけ口としての泡沫候補。私はね、そういう輝ける泡沫候補は大事だと思っとるんです。馬鹿でもネタでも少しまとまった金さえあれば立候補できる。これこそ民主主義じゃないですか。責任ある有権者として棄権は嫌だって考えると、うっかり後藤輝樹さんに投票してしまうわけです。開票速報が出た後で私と志を等しくする600余名がいることを確認して千代田区も捨てたもんじゃねえなと思うわけであります。次も楽しい芸を魅せてくれよ後藤輝樹。


後藤輝樹(2015年千代田区議会選挙ポスター) ©時事通信社

私ね、反省しているんです、小池女史に投票しちゃったことを

 それもこれも、私ね、反省しているんです、前回の都知事選で小池百合子女史に投票しちゃったことを。もちろん、いまは人気ありますよ。あれだけテレビや新聞、各種メディアの自民党叩きがあって、また官邸では森友だ加計だとクソ事案で騒ぎまくっている状況ですから、ここで自民党に託そうという有権者は減るでしょうからね。自動的に、自民党批判票は都民ファーストや共産党に流れるのはしょうがないと思うんです。

 自民党も最近一強と言われて何か「追い風受けて当たり前でしょ」ってノリで、弛みまくってるんじゃないかと思うんですよね。憲法改正とかそりゃいつかは必要なんだろうけど、優先順位がおかしいと思うんですよ。激増する高齢者を支える社会保障だとか、下がり続ける出生率対策とか、夫婦ともども働きに出ないと生活が成り立たない家庭が多い中で子育て支援しないとまずいでしょうとか、奨学金が消費者金融状態でそんなんで大学ほか高等教育大丈夫かとか、アベノミクスの後始末的な政策の不備がゴロゴロしてて、共謀罪やら憲法改正なんぞよりも、まず国民の生活ファーストでしょ。


「追い風受けて当たり前でしょ」ってノリ ©石川啓次/文藝春秋

 憲法記念の日に安倍晋三首相がなぜか憲法改正待ったなしみたいなことを言ったのも、支持率が高いのをフリーハンドと勘違いしたという弛みが原因でしょうし、クソみたいな失言繰り返してさっさと更迭されるべき稲田朋美防衛相がまだ地位にしがみついてるし、たかが受動喫煙問題で党内調整もできない塩崎恭久さんを厚労大臣に据えっぱなしだし、官房長官で長いことやってる菅義偉さんもガタが来てる状況です。内閣改造でも総理禅譲でもいいから、仕切り直ししましょうよ。さっさと。

自民党が勝つわけないなかでの「都民ファースト」現象

 そこへ降り立ったのが都民ファーストの会です。いやね、2月3月の世論調査とか見ていると、都民ファーストの会とか誰も期待してないどころか、そういう政党があることを知らない都民ばっかりなんですよ。ただ、都民からすれば良く分からん奥の院みたいになってる都政改革してよとか、知りたいと思ったときに都政の中身を教えてくれる情報公開頼むよとか、そういうものが争点の上位にあり続けてるんですよね。それこそ、内田茂さんみたいな置物風の爺さんが古き良きどっしりとした自民党政治で、そこに白紙委任状を出すような地方政治じゃなくて、何が起きているのか、何をしようとしているのかぐらいはきちんと知れる都庁にしてよ、ってぐらいの話じゃないかと思います。

 そして、実際に行われた都議会選挙は、代表に小池百合子女史を戴いた都民ファーストの圧勝。あれだけ日本の真ん中で官邸が馬鹿やって、馬鹿にされて、自民党が勝つわけないじゃないですか。秋葉原に安倍ちゃん出てきて左翼に煽られてブチ切れてるのを見て、投票したい都民がいると思いますか。しかも、秋葉原って千代田区なんですよね。ドン内田茂のお膝元で、出てるのは気の強い変なのですよ。8時開票で落選を8時1分に出されて、変わったのが自民党批判の敗戦の弁をテレビの前でぶちまけるとか、最高に面白すぎます。どうなってるんですかね、千代田区。

千代田区民として本当に「都民ファーストか?」って考えてみる

 その千代田区、この前区長選があったわけですよ。そこで小池百合子都知事が担ぎ上げたのは、75歳で5選目を目指す現職区長。いやー、新しい政治だわ。旧弊打破してるわ。若いって最高ですよね。

 小池女史がなんでこんな年寄を区長選に担ぎ上げたかって、そりゃもう区議会を抑えている自民党筋と対立をしていて、そのボスがあのドン内田茂だからだって言われておりました。くだらねえ。心の底からくだらねえ。もっと若くてまともな奴はいねえのか。


千代田区長選決起集会での小池都知事 ©三宅史郎/文藝春秋

 でも現職区長が圧勝するわけなんですよね。別に今の千代田区に不満のない区民ばっかりですからね。

 この辺に都民ファーストの限界があるわけですよ。いっときますが、千代田区民として今の千代田区が最高かって聞かれても、正直なところ「良く分からない」ってのが実態です。だって、千代田区の理想像って何なのか、良く分からんもの。

