試合に出たくて「ウズウズしている」。それが世間を沸かせた「15番」の本心だった。

 7月3日、日本ラグビー界を代表するスター選手であるFB(フルバック)五郎丸歩が静岡・磐田市のヤマハスタジアムで行なった会見でのひと言。オーストラリアとフランスでの海外挑戦を終え、2シーズンぶりに古巣・ヤマハ発動機ジュビロに復帰するにあたり、五郎丸はチームのトップリーグ初優勝だけでなく、ふたたび「桜のジャージー」を狙う意欲も見せた。


これが五郎丸歩の新しい「ルーティン」のポーズだ

 五郎丸といえば、ラグビー日本代表の前指揮官であるエディー・ジョーンズ(現イングランド代表監督)体制の4年間、副将として57試合中52試合に出場するなど、常にチームを支え続けた「大黒柱」だ。2015年のワールドカップでは歴史的3勝を挙げた立役者のひとりで、ワールドカップ終了後は「五郎丸ポーズ」と呼ばれた忍者のように両手を身体の前で合わせる独特な構えや、キック時に毎回行なう動作「ルーティン」が話題を呼び、ラグビーブームの火つけ役となった。

 時の人となった五郎丸は、2015年シーズンの国内リーグを終えると、2016年はスーパーラグビーにレッズ(オーストラリア)の一員として参戦。さらに2016年シーズンは、フランス1部リーグ「TOP14」の強豪で世界各国のスター選手を集めた「ラグビー界の銀河系軍団」トゥーロンに移籍を果たす。しかし、言葉の壁やライバルとのポジション争いの前に、オーストラリアでは15試合中8試合(うち先発3試合)、そしてフランスでは36試合中5試合(うち先発4試合)の出場に終わった。

 世界で結果を残すことができなかった五郎丸に日本への復帰の声をかけたのは、早稲田大学時代の恩師で現在ヤマハの指揮官を務める清宮克幸監督だった。常々、LINEでコンタクトを取っていたという清宮監督は「いつでも帰る場所があるから、思いっきりやってこい」と見守り、トゥーロンとの契約が切れた五郎丸に「ふたたびヤマハでプレーしよう」と誘った。

 一方の五郎丸も「1年半、海外でラグビーをしていましたが、出場数がやはり少なかった。これ以上、海外にいると、どうしてもパフォーマンス的にもメンタル的にも難しい」との思いから、試合出場機会を求めて日本復帰を決めた。先発で試合に出場し、キックを蹴りながらゲームに入っていくスタイルの五郎丸にとって、海外でパフォーマンスを出し切れなかったことは想像に難くない。特にフランスでは、得意のプレースキックを蹴る機会は一度も与えられなかった。

 五郎丸は大学卒業後、2008年から2016年までヤマハに在籍し、会社の業績が悪化してプロ選手廃止となったときには社員選手にもなった。そして今回、ふたたびプロ選手としてヤマハに復帰する。その経緯を振り返り、「本当にラグビー選手としてヤマハとともに成長させてもらいましたので、私自身はヤマハでラグビー人生を終える覚悟でいます」と、サックスブルーのジャージーへの愛を貫く決心を語った。

 数少ない海外組の日本人ラグビー選手として世界に挑戦したことについて、五郎丸は「長い人生において悔いありません」とキッパリと言った。「海外の(トップ)選手と日常からバトルしたことは、自分のなかで財産になりました」と語り、インターナショナルレベルと肌で触れ合い、ポジション争いをした日々は、決して無駄になることはないという。

 トップリーグ初優勝を目指すヤマハの清宮監督は、ワールドカップなどインターナショナルな環境で戦ってきた五郎丸の経験値に期待を寄せている。

 昨シーズン、ヤマハは開幕から12連勝を達成し、12月24日に勝てば優勝をほぼ手中にするサントリーサンゴリアス戦を迎えた。だが、その大一番でヤマハは力を発揮できずに24―41で敗北。初のトップリーグタイトルを逃すこととなった。両チームのメンバーを見ると、ワールドカップ経験のある選手はヤマハ4名に対してサントリー8名と、個々の選手の大舞台における経験の差が出たことは否めなかった。

「あと1勝すれば優勝というところで勝てなかった。何かが足りないから勝てないわけで、五郎丸が何かを持ってくるかもしれないので、チームの雰囲気を変えてくれることを期待している。経験のある選手がセービングやタックルをしたり、ひたむきなプレーやベーシックなスキルに気を配ったりすると、いい影響を与えてくれるんじゃないかな」

 清宮監督がそう言うとおり、ヤマハにとって五郎丸の存在は「Xファクター(未知なる要素)」となる可能性も十分にある。

 さっそく五郎丸は、会見後に行なわれた練習で進化した姿を見せた。それは、プレースキック時の「五郎丸ポーズ」の封印だ。ジャージーの下を両手で引っ張る新しい「ルーティン」に変更され、キックティーもキックの蹴り方も変わっていたが、9本中8本をゴールに沈めた。

「みなさんにとっては(五郎丸ポーズは)重要かもしれませんが、僕にとっては重要ではない。キックティーやボールの置き方を変えただけで、体重移動は変えていない。(キックを蹴るときに)一番大事なのは体重移動で、トゥーロンではこういった感じで蹴っていました。今日はいい感じで蹴れました」

 また、海外挑戦中に考えていたことを、五郎丸はこのように語っている。

「海外でもひとりで『自主性』をテーマにやっていました。自分自身を磨くために、受け身ではなく、自分から掴みにいくという意識が変わった」

 たとえ出場機会が得られずとも、クサらずに毎日キックの練習を繰り返し、より高い成功率を求めてルーティンやキックの蹴り方を変えてきた、というわけだ。

 少し気が早い話かもしれないが、五郎丸がトップリーグで活躍すれば、ファンやメディアが待望するのは「桜のジャージーへの復帰」だろう。五郎丸本人は「自分に意志があるとかないとか、まだ言える立場ではないですが、まずはヤマハでしっかりとしたパフォーマンスを出して、また日本代表にふさわしい選手になれるようにがんばりたい」と控えめながら意欲を見せた。

 その五郎丸の言葉に対し、清宮監督はこう語気を強める。

「五郎(丸)が帰ってきて、ヤマハが(トップリーグで)優勝するシナリオが書ければ非常に美しい。ヤマハが日本一になれば、そのチームからふさわしい選手が日本代表になる」

 そして最後に、五郎丸は今の心境をこう語った。

「ワールドカップが終わって内側から湧いてくるものは、ちょっと少ない部分があった。ただ、海外に行ってまたフレッシュな状態で戻ってきたので、内側から湧いてくるものがたくさんある」

 8月18日、五郎丸にとって2シーズンぶりのトップリーグが開幕する。「2015年ワールドカップ時のパフォーマンス以上のパフォーマンスをしたい」。日本に復帰した五郎丸は、いつになく雄弁だった。

 パスやランを多用する「新ヤマハスタイル」というスローガンを掲げ、トップリーグ初制覇を目指すヤマハで、五郎丸は新しい姿を見せることができるか――。身体の強さや代表キャップ67を誇る経験値は色あせることなく、ジェイミー・ジョセフが率いる現在の日本代表にも欠かせない要素となろう。

 トップリーグでの活躍の向こうには、ふたたび桜のジャージーとワールドカップが待っている。

■ラグビー 記事一覧>>