画像提供:マイナビニュース

写真拡大

6月23日深夜、小田急ロマンスカー「HiSE」10000形3両が大野総合車両所へ回送された。「HiSE」は2012年に現役を引退し、2編成が長野電鉄に譲渡された。展望室を持つ先頭車1両・中間車2両の計3両が喜多見検車区に保存されていた。翌24日には大野総合車両所の周辺や車窓から見える位置にあり、Twitterに目撃談も上がる。

当初は、小田急電鉄が7月6日から実施するロマンスカー「SE」就役60周年キャンペーンに関連すると期待する声もあった。しかし目撃談と前後して、「小田急は保存車両をすべて廃車するつもりだ」という内容の差出人不明の"怪文書"が出回った。大野総合車両所は車両の検査だけではなく、解体する設備もある。噂にしては現実味があり、ついに「HiSE」は解体作業線に配置された……。

じつは筆者も"怪文書"のコピーを見た。内容を要約すると、

小田急は喜多見車両基地に保存している車両を解体する

対象は「NSE」「HiSE」「RSE」と2200形、2600形、9000形である

各車両の搬入日、解体業者引き渡し日

いままでの保存車両もすべて廃棄するようだ

理由は保存車が車庫線を占有しており業務に支障するから

新社長の指示のようだ

運転車両部長は「今後当社は一切車両の保存はしない」と公言

車両保存は郷愁やファンのためではなく、産業遺産である

阻止するために外部の人たちに知らせ、外部の力で阻止するしかない

部外の人やマスコミにこの問題を知らせたい

というわけで、あるルートから筆者の手元に届いた。情報提供者には小田急電鉄OBから回ってきたという。"怪文書"の原本は差出人不明の郵便で、筆者の手元には電子メールで届いた。しかし、そもそも差出人不明の"怪文書"では信憑性に欠ける。手紙からメールに打ち直したときに、情報の足し引きがあったかもしれない。文面に企業上層部を糾弾する内容が混じっており、本来の目的が会社批判とすれば、情報そのものが疑わしい。

筆者に情報提供した人は信頼できる。悪意はない。しかし、このまま記事にはできない。相模大野駅に行き、徒歩で大野総合車両所の周囲を1周してみたら、たしかに一般車に隠れるように「HiSE」の赤い色が見えた。回送されたところまでの情報は合っている。

そこでもう1人の人物を紹介していただいた。小田急電鉄OBで、ロマンスカーに関する著書も多い生方良雄氏だ。小田急ファンにとっては神様のような存在である。彼もこの件で心を痛めており、小田急電鉄を訪問して、広報部長、車両担当課長から説明を受けたそうだ。その結果、"怪文書"のような「すべて廃車」「今後保存しない」は事実ではなかった。しかし、一部廃車は決定していたという。具体的には以下の通り。

「SE」3000形はいままで通り海老名保管庫で保存

モハ1形(モハ10)もいままで通り喜多見で保存

「HiSE」10000形は先頭車1両を残して2両解体、部品の一部を長野電鉄へ譲渡

「RSE」20000形は先頭車とダブルデッカー車両1両の計2両のみ保存、残りは解体

「NSE」3100形は先頭車2両と中間車1両の計3両のみ保存、残りは解体

2200形は先頭車1両とし1両は解体

2600形、9000形は従来通り先頭車1両を保存

つまり、全車解体ではなく、保存車両の整理を実施するという計画だった。理由として2018年3月の下北沢地区立体交差化、複々線化の完了が関係している。同時に大幅なダイヤ改正を実施する予定で、喜多見検車区はロマンスカーの基地という役割が大きくなる。ロマンスカーの新型車両70000形も2編成が運用開始される予定。それに先立ち、今年11月には車両が完成する。現在の特急車両は減らさないため、特急車両が2編成の純増になる。したがって、喜多見検車区の保存車両を整理する必要があった。

生方氏は「やむをえない」と残念そうだった。現在の保存車でも最小限という認識だったのだろう。とくに「RSE」20000形のハイデッカー中間車は2両で1組という認識だ。生方氏によると、小田急電鉄にはかねてより鉄道博物館を作る構想があるものの、会社の経営状態や候補地との調整がつかないままだという。解体されずに保存が決まった車両の陣容を考えれば、京王れーるランド・東武博物館以上の規模になる。そう考えれば「やむをえない」という気持ちもわかる。

今年、小田急電鉄は開通90周年を迎えた。10年後はいよいよ100周年。その記念事業として、ぜひ「小田急博物館」を実現してほしい。今回は"怪文書騒ぎ"という後味の悪い話になってしまった。しかし、多くの人々が鉄道車両の保存の意味を考えるきっかけになっただろう。それが「小田急博物館」のオープンを後押しする形になればいい。