なぜ?低失業率なのにインフレの兆しなし 不思議な日本の状況、海外識者が解説

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 日本の5月の有効求人倍率(季節調整値)が1.49倍となり、1974年2月以来、43年ぶりの高さとなった。人手不足になれば賃金と物価が上がると説いてきた日銀だが、ここまで来ても2%のインフレターゲットが達成される兆しは見えていない。「失業率が下がればインフレになる」というこれまでの法則が日本経済に当てはまらない事情を、海外識者が考察している。

◆教科書通りの「失業率低下でインフレ」にならない日本
 フィナンシャル・タイムズ紙(FT)は、新データは日本経済が順調に成長しフル稼働に近いことを示すと述べる。しかし、5月の消費者物価指数(CPI)は昨年同月比で0.4%増と4月と変わらず、生鮮食品およびエネルギーを除くCPIは1年前と変わっていないことから、国内で生産された製品やサービスの価格の上昇傾向はいまだないことを意味していると述べ、日銀はインフレ目標達成に苦闘しているとする。

 グローバル資産管理会社GAMのラリー・ハザウェイ氏は、失業率が改善すれば、力のある経済においては労働者の需要が増え物価が上がるため、結果としてインフレになると主張した経済学者ウィリアム・フィリップスの「フィリップス曲線」が、日本においては間違いなく崩壊してしまった、と述べている(ビジネス・インサイダー誌)。

◆だぶついた正社員は削減へ。労働生産性改善で賃金アップ
 経済・投資サイト『Value Walk』に寄稿した経済ライターのルパート・ハーグリーブス氏は、失業率が改善してもインフレが起こらない理由は、賃金の伸びが停滞しているからだと述べ、4月の名目賃金が前年比でわずか0.5%のプラスだったとし、好調だった1980年〜1990年の4%の賃金上昇に比べ、かけらほどでしかないと述べている。同氏は、創出されたほとんどの雇用は一時的なもので賃金が低く、とても日本の経済的繁栄に再び火を付けることにはならず、賃金上昇に伴い企業業績も上がるのでは、という投資家の日本経済への期待に冷や水を浴びせてきたとしている。

 しかし今、人手不足を受けて、正社員の有効求人倍率も0.99と記録的な水準となっている。FTは、これは今後すべての求職者に、福利厚生や雇用の安定が与えられる正規の職があることを暗示すると述べ、非正規やパートが増えたここ数十年からの転換期がやってきたとしている。ただ現状、企業側は賃金アップではなく、むしろ待遇改善で人手不足に対応していると指摘している。

 上述のハーグリーブス氏は、オーストラリアのマッコーリー銀行のレポートを紹介し、どうすれば賃金が上がるかを説明する。同銀のアナリストたちは、日本の賃金が上がらないのは、活用されていない正規社員が多いからだと述べる。雇用のだぶつきは日本の正規労働者の10%以上に相当すると推定しており、これらの余剰人員が「現在は非中核の子会社に吸収されている」と説明している。よって彼らが退職し、働きの悪い社員が締め出されることで、資本効率と労働生産性が改善し、その結果次の10年には、労働人口は縮小しても、「高い資本利益率と高い実質賃金」につながり、日本株にとっても中長期的な強気材料となるとしている。

 同銀は、日本では1982年〜1992年にかけて正規従業員が過剰に採用されたが、新卒で採用され給与の高い彼らが、退職年齢に近づきつつあると述べる。日本企業は利益を犠牲にしても雇用を守る傾向があるため、余剰人員カットには時間がかかる。しかし、短期的には人手不足の労働市場には朗報とは言えないが、これまでのシステムと余剰から抜け出すことは、長期的には成長に必要だとレポートは指摘している。

◆アメリカも日本に追随?収入よりも安定を
 GAMのハザウェイ氏は、実はアメリカの失業率もこの16年間で最低となり、インフレ率も行き詰まりを見せていると述べ、日本同様フィリップス曲線が当てはまらなくなっているようだと指摘する(ビジネス・インサイダー誌)。

 同氏は、ミシガン大学が調べている1年先の期待インフレ率は金融危機から低下を続けていることを上げ、インフレが落ち着いてしまうのは、長期のインフレ期待が落ち着いているからだと主張する。労働者はインフレが加速するとは思っていないので、必ずしも高い賃金を求めない。それどころか、金融危機からほぼ10年が経過した今でも、労働市場の不安定化を感じる人々がおり、収入増よりも雇用の安定を求める心理が、賃金上昇の足を引っ張っているという見方を示している。

 日本はある意味独特で、この25年間日本の状況は他国の参考にならないと見られてきたという同氏は、アメリカの現状を踏まえ、今後はその考えを変える必要があると述べている。