広島が「もみじ饅頭」だらけになった秘話【カレー沢薫の「ひきこもりグルメ紀行」】

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【カレー沢薫の「ひきこもりグルメ紀行」Vol.9 広島「もみじ饅頭」】

 今回のテーマは「もみじ饅頭」だ。

 これも超メジャー菓子であり、これを渡されて「どこに行ってきたの?」と聞く人間は、帰国子女か隔離収容所にいた可能性がある。

 言わずと知れた広島の銘菓であり、私は山口県の人間なので昔から割となじみがある。ほぼ確実に学校の修学旅行か社会見学で広島に行くからだ。

 そこの土産物屋で、広島とは全く関係ない、中学生の心を沸き立たせるためだけに存在するシルバーアクセを買い、家族への土産にもみじ饅頭を買うというのが、山口のスタンダード中学生だ。※個人の感想です。

◆「もみじ饅頭」を生んだ一家のクソ真面目

 ここで、もみじ饅頭を知らないという、東京生まれガラパゴス育ちに説明すると、名前の通りもみじの形をしたカステラにあんこが入っている饅頭だ。その歴史は古く誕生したのは明治時代だという。

 前回の「萩の月」しかり、有名銘菓には、類似品問題がついて回るが、もみじ饅頭に関しては、商標権が切れているため、基本的にどこの会社でも「もみじ饅頭」という名前で商品を出してよいのだ。

 つまり、もみじ饅