 ただ、都民ファーストって言われたときに、千代田区の住民こそせいぜい6万人ですよ。でもですな、日中の人口ってなると、霞が関も永田町も丸の内も大手町も神保町も全部よそからやってきた人たちで埋め尽くされ、愛されて80万人超。そのうち半分ぐらいが埼玉とか千葉とか神奈川からえっちらおっちらやってきた、非都民な皆さんばかりです。

いま都民が必要とするようなこと、語ってた人いましたか

 いいですか。都民ファーストといっても都民だけがいい暮らしをしようっていうんじゃなくて、東京都に働きに来る人も、東京都に住んでる人も、いろんな人がいて東京都なので、東京都を含めた近郊県も併せてみんなの働きやすさ、住みやすさを考えないといかんわけですよ。


大敗した自民党 ©杉山秀樹/文藝春秋

 でも、そういう人たちと一体となって、東京をこれからどうしていくのかきちんと考えるのが政治だとするならば、今回の都議会選挙で東京都の未来をきちんと語れた政党なり候補者なりがいましたか。蓮舫代表が来れば安倍政権の批判をし、小池百合子女史はワイズスペンディングとか良く分からないことを言い、いま都民が必要とするような子育て環境や出産補助や通勤地獄や高齢者介護や空き家問題について語ってる人、いましたか。

 千代田区で言うなら、千代田区の住民の10倍以上、他の地域からの働き手がやってきてるわけです。子供がいて共働きの人たちは、愛する子供を地元に預けて夫婦で働いてる。そういう人たちを迎え入れる千代田区民に何を語りかけるべきかって、少なくとも安倍政権批判ではないんじゃないかと思うわけですよね。確かに安倍晋三さんは馬鹿だと思うけど、いま私たちの生活に必要で、こうすればもっと良くなると思うことを聞きたいのであって、共産党が年寄り動員してきて安倍政権を倒せとか御茶ノ水で言われても「代々木でやれ」としか思いません。

 一事が万事そういう感じなんですけど、まあ「都議会に何をそんなに期待しているんだ」って言われるとそれまでなんですよね。石原慎太郎都知事以降、猪瀬直樹さんや、舛添要一さん、そしてドンとして君臨したことになっている内田茂さん以下都議会が、そこまで東京の将来を考えてグランドデザインしていまに至るかと言われれば、そんなことはあんまり考えてこなかったというオチになります。

マンボウの産卵のような結果と世の理

 また、思い返せば橋下徹さんの大阪維新も、名古屋の減税日本も、途中までは政治の刷新を求める有権者の熱い期待を受けて地方議会で大量の議席を確保し、地域政党として名を馳せ、国政にまで打って出るかというところまでは来ておりました。しかしながら、やはり未熟な組織と素人同然の議員が一時の勢いを得て議席確保しても、いっぱしの政治家になるには時間もかかるし、マンボウの産卵のように多くは途中の逆風やスキャンダルで消えていくことになるのが世の理と言えます。

 今回、選挙の顔として都民ファーストの代表になった小池百合子女史も、地方政治の二元代表制を大事にするという建前でさっさと代表を降りてしまいました。これだって、どういう手続きで、誰と相談して降りたのかは情報公開されておらず、さっぱり分からないわけですけど、そういう都民ファーストが情報開示を政策の柱に掲げて躍進したのは皮肉というほかありません。


ラグビーシャツを着た小池都知事 ©杉山拓也/文藝春秋

シンガポールなみのGDPを持つ大千代田になるのだ

 もしも自分勝手に政治を考えていいとするならば、千代田区で働く80万人の区外の皆さんのことなど考えず、千代田区住民だけで特別区を返上して千代田市になるぞ的な構想もまた出てくることになります。いいですか、本来は地方自治体の財源になるはずの3税(法人住民税、固定資産税、特別土地保有税)を召し上げるための制度が特別区なのです。ということは、千代田区が東京都に納めて分配している3税の総額3585億円あまりは、6万人の千代田区民のために使おうじゃないか、そのためには皇居を擁する千代田区は天皇を象徴とした千代田国になればいいのだ、そうしたらシンガポールなみのGDPを持つ大千代田になるのだ、と言われかねません。

 そこまでいかずとも、特別区から抜けて千代田市になれば… という構想は以前からあったわけです。また、東京都も地方交付税交付金を受け取っていないということは、国庫に入ったお金は地方に回って地方が助かっているということでもあります。東京都の浮沈は、まさに日本全体のお金の流れを握っているといっても過言じゃありません。


得意げ ©杉山秀樹/文藝春秋

 勝ち過ぎた選挙の反動で、もしも小池百合子女史がスキャンダルに見舞われることがあったなら、いまの得意げだけど中身のない知事定例会見もグダグダになり、情報公開を叫んだ選挙戦も忘れて天の岩戸に小池女史が引っ込むようになるんじゃないかとすら思います。側近政治まっしぐらです。なんせ、防衛大臣を55日で更迭された人です。そこから周りがうまくお膳立てをして、小池女史も政治家として強かに成長していることを期待するのみなんですが、さてどうなることやら。

(山本 一郎)