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ケータイ西遊記 -第15回- ポルトガル/リスボン編

携帯電話研究家・山根康宏が、世界各地でお宝ケータイに出会うまでの七転八倒デジタル放浪記。

「山根康宏のケータイ西遊記」連載記事一覧

【ポルトガルで気になったケータイ】



ファーウェイ

Y201 Pro

販売価格(当時):89.90ユーロ

ファーウェイ『Y201 Pro』は、当時ポルトガルだけではなく、欧州各国で売られていたプリペイド格安スマホ。ポルトガルで購入すると、1カ月間使用できるデータ定額SIMも付属していた。

大航海時代を思わせる

リスボンの街並み



ヨーロッパの各都市へ行くと今でも道路は石畳のまま、レンガ造りの古い建物が並んでいる光景を目にすることが多い。時代が変わっても街の景観になるべく手をくわえないという考えは、ヨーロッパならではのものだろう。

ポルトガルの首都、リスボンを訪れた時はその考えに深く感銘したものだ。陶器が壁一面に貼られた建物や、そこから馬車が出てきそうな門構えの建屋などは、今まで訪問した他の都市には見られないものだった。歴史の教科書に出てくる「大航海時代」、そんな太古の昔にタイムスリップしたような光景が目の前に広がっていた。



▲タイルを貼り付けた建物が目立つのはポルトガルの特徴だ。

しかも道路は狭くほとんどが坂道で、街歩きをしようと思うと建物が迷路のように入り組んでいる。携帯電話屋を探そうとグーグルマップを頼りに歩いていても、1本道がずれていると坂道を登りなおさなくてはならないなど一苦労してしまう。そんな狭い坂道を一両編成の小さな路面電車がブレーキ音をきしませながら下っていく。

リスボンを訪問したのは2月。夜6時を過ぎると暗くなり、気温も10度を切り肌寒くなってきた。これは早めにホテルに戻ってベッドの中にもぐりこみたくなる。しかしなかなか携帯電話屋を探せなかった自分は、このまま宿に戻るつもりは無かった。なぜならリスボンには、夜中までやっているショッピングセンターがあるからだ。

深夜の店に彼女と二人

甘い香りで恋に落ちた



コロンボショッピングセンターはポルトガル最大規模を誇り、深夜24時まで営業している。携帯電話やキャリアの店があるのでスマホを買うこともできる。自分は夜22時すぎに訪れたが客の数は多く、まるでアジアの歓楽街に来たような感さえ覚えた。

わくわくしながら中に入り、何か1台スマホを買おうと関連の店を片っ端から回ってみた。残念ながら掘り出し物は見つからなかったが、夜遅くに携帯電話屋巡りをできるだけでも楽しかった。気が付けば閉店時間まであと30分、ファーストフード店で一服してからホテルに帰ることにした。

何を注文しようかとカウンター上のメニューを見ようとしたところ、自分のすぐ横を甘い香りが駆け抜けていった。その方向を見ると、黒髪の女性がテイクアウトした小袋を持って店を後にしていくではないか。しかも彼女の来ているシャツには携帯電話メーカーのロゴが描かれている!

気が付けば自分は無意識のまま彼女の後を追っていた。そして彼女は家電量販店の中に入るやフロアに立ち接客を始めた。メーカーのプロモーターなのだろう。年齢は30代前半だろうか? 閉店時間前のためかやや疲れの見える表情だったが、そのそぶりを見せまいと満面の笑みを作りながら、来客を待っている姿にキュンとしてしまった。

意を決して彼女に近づくと、アジア人が珍しいのか英語でハローと大きい声で話しかけてきた。ふと周りを見ると家電店内に他に客はおらず、彼女と二人っきりでいるような状況だ。

「リスボンに1カ月いるのでスマホを買いたい」とウソをつきアドバイスを求めると「仕事? 食事はどうするの? 観光にもいくの?」など接客とは関係ないことを次々と聞いてくる。もちろん単に珍客であるアジア人の話が聞きたいだけだろう。しかし自分の返事に大きいジェスチャーで応える姿を見ると、自分に興味を持っているかのように思えてしまう。さらに閉店時間を気にしてか時計をちらちらと見ているのだが、それは「このあとどこかに行きませんか?」と誘っている仕草に思えてしまうのだ。

このまま永遠に雑談を続けたかったが、24時になると彼女は「また明日来てね」というと足早に従業員出口へと向かっていった。しかし途中で足を止めてこちらに振り返り、手を振ってくれたのだ。その場には残り香だけがほのかに漂っており、まだそこに彼女がいるかのようだった。このまま目を閉じていれば自分の恋心に火が付いたかもしれない。だが、やってきた警備員の「もう閉店だよ」という言葉で現実に戻された。リスボンの夜は30分間だけの甘い思い出を残してくれたのである。



▲ファーストフード店でポルトガルっぽい料理を堪能。



▲フライト時間を変えて彼女にもう一度会いに行くべきだっただろうか。

文/山根康宏

やまねやすひろ/香港在住の携帯電話研究家・ジャーナリスト。世界の携帯電話事情を追い求め、1年の約半分を海外で過ごす。携帯電話1500台、SIMカード500枚以上を所有するコレクターでもある。

※『デジモノステーション』2017年8月号より抜粋