1990年作品(108分)/松竹/2800円(税抜)/レンタルあり

 先週に引き続き、今週もテーマは「熊」である。

 我が国で記録に残る熊害の中でも最も悲惨なのは、一九一五年十二月に北海道で起きた通称「三毛別羆(さんけべつひぐま)事件」。二日にわたって開拓村を襲った羆により、妊婦を含めた七名が食い殺され、三名が重傷を負った事件だ。体長約三メートル、体重約四〇〇キロという巨大な羆は、最終的にマタギたちの討伐隊の手により数日後にようやく射殺できている。

 惨劇の全容は『慟哭の谷』『羆嵐(くまあらし)』といった優れた書籍で克明に描かれてきたが、映画化はこれまで一度しかされていない。その貴重な作品が、今回取り上げる『リメインズ 美しき勇者たち』だ。

 千葉真一が盟友・深作欣二の協力を得て自ら初監督、千葉の育てた真田広之らJACの面々や菅原文太・夏八木勲・蟹江敬三といった信頼する名優たちをキャストに配して、壮大なスケールで事件を追っていった作品である。

 ただ、この座組だとつい「JAC勢がその技術と身体能力を存分に駆使して巨大羆と死闘を繰り広げる、息詰まるアクション大作」を期待してしまいがちだ。が、そういった視点で本作に臨むと肩透かしを喰うことになりかねない。

 物語の半分近くは真田のラブストーリーに割かれているし、舞台となる村での羆による犠牲者はわずか二名で実際の事件より惨劇の規模は小さい。羆が村祭の最中に現れて女を咥えて群衆の中を駆け抜けたり、女マタギが最終決戦の段階で急にビキニ風の扮装になったり、リアリティに欠ける描写も少なくない。そして、何より問題なのは、肝心の羆だ。戦闘シーンの大半で、着ぐるみにしか見えないのである。そのため、観る前に期待した興奮は味わいにくい。

 それでも、本作は「熊の恐ろしさ」を見事に描き出していたといえる。たとえば、冒頭。若い夫婦が寝込みを襲われるのだが、その場面自体は大したことはない。注目は、その後の描写だ。死体を目にした女の、谷全体に響き渡る悲鳴。連れ去った女の腕を羆が貪る音。食い散らかされた腕。無残に残された、血まみれの着物と髪の毛……。こうした「事後」に対する凄惨なディテールを丁寧に積み重ねながら映し出していくことで、羆の理不尽なまでの残虐さと、それに対する人々の恐怖が、生々しく伝わってくるのだ。

 特に中盤、羆に喰われ残骸となった妻に夫がすがりつく場面は、夫役の蟹江による「唯一残された妻の髪の毛を自らの顔に擦りつけながら慟哭する」という名演と相まって、「羆に襲われたら、どうなるか」を痛感させられてしまう。

 絶対に熊に襲われたくない。改めて心からそう思った。

(春日 太一)