店先の焼き場から味噌おでんの甘い香りが誘惑する「のんき屋」

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高層ビルが立ち並ぶ名古屋駅東側。駅から10分ほど歩けばたどり着く「のんき屋」は、周囲の都会的な景観とは明らかに異質な、昭和がそのまま残されたようなたたずまいで営み続けている。多くの地元民に支持されていることはもちろん、出張で名古屋を訪れる県外の人の中にもファンは少なくない。

【写真を見る】八丁味噌とザラメで煮込んだおでん。大根、豆腐、玉子など8種類から選べ、いずれも各120円

■ 食べた人を魅了する、甘味と旨味のコンビネーション

この店を代表する人気メニューのひとつは、店頭でグツグツと煮られ、周囲に甘い香りを漂わせているおでん。味付けは八丁味噌とザラメだけというシンプルさ。口に入れればザラメの甘さが強烈に感じられ、すぐに八丁味噌の深みある甘さと旨味が続く。甘いという方向の強い味付けであるのは間違いないが、口中の甘さは後を引かず、すぐにもうひと口食べたくなる。ほかの何とも似ていない不思議な食体験である。

続く看板メニューは「とん焼」。焼き場で丁寧に焼き上げる豚のホルモン「テリ」「塩」「辛」の3種類から味を選ぶ。今回オーダーした「テリ」は、ねっとり絡みつく甘辛いタレで味付けされている。ビールやハイボールといったスッキリするアルコールのお供に打ってつけの1品だ。

揚げたての串かつも人気だ。テーブルにはあらかじめウスターソースの注がれたバットが置いてあり、これは串かつ用である。衣に包まれた豚肉から感じられるのは、たっぷりの脂身の旨味を伴う甘さだ。なお、ソースはテーブルを同じくする客で共有する。せっかくの揚げたてが冷めないよう、サッとソースに漬けたらすぐ口へ運びたい。

■ 和気あいあいの異質な空間

先に紹介した、グツグツと煮込み続けられているおでんの鍋。実は串かつの味わいを広げる調味料としての役割もある。慣れた客は串かつを持っておでん鍋まで歩み寄りセルフサービスで鍋に漬ける。名古屋名物の1つ、味噌串カツの完成である。「注文の時に漬けといてって言ってくれれば、味噌に漬けてから出すよ」と話すのは、店主が「せがれ」と呼ぶ茂雄さんだ。

茂雄さんは「やらなきゃいけなくなって、真面目にやってたサラリーマンを辞めて戻ってきたのよ」と話す。のんき屋の創業は1954(昭和29)年のこと。茂雄さんが生まれたときには既に家業だったものの、茂雄さん自身は継ぐつもりがなく、結婚式場などで働いていたそうだ。「今で言うウェディングプランナーみたいなこともやってたね」と茂雄さん。店を手伝うようになって7、8年ほどだという。なお、妹もいるらしいが、嫁いでいるため滅多なことがない限り助けを求めないらしい。今も店先に立つ3代目店主の逸子さん、茂雄さん、そして若い社員2名で、取材当日は店を回していた。

今年73歳という逸子さんは今も元気に接客を担当している。客が来店すれば人数を聞き、席へ案内するのは主に逸子さんだ。長テーブルの端から詰めるように客が案内されていく様子を見ていると、まるで積極的に相席ができるよう促しているよう。そうして知らない人同士が隣り合わせになって、少し経てば友人のように笑いあっていることが多い。昭和時代の酒場ってこういう雰囲気だったんだろうな、と感じられた。

■ 「立ち飲み」ならぬ「みち飲み」も特徴

店内はお世辞にも広いとは言えず30席ほど。この席数ではのんき屋の味を求めるニーズには到底足りないのだが、それを解決しているのが「立ち飲み」ならぬ「みち飲み」だ。歩道に面した焼き場前には小さなカウンターがあり、着席できなかった客はここからオーダーし、ギリギリ店の敷地内で飲み食いする。名古屋では珍しい屋台風の光景だが、地元の人にとっては見慣れた景観だ。腰を落ち着けず、少しだけ飲んで食べてサッと退店する0次会のような使い方でも、このスタイルは好まれるらしい。なお、食べ物のテイクアウトだけでも利用できる。

入口すぐに置かれた冷蔵庫にはさまざまなアルコールが置かれているのだが、常連客のなかにはオーダーを省略し、欲しい飲み物をセルフサービスで取り出して飲み始めることも多いらしい。「慣れた人は自分で持っていくね。最後に空いた缶や串で会計するのよ」と茂雄さん。この程よい曖昧さも店の持ち味なのだろう。この、のんき屋の味と雰囲気は、ほかの店にはない隠れた名古屋名物の1つだと言える。【東海ウォーカー/加藤山往】