諫山創さんの大ヒットコミック『進撃の巨人』(講談社・別冊少年マガジン)。2013年にはテレビアニメ化され、2017年4月からは待望の第2期を放映。2018年には第3期が予定されています。

作中にはタイトル通り「巨人」と呼ばれる、人の姿に似た巨人たちが数多く登場しますが、特に印象的なのが、コミック第1巻の表紙にもなった「超大型巨人」と言われる存在です。身長は推定60mと言われ、他の巨人たちよりも圧倒的に大きいことが作中では印象的に描かれています。

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その“超大型巨人”。推定60mの身長ということで、ネットでは足のサイズも度々予想されていますが、9m〜10mではないかという意見がもっぱら。実在すればかなり大きなサイズとなりますが、その足サイズとほぼ同じサイズをもつ“巨人伝説”が千葉県柏市に存在します。

2013年の進撃の巨人ブームの際に軽く話題となり、聞いてはいたのですがあまりに行きにくい場所にあるため、この数年すっかり忘れていましたが、第2期が最終回を迎えたこともあり、覚悟を決めて訪れてみました。

■巨人の足跡伝承地に行ってみた

今回の目的地は2か所。最初の目的地は東武野田線・逆井駅から徒歩15分ぐらいの場所で、280号線沿いの河川浄化施設の隣にある「厳島神社 俗ニ弁天様」(本当にこう書いてある)。



この場所に一体何があるかといいますと、厳島神社が鎮座する周辺のくぼみが「巨人の足跡(左足)」と言い伝えられているのです。

足跡の主は「だいだらぼっち」。全国各地に言い伝えがあるあの伝説の巨人「だいだらぼっち」です。地域ごとに呼び名が若干かわり「でーだらぼっち」「だいだらぼう」など様々な名前で呼ばれています。

柏市が公開する「柏のむかしばなし」によると、だいだらぼっちは昔、ここからやや北にある「東海寺(布施弁天)」の近くに住んでいました。身長は3mほどある大男で、気立ては優しく少しぼーっとしたところもあったのだとか。そんな大男ですが、村の人と仲がよく特に子供たちから好かれていました。

ところがある時、村に日照りが襲います。井戸は枯れかかり、作物も育たず村人たちは困ってしまいます。そんな時、だいだらぼっちはこんな夢をみました。「布施の弁天様をひとまたぎすれば雨が降る」と。しかし、周囲からは「そんなばちあたりなこと!」と叱られてしまいます。でも困った村人をほっとけないだいだらぼっち。村のために弁天様をまたぐ決意をして、ゆっくり歩きだしたところ、その身はぐんぐん大きくなりついに頭は雲をつきぬけ、歩くたびに地面が大きく揺れたそうです。

そうして弁天様をひとまたぎ。すると空に黒雲がたちこめ地に雨が降り注いだのでした。村人は久しぶりの雨に感謝し大喜びしたそうです。ただ……弁天様をまたいだだいだらぼっちはそこにはもういません。弁天様をまたいだ後、西の方にある筑波山にそのまま向かったとも、富士山をまたぎ関東平野をよこぎり筑波山へ行ったともいわれています。そしてその物語の最後では、市内に残る足跡について触れられているのです。

物語はここでおしまい。だいだらぼっちが立ち去った理由は物語に書かれていませんが、「神聖なものをまたぐという禁忌を犯したため」と考えられています。つまり、村からの追放覚悟でだいだらぼっちは村人のためにまたいだんですね。

そしてその伝説の足跡の一つが柏市逆井の「厳島神社」。足跡は他にも、布施の弁天様近くに右左の足跡があるとされ、左足はすでに埋められてしまい、対の右足は柏市宿連寺の「宿連寺湧水」じゃないかと言われています。

さて、話を本筋にもどすと、ここ「厳島神社」は県道280号線沿いに存在しますが、あまりに小さい神社のためつい見落としてしまいそうな存在感。看板も全く出ていません。
そして神社をかこむ堀には現在水は注がれておらず、草が生い茂っていました。神社を中心に堀は横長にあり、長さは目視で10〜12mぐらい。本当にこれが巨人の足跡なのか!?不安がよぎります。


そこで昔この場所はどうだったかを知るために、畑仕事に向かう途中の紳士に声をかけてみると、「え!?足跡!??わざわざきたの?」と驚かれつつ、今でも雨が降るとぐるりと水たまりができることがあると教えてくれました。また、「足跡」を示す看板は数年前まで手製のものが置かれていたそうですが、今は撤去されて特に何も置かれていないとのこと。ちなみに付近には井戸水を使う家がまだ多く残っており、さらに地域で共同井戸を管理しているところもあるんだとか。そのため、「水脈はあるはずだからたぶん(ここも)掘れば水が出るよ」というお話。もしかしたら昔は水がわき上がる、池の中の神社だったのかなぁ。そんな光景を思い浮かべてしまいました。

