サガン鳥栖は、5月27日に行われた対札幌とのホーム戦で、こんな企画を実施した。

「値段のないスタジアム」

 入場料を支払うのは試合を見終わった後で、値段は観戦者自身が満足度に応じて決めるという仕組みだ。当日、取材に行ったわけではないけれど、思わず拍手を送りたくなるハイセンスな企画だと思う。

 鳥栖スタジアム(ベストアメニティスタジアム)の収容人員24500人に対して、集まった観客は14416人。対象である2000円から3700円の席に5620人が集まり、出口に設置された料金箱には4,568,215円が集まったそうだ。

 1人平均にすると812円。微妙な数字だ。相手が下位の札幌で、スコアが1−0だったとはいえ、もう少し集まってもよかったかなという気はする。

 監督、選手は、満員の雰囲気が忘れられません。『満員のスタジアム』でもう一度戦いたいという選手の願いを叶えてくださいーーとは、クラブのHPに掲載されていた文言だが、目的が集客だけにあったとは思えない。
 
 いわゆるファンの顧客満足度について、クラブ側は常に気を配っている。よい観戦環境を提供しようと心がけている。これは、そうした宣言を同時にしたも同然なのだ。単純に、現場で見て面白いか。来てよかった、また来たいと思ってもらえたか。

 善し悪しの基準となるものに成績がある。成績とファンの満足度は概ね比例関係にある。この日、1−0だったスコアが、2−0なら812円は1000円を越えていた可能性がある。

 スタジアムも大きな要素を占める。見やすいか。見にくいか。快適空間か否か。鳥栖のスタジアムのレベルは高い。なにより上階の視角、眺望がいい。さらに言えば、アクセスもいい。収容人員がさほどではなく、代表級の国際試合ができるレベルにはないので、4つ星、5つ星スタジアムとは言えないが、知る人ぞ知る通好みの3つ星スタジアムという感じだ。

 とはいえ、毎度、足を運ぶ地元民は慣れっこになっているので、そのあたりのありがたみは伝わらない。他との比較で初めて浮き彫りになる感覚なので、そのためには全国を飛び回る必要があるが、ファンの立場でそれができる人はそう多くいない。

 さらに、サッカーそのものの中身も、満足度を推し量る上で重要なポイントになる。面白いか否か。しかし、これも相手あってのもので、相手との噛み合わせが悪ければ、いくら攻撃的でもサッカーが面白くなる保証はない。

 そもそも、面白いか否かはサッカーの場合、レベルに関係しない。レベルが高くても、面白くない試合もある。一方で、レベルが低くても、例えば少年サッカーの試合でも、思わず引きこまれる好試合がある。それがサッカーだ。

 7月2日に行われたJリーグ、柏対鹿島(2−3)は、上位対決に相応しい好試合だった。舞台となった柏日立サッカー場も盛り上がり、大岩剛、下平隆宏両監督とも、試合終了後の監督会見で、試合がよい雰囲気の下で行われたことについて言及した。

 この試合が「値段のないスタジアム」なら、観客は試合後、料金箱に一体いくら支払っただろうか。特に知りたいのは、試合に敗れた柏ファンの評価だ。その満足度がいかほどだったか知りたくなる。

 サッカーはまずまず攻撃的で、鹿島との噛み合わせもよかった。試合内容はよかったのに、敗れた。結果は出なかったが、エンタメ度は高かった。さすがに鳥栖と同レベル(812円)ということはないだろう。

 観衆は13945人。スタジアムの定員は15349人とあるが、スタジアムはすし詰めで、立錐の余地がなかった。鳥栖対札幌(14416人)より、観衆は少なかったわけだ。スタジアムの器が小さいために。

 鳥栖のスタジアムと同様にサッカー専用でもあるので、見やすいことは確かだ。臨場感も楽しめるが、両監督が触れたスタジアムの雰囲気は、小さいが故に生まれた産物だった。もう少し大きなスタジアムで見たい試合。より多くの観衆の前で行われるべき試合でもあったのだ。サッカーのレベル的に言えば。