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“なりたくない職業”から“憧れの職業”へ

SEやITエンジニアという職業に対して、どのようなイメージをもっているだろうか。激務、勉強が大変そう、休めないなど、いわゆる“3K”をイメージするのではないだろうか。

しかし、生まれた時からネットがあり、日常的にスマートフォンやSNSに触れている「デジタルネイティブ」と呼ばれる世代では、イメージも違うらしい。

ソニー生命保険の調べ(2017年4月)によると、現在の中高生男子がなりたい職業の1位に「ITエンジニア・プログラマー」が輝き、話題になった。昔のイメージを知る大人たちからは“信じられない”、“お勧めできない”などの声が相次いでいる。

ソニー調べ


他にランクインした職業を見てみると、「ゲームクリエイター」「YouTuberなどの動画投稿者」など、おそらく彼らの身近な存在であろう職種が並んでいる。「Minecraft(マインクラフト)」や「ゲーム実況」などを体験して育ってきたことを考えれば、これらはある程度、想像できる結果と言える。

しかし、「ITエンジニア・プログラマー」は意外だった人も多いだろう。ネットでの反応としては、ITエンジニアが主人公のドラマの影響ではないか、ソーシャルゲームブームの影響ではないか、など理由を探る声も多かった。

たしかに一過性のブームを受けて職業の認知度が上がったがためのランキング結果かもしれないが、これからの日本にとっては希望のもてる結果といえるのではないだろうか。

デジタルネイティブ世代は、ネットやスマートフォン、SNSが身近な存在であり、“3K”の職業というよりも夢のある職業というイメージが強いのかもしれない。そのイメージを生かし、IT人材を育てていく必要があると思うのだ。

人材獲得環境はますます厳しくなっていく

2016年6月に経済産業省が発表した「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」によると、現在の国内IT人材は約90万人おり、不足数は17万人と推計されている。そして2019年をピークに人材供給が減少傾向に転じ、一層不足数が拡大するだろうとする。

さらに時代が進み、2030年には約79万人が不足するという推計もある。
これらは少子高齢化によって、現役の高齢化と退職に対して、新社会人などの就職による人材供給が追いつかない形だ。

IT人材の「不足規模」に関する推計結果(経済産業省「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」)


こうした状況は他の業界でも同様のことが言えるが、ことIT業界においてこのような状況が続くのは、日本の経済発展にとって大きなハンデになるだろう。いまさらいうまでもなく、現代の経済活動においてITの果たす役割は非常に大きくなっているからだ。

特に、クラウド、IoT、人工知能、ビッグデータなどは、ビジネスモデルそのものを変革させる可能性を秘めた技術である。これらの技術に携わるITエンジニアの存在が、これからの日本の経済を推進していくであろうことは想像に難くない。
しかし、少子高齢化という国内事情に加えて、別の不足要因ともなりかねない状況が見えてきた。

中国の通信機器大手・華為技術日本(ファーウェイジャパン)が日本で採用を始めたのだ。しかも、その待遇が好条件ということで話題となった。就職支援サイトに掲載された条件によれば、日本企業の新卒者のおよそ2倍近くの年収になるという。さらに、有給消化50%以上、完全土日祝休みなど、昨今の新卒者が重視するライフワークバランスもとりやすそうだ。

これまで、日本の若者は内向き志向が強く、海外企業への就職意欲は諸外国に比べて少ないと言われてきた。実際、総合人材サービス会社のランスタッドホールディング・エヌ・ヴィーの調査(※)によれば、日本の働き手は世界の平均と比べると低いことがわかる。

(※)18〜65歳・週24時間以上の勤務をする労働者を対象としたオンライン調査。

まず、「海外で働くことに関心がある。」と答えたのは、世界平均では52.9%であるのに対して日本では33.3%。「海外出張の機会がある仕事に就きたい」と答えたのは、世界平均57.0%に対して日本では32.3%と、いずれも約2割程度低い結果となった。

さらに、「様々な国籍/文化をバックグラウンドに持つ同僚と働きたい」と答えた人数にいたっては、世界平均75.2%に対して日本では40.7%と調査国の中で最下位の結果となった。

「ランスタッド・ワークモニター 労働意識調査」(2016年第1四半期の調査)より


このように内向き志向のある日本の働き手だが、先に挙げたファーウェイのような高待遇の求人であれば、話は変わってくるであろう。優秀な人材であればあるほど、こうした高待遇の海外企業に流れていき、結果、優秀な日本の頭脳が流出してしまうことになる。

これまでも中国企業による日本企業の買収などの動きは見られたが、近年では研究開発分野においても進出が目立ち始めている。その背景としては中国における人件費が高騰してきており、日本人の賃金との格差が縮まってきていることが挙げられる。そのため、これからも今回のファーウェイのような求人が増えていく可能性はあるだろう。

日本企業にとっては少子高齢化に加え、こうした海外企業との人材獲得競争のも臨まなければならなくなりそうだ。

ITエンジニアが子どもの憧れる職業になり続けるためには

こうした状況を打開するためには、どうすればよいのか。

先に挙げた経済産業省の「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」では、以下のようなポイントを示している。

(1)より多様な人材(女性、シニア、外国人材)の活躍促進
(2)人材の流動性の向上(高付加価値領域への戦略的人材配置)
(3)個々のIT人材のスキルアップ支援の強化
(4)IT人材への処遇やキャリアなど、“産業の魅力”の向上
(5)先端IT人材、情報セキュリティ人材、IT起業家などの重点的な育成強化

これらの根拠となったであろう、同資料に掲載されている日本と諸外国の状況を比較したデータを見てみよう。

回答者属性に関する調査結果例(経済産業省「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」調査結果概要)


いわく、日本企業のIT人材が置かれる状況として、諸外国よりも管理職クラスが少なく、また理系専攻出身者も少ないという。日本では約5割が一般社員だが、米国では9割近くが管理職。また、日本では理系専攻出身のITエンジニアは約5割だが、インドでは8割以上を占めている。

年収においても日本では500万円前後に集中する一方、米国では1,000〜2,000万円に広く分布するとしている。

各国IT人材の年収分布(経済産業省「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」調査結果概要)


たしかに、このような状況を見ると、役職・収入面でもITエンジニアの待遇が良いわけではないことがわかる。そのためか、理系専攻人材も必ずしもITエンジニアを目指しているわけではないようだ。

今後の経済競争を勝ち抜くために必須となるITエンジニアを取り巻く環境がこのような状況では、危機感を感じざるを得ない。

そうした危機感の表れか、国もIT人材の教育に一層の注力をはかろうとしている。ご存知の方も多いだろうが、文部科学省は2020年に小学校へのプログラミング必修化を検討しているのだ。

こうした動きは欧米では進められていて、「STEM教育(ステム教育)」とも呼ばれる。Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)を総合的に学ぶことを表す言葉だが、IoTやAI、ロボティクスなど、これからの産業を推進していくために必要な論理的思考を多面的に学べる手法であるため、注目されている。

日本でも既に多くの民間の塾ではSTEM教育を取り込んだカリキュラムが展開されており、競争が激しくなってきている。

そうした塾に通わせる親として期待しているのは、スマートフォンやSNSを普及させたAppleのスティーブ・ジョブズやFacebookのマーク・ザッカーバーグのように、子どもがITで成功することだろう。

冒頭で挙げた「将来なりたい職業」としてITエンジニアが上位に居続けるような時代を作るためには、国、民間ともに子どもが夢を見られるような、職業観を作り上げることが必要と言えるだろう。

筆者:Fumiaki Ogawa (IoT Today)