2017年、東京での“当たり前”な出会い方。

それはお食事会でも“友人の紹介”でもなく、デーティングアプリだ。

しかしオンライン上での出会いに、抵抗感を示す人は未だ少なくない。今まで難なく自分の生活圏内で恋人を探してきた男女なら、尚更のことだ。

商社で秘書として働く、桃香(30)もその内の一人。

―デーティングアプリって流行っているみたいだけど、私には必要ないわ。

そう思っていたある日のこと、憧れの先輩・奈緒が「いいね!」していた「東カレデート」をダウンロードする。

大好きだった元彼に新しい恋人ができたことを知り、桃香も「東カレデート」で知り合った外資系投資銀行勤務の秀一と会うが、私服を見て幻滅してしまう。





「同時進行でメッセージするなんて、普通ですよ」

マッチングアプリを使いこなす茜のアドバイスに従って、桃香は「東カレデート」に来ているメッセージを改めて確認した。

少し見ていない間に、メッセージはいつの間にか26通も溜まっている。その画面をスクロールしながら、桃香は大きく溜息をついた。

「こんなにたくさんメッセージが来てるのに、ピンとくる人が全然いない……」

初めは相手のスペックしか分からないため、メッセージの一通一通がとても重要になってくる。

それなのに、大抵桃香の元に来るメッセージは、こんな感じだった。




「数打てば当たる」と思っているような、当たり障りのないメッセージに、返す気力はなかなか湧かなかった。

しかし桃香の周りの友人たちは、マッチングアプリで次々と恋人を作っている。

桃香は自らを奮い立たせ、メッセージをくれた人のプロフィールを一人ずつ確認した。その中で気になる3人をピックアップし、返信してみることにした。


3人との同時進行メッセージ。一体どうなるのか?


その3人は、経営者、医者、会社員の3人だ。一番気になるのは経営者だが、メッセージが来ていたのが1週間前だったので、返信しても遅いかもしれない。

とりあえず桃香はそれぞれに、同じメッセージを返信してみる。




するとすぐに、医者から連絡が来た。




その男は、やけに返信が早く、立て続けにメッセージが届く。




何と返していいか、分からず戸惑っていると、さらにメッセージが届いた。




いきなりの“ちゃん”づけに、桃香は戸惑った。

「マイペースな人だわ……」

結局、彼のメッセージには返信しなかった。

会社員の男とも何通かやり取りしたが、当たり障りのない会話で終わってしまう。




そんなメッセージに返信するのが、億劫になってしまった。

初対面の人と交わす当たり前の会話も、メッセージだとなかなか熱がこもらない。

「うまくいかないわね……」

せっかく張り切って3人とメッセージしたのに、手ごたえは全く感じなかった。



その後も、メッセージを続けたいと思う人はなかなか現れず、「東カレデート」への熱はすっかり冷めてしまっていた。

今日は、「ゼロ次会」のメンバーで、女子会の予定だった。店は、恵比寿の『チーナ ニューモダンチャイニーズ』。

人気焼肉店を展開する『うしごろ』が手がけたこの中華料理店は、以前から一度来てみたいと思っていた店だった。

味もさることながらインスタ映えするフォトジェニックな料理に、桃香たちは心を奪われた。




お互いの近況報告が終わり人心地つき、ペアーズで出会った彼と順調そうな亜美が、桃香に最近の恋愛事情を尋ねてきた。

「それで、桃香は最近どうなのよ?」

するとその言葉に、茜が反応した。

「桃さん、あのあと『東カレデート』で、良い人いました?」


アプリ使ってるって、ばれちゃった!(汗)


「え?桃香も始めたの?」

亜美が驚いた表情で、桃香を見る。亜美には、「東カレデート」を使っていることを言っていなかったのだ。

「そうなんですよ、桃さん、アプリでもモテモテみたいですよ」

茜は、ニコニコしながらそう答えた。周囲には出来る限り隠しておきたかったが、こうなってしまったら、仕方ない。

「……そうなのよ」

蚊の鳴くような声を振り絞った。



「それでね、3人の人と同時進行でメッセージしたんだけど、どれもうまくいかなくて……。なんかこう、しっくりこないのよ」

結局、桃香はこれまでの経緯を全て白状した。「運命の人だ」と思った秀一とデートしたがしっくりこなかったこと、その後複数人とメッセージしたがどれもぴんと来なかったこと。

するとそれを聞いていた亜美がこう言った。

「桃香、プロフィール画面、見せてくれる?」
「えっ……」

桃香は全て白状してしまった勢いで、亜美にプロフィール画面を見せた。




それを見た亜美は、きっぱりこう言った。

「桃香、このプロフィールはちょっと“残念”な感じ」
「えっ……?どういうこと?」
「桃香は美人だから、写真見たらいろんな人からメッセージくると思うけど“趣味がバレエと料理です”だけじゃ、男の人は突っ込みづらいじゃない」

その指摘に少しむっとして、桃香はこう言い返した。

「じゃあ、どうすればいいの?」

すると、亜美はこう答えた。

「今ハマってることを、具体的に書いてみればいいんじゃないの?例えば料理だったら、中華料理を作るのにハマっています、とか。それだったら、“僕も中華料理好きなんです”とか、相手を知る“きっかけ”を作れるじゃない」

その回答は、たしかに的確だと認めざるを得なかった。

自分は相手を“選ぶ側”だと思っているので、どうしても「たくさん来た中から選べばいいや」という気持ちで、細部まで注意が行き届かなかったのだ。

「なるほどね…」

桃香はそう言って、コースの最後に来たデザートを口にした。



帰宅した桃香は、早速そのアドバイスに従いプロフィール画面を書き変えた。男性たちのプロフィールを見て好感をもった言い回しも真似てみる。




プロフィール編集の「完了」ボタンを押し、桃香は再び「東カレデート」を使い始めた。

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プロフィールを変えた桃香に、新たな出会いはあるのか?