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●文房具として浸透しているiPad

文部科学省は、教育にICT技術を採り入れるよう各機関に呼びかけている。たとえば、ICT端末を一人一台に所持させるようにしたり、小学校からプログラミング教育を促したりするようにだ。この文科省の意向はどのように教育現場に届いているのか。

ある機会を得て、東京・品川女子学院の授業を見学させていただいた。過去にも何校か、ICT機器を活用した授業を拝見させていただいたことはある。それぞれ、学校の工夫や先生の熱意が伝わってくる授業内容だった。だが、品川女子学院といえば、早くからiPadを授業に取り込むなど、しばしばメディアに紹介される学校法人だ。どれだけ“サイバー”な教育環境なのか、興味深く授業見学におもむいた。

○昔ながらの教室でデジタルデバイスを活用

教室に案内され、足を踏み入れてみると、意外というかホッとするというか、普通の教室だった。正面には昭和さながらの黒板が立てつけられ、その右上には白い文字盤に黒い短針・長針・秒針を備えた昔ながらの丸い時計が掛けられていた。極端なハナシ、数十年前の昭和時代に学生だった筆者の教室環境と大差ない。ひとつ違うのは、教室の左隅に40〜50インチクラスのディスプレイが備えられていること。この大きさのディスプレイは、当時、視聴覚室にしかなかった。

だが、授業が始まってみると、昭和さながらのクラスルームの風景は、平成のソレへと変わった。雰囲気を一変させたのはiPadの存在だ。各生徒の机の上には、教科書、ノート、筆記用具のほか、iPadが用意されている。

しかも、各自のiPadが画一的ではなく、個性的なのに気づいた。それは、iPadかiPad Proかといった機種の違いのほか、カバーやスタンドがまちまちなこと。ピンクだったり水色だったり、オレンジだったりと、各生徒が好みのオプションを取り付けている。学生時代、筆箱は好きなモノを持ち込めたことを思い出した。品川女子学院の彼女たちにとって、iPadはすでに、筆箱と変わらない“文房具”の一種になっているのかもしれない。

そして、見逃せないのが数十台のiPadが同時に活用されていること。これは、複数のデバイスが接続できる無線通信環境が整っていることを表している。

●iPadを導入しても紙のノートが主役

さて、授業風景をレポートしよう。見学させていただいたのは、4年生の数学の授業だ。4年生とはいっても小学校ではなく、中高一貫の女子校であるため、一般的には「高一」と呼ばれる世代だ。

指導するのは学年主任の白石賢佑教諭で、授業の開始と同時に「iPadの授業用ノート2ページ目を開いてください」と指示すると、各自が指示されたページを開く。この際、先生のiPadには、MetaMojiの「ClassRoom」というアプリにより、各自のページを確認でき、勉強の進捗状況をチェックできる。仮に、紙のノートで同じことをするとなると、生徒たちからノートを集め、先生が当該カ所を調べる必要がある。下手をすれば、これだけで授業時間の大半を消費してしまう。

ただ、印象的だったのは、iPadを使うのは授業の一部分だけで、基本的には黒板に先生が図や式を書き、それを生徒たちが写し書くというスタイルを取っていたこと。「自らの手で書くことが勉強には大切」と白石先生は話す。とはいえ、デジタル機器の利便性も、授業に活用している。

○デジタルデバイスはあくまで補助機器

たとえば、黒板に書いた図を「1分で書き取りなさい」と指示した際、どうしてもその時間内に書き取れない生徒も出てきてしまう。その場合、iPadのデジカメで撮影することを許すという。「黒板を撮影するのは、あくまで許可したときだけです。基本的にはノートにペンで書くということにしています」(白石先生)。これは、インタビューに同席してくださった中山遥子教諭も同意見で、許可したとき以外に写真撮影はさせないという。デジタルばかりではなく、アナログの勉強法を重要視した授業といえよう。

●グループワークで“協働性”を高める

さて、白石先生の授業風景に戻ろう。数学といえば、先生が黒板に図や式を書き、それを生徒たちがノートに書き写す“スクール形式”の授業をイメージする。ところが、白石先生は授業の後半、生徒たちをグループ分けして出題をした。各グループ内で生徒たちが協力しあって問題を解くという寸法だ。文科省は“思考力”“判断力”“表現力”を育てるような授業を推進しているが、“協働性”についても重要視している。

このグループワークは、数学の授業とは思えないほど、生徒たちが生き生きしていた。それぞれiPadの画面を見せ合ったり、ClassRoomで画面を送受信したりしているのか、課題を共有した“学び”を楽しんでいた。印象的だったのは、終業のチャイムが鳴ったとき。すでに課題を解いていたグループは談笑していたが、“解”にたどりついていないグループは、なんとか解こうとがんばっていた。だが、無情にもチャイムは鳴る。

「えぇー!」「ウソ!?」といった声が、各グループからあがった。これこそ、授業に集中していた、いや、授業を楽しんでいた証拠といえよう。近年、アクティブ・ラーニングの重要性が高まっているが、“能動的に学ぶ”というのが基本。まさに、その現場をみた気がした。

○AI英会話アプリの試験導入も検討

さて、この品川女子学院に新しい動きがあった。それは、トークノートとジョイズが共催した「ICT教育の最前線事例に関する記者発表会」においてだ。これは、品川女子学院や聖徳学園、島根県・松江市、DeNAといった学校法人、自治体、企業などが、教育についての取り組みを紹介するというもの。

この席で品川女子学院は、AI英会話アプリ「TerraTalk」を試験導入するとリリースした。導入は夏休みに予定されているので実際の環境を拝見することはできなかったが、ICT教育に関して同校が積極的なのがわかる。ただ、TerraTalkの試験導入と、それまで取り組んできたiPadの導入は、若干性格が異なるかなと感じた。

前者は、英語を学ぶという目的が明確で、学力の純粋な向上を目指したものといえる。一方、後者は社会に出たときに、デジタルデバイスを柔軟に扱えるような素養を身につけさせるのが主目的なのかなと感じた。いずれにせよ、ICT教育に対する同校の積極さが、伝わってきたことは確かだ。