北朝鮮は世界でも珍しい移動の自由がない国だ。市や郡の境を越えるには旅行証、つまり国内用のパスポートが必要になる。旧ソ連のシステムを手本にしたものだが、本家本元より遥かに厳しい。

さらに当局は、何かにつけて移動禁止令を敷き、旅行証の所持者までも他地方への移動を禁止し、宿泊検閲(民家に住人以外の人が泊まっていないか確認する作業)を行うが、社会に与える影響が大きいせいか、長期間続けることはなかった。

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ところが、今年は様子が違うようだ。4月初旬に中朝国境地域に出された移動禁止令が未だに解除されないというのだ。

両江道(リャンガンド)の情報筋によると、政府は今年4月初め、太陽節(金日成主席の生誕記念日、4月15日)に向けた警備強化を理由に、住民に対して移動禁止令を出した。

ところが、太陽節を過ぎると今度は韓国との間で軍事的な緊張が高まっているとの理由で移動禁止令を延長し、6月に入ってからは農村動員と干ばつを理由に延長した。そして、農村動員が終わった6月20日から故金日成主席の命日の7月8日までを、特別取り締まり期間に設定し、移動禁止令をさらに延長した。

しかし、いずれの延長も本当の理由は明らかになっておらず、情報筋も把握していないようだ。

当局は特別取り締まり期間初日の20日に、恵山(エサン)駅周辺で抜き打ちの宿泊検閲を大々的に行い、出張の目的が不明確な兵士20数人を逮捕した。

情報筋は取り締まりの対象となった家について触れていないが、おそらく列車待ちの乗客を泊める「待機宿泊」、つまり民泊だと思われる。通常ならワイロで済ませられるが、大量の逮捕者が出ているところを見ると、容赦ない取り締まりが行われていることがうかがえる。

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一方、西隣の慈江道(チャガンド)でも大々的な宿泊検閲が行われている。

現地の情報筋は「昼間の山崩れ防止工事と畑の水入れ作業に動員され疲れ切っているのに、寝入りばなに宿泊検閲の係官がやってくるものだからろくに眠れない」と不満を爆発させた。

「農村動員が終われば移動ができるようになると楽しみにしていたのに、来月8日まで延長された。7月になればまた別の理由で延長するのではないか」(情報筋)

軍需工場が密集している慈江道は、普段から移動が厳しく制限されており、よそからのモノやヒトが入りにくい地域だ。それに加えての移動禁止令で、物流も資金も滞り、市場の営業時間が午後4時から9時までに制限されたことで、庶民も中産階級も激しい不満を抱いている。

「早いうちに市場を開放して、住民の移動を許可しない場合、金正恩への住民の不満が高まるだろう」(情報筋)

両江道、慈江道と同じ中朝国境に面した咸鏡北道(ハムギョンブクト)の茂山(ムサン)では4月中旬、脱北目的で国境の川を渡ろうとしていた7人が国境警備隊員を殴って逃走する事件が起き、当局は移動禁止令を敷いているが、今回の移動禁止令と関連があるかは不明だ。

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