■対となる「右足跡」を追ってみた

そしてお次は、厳島神社の左足と対となる、右足の跡地へ。場所は280号線をそのまま約4キロ松戸方面に向かったところにあります。目的地は柏市東山の「イボ弁天」。

厳島神社からイボ弁天までは歩くと約50分。結構いい距離ですが、事前調査で二か所とも自転車かバイクくらいしか駐車できるスペースがないと知っていたので頑張って歩いてきました。

一旦逆井駅に戻る手もありますが、イボ弁天の最寄り駅が東武野田線・新柏駅になり、さらに目的地まで再び30分ほど歩くはめになるので、もしこの二か所を同時に訪れる場合には、おとなしく4キロの道のりを歩く方をおススメします。一応補足ですがこの地域をカバーするタクシー会社は「沼南(しょうなん)タクシー」。行きたいけど歩きたくない!という場合には、沼南タクシーさんを使ってみましょう。ただ「厳島神社」も「イボ弁天」も地域的にもマイナーらしいので、言っても知らない運転手さんが多いかもしれません。事前にある程度場所を調べてから、運転手さんに説明することをおススメします。

さて、50分歩きつづけて到着した「イボ弁天」。こちらは池の奥に弁天様の社が置かれています。池の水はわき水で「イボ弁天湧水」といい、中は濁ってよく見えませんでしたが何か魚が泳いでいるのがわかりました。


実はこの時、うっそうと茂っていて見落としていたのですが、後から調べると池の脇には「柏市教育委員会」の看板がたてられていたようです。それを紹介した光ヶ丘中部町会のHPによると、この池は長さ10mあるとのこと。そして「でーだらぼっちの右足跡」と言われ、対は逆井の弁天様(厳島神社)と紹介されています。つまり逆井の弁天様から一歩でここに足をついたそうです。雲の上に頭が飛び出る大きさの巨人ということなので、納得かもしれませんが、それにしても一歩がでかい!直線だと2.5キロほどが一歩ということになります。

現地に行った筆者の感覚ですが、形は本当に「足の形」をした池。本当はもっと近くで見たかったのですが、個人の方の私有地とのことで、立ち入り禁止。弁天様ももとは、初代の高橋源左衛門という人が氏神様として祀ったのが始まりなのだそうです。そして弁天様の社までは池の中に橋がわたしてありますが、入り口は厳重に鍵で封鎖され、この地主の方しか入れないようになっています。

また、ここは巨人の足跡伝説以外に「イボ弁天」という名のとおり、池の水が「イボにきく」という言い伝えがあるそうです。実際、昔は訪れる人があとを絶たず、イボができた!となると地域の方はこぞってこちらの水をいただきに来たのだとか。今では封鎖されて触れることはできませんが、一時はかなりにぎわったそうです。

それにしても10mの足跡。そうか、超大型巨人もこんなに大きいのかと思わず感動してしまいました。


なお、巨人の足跡と言われる場所は、先に紹介した布施弁天周辺、そして厳島神社とイボ弁天の他にも、柏市内にはいくつか伝承地があるそうです。今回は中でも有名な二か所を選択してみましたが、興味のある方はぜひ他の場所も探して訪れてみてください。

■謎多き大同二年

それにしても10mもの巨人の足跡……。ふとここで現実的な考えがよぎります。突然ボコッと穴があいたなら、それって陥没のあとじゃなの?本当に現地でそんなことを考えてしまいました。何らかの原因で陥没した後を、昔の人が「巨人の足跡」と勘違いしたのかな?なんて。

柏のだいだらぼっち伝説はいつの出来事か記録がありません。ただ、その後気になって調べてみると、物語の起こりである「東海寺(布施弁天)」の創建は大同二年(807年)になるそうです。

大同二年は平安時代初期。大地震に火山の噴火、さらには疫病流行に、諸国で洪水と何かと問題がおきまくっていた魔の9世紀ともされる時代の始まり時期でもあります。9世紀の出来事では869年に起きた三陸沖の巨大地震「貞観地震(貞観三陸地震)」は発生の内容から、東日本大震災との類似が指摘されています。富士山噴火に、大規模地震の発生。今から約1200年前の時代では、日本中がひっくり返るほどの大騒ぎだったことでしょう。

とはいえ、貞観地震より約62年前の大同二年にはそこまで大きな地震が起きた記録はありません。一応あるにはあるけど規模が不明です。ただ、この年には各地で数多くの寺社仏閣が創建されており、特に東北や四国に多いことがかねてより歴史や寺社仏閣ファンから指摘されています。

それにしてもこの年に何があったのでしょうね。気になるところですが、だいだらぼっち伝説から話を広げすぎてしまいました。そろそろおしまいにしますが、最後にだいだらぼっちが向かった先とされる富士山。そのふもとに鎮座する冨士浅間神社(東口本宮冨士浅間神社)は802年に起きた大噴火の鎮火祭跡地を大同二年に祀ったことが創建といわれています。さらに次の目的地、筑波山では僧侶・徳一が筑波山寺を開いています。やっぱりここでも大同二年。だいだらぼっちの正体は、その時々の何か災害と深くかかわりあっていそうな気がしてなりません。

(宮崎美和子 / 画像・編集部撮影)