「日本酒の衰退」から予測する、資産運用業界の未来

写真拡大

今日売れているからといって、明日も売れるという保証はどこにもない─。日本酒業界の勝者と敗者の動向から、生き残る金融機関を占えると筆者は語る。

今年4月、日本証券アナリスト協会が開催したセミナーで金融庁の森信親長官の講演があったのだが、この時の話の内容が業界界隈で話題をさらった。現状の資産運用ビジネスの構造的な問題点を赤裸々に指摘していたからだ。講演録は金融庁のウェブサイトで公表されているので、ぜひ読者諸賢にも目を通してみていただきたい(平成29年4月7日日本証券アナリスト協会国際セミナー「日本の資産運用業界への期待」)。
 
さて、ここから「日本酒」の話をしよう。いきなり何だ、と思われるかもしれない。しかし資産運用業界の問題点を考える上で、じつは日本酒業界のことが大いに参考になる。これは以前、新潟県の酒造メーカー「菊水酒造」の社長と話したときに確信したことである。
 
10年前、1週間に2回以上日本酒を飲む人、すなわち日本酒業界の上顧客は、ほとんどが60歳以上だったそうだ。60歳以下の世代が好んで飲んでいるのは、ビールや発泡酒、ワイン、焼酎である。
 
さて、仮にあなたが日本酒酒造メーカーの社長だったらどうするだろうか? 目先の売り上げを確保するならば、60代以上にウケる味わいにして、ネーミングやパッケージデザインも彼らが好むものにするのが賢明だろう。そこに顧客がいるからだ。
 
実際、多くの社長が目先の利益を確保しようと考えた。そうして10年経った後、どうなったか。日本酒市場は大幅に縮小し、倒産する酒蔵が相次いだのだ。最も大きな理由は、主要顧客だった60代以上の人たちが10年経ったら単純に人口として減少してしまったことにある。
 
当然ながら、新しく60代になった人はいる。ところが、10年前に当時50代だった人たちが60代になったら急に日本酒を飲むようになるかというと、飲まない。彼らが飲むのは依然としてビールや発泡酒や焼酎、ワインなのだ。
 
シニア世代の趣味嗜好は、その人が若者だった時の趣味嗜好をほとんどそのまま引っ張っていくものである。もちろん加齢による味覚の変化や趣味の変化はある程度あるのだが、たいがいは若い頃に好んで聴いていた曲を聴き、食べていたものを食べ、飲んでいたものを飲む。

金融業界の「明日の姿」
 
これは今後の日本の資産運用業界でも、そのまま当てはまる問題だ。現状ではまだ、金融機関は日本酒酒造メーカーのように破綻していない。というのも、”団塊の世代”の存在があったからだ。

団塊の世代までは「お金のことで困ったら、証券会社や銀行の窓口に行って相談する」という習慣が残っている。そのため、団塊の世代が一斉に退職すると莫大な退職金が金融機関に流れ込み、彼らが金融商品を購入する手数料で大きな利益を上げることができたのだ。これが一時的に本質的問題を隠していた。

だが、10年後には資産運用業界にも日本酒業界と同じことが起きると断言できる。

今の50代の多くの人々はお金のことで困っても大手金融機関の窓口には行かず、まずはインターネットで調べる。金融商品を購入するにしてもネット経由のほうが便利だし、コスト安であることを知っているからだ。

彼らが10年後、60歳になったからといって突然に窓口を訪ねるようにはならない。証券マンや銀行マンの電話や窓口の説明で投信を買う人たちは少数派となり、必要とされるのはプロフェッショナルな相談業務のできる本物のファイナンシャルアドバイザーだけ。それ以外はネット経由になっていく。

商品ラインアップも変わってくるだろう。例えば、今売れ筋の商品といえば毎月分配型投信だが、資産形成のための運用先として毎月分配型投信は不向きだ。退職金の受け皿として「現状は売れているのだからこれでいい」と売り続けるかもしれないが、そのやり方では10年は持たない。もっとシンプルで低コストの商品が求められるようになるだろう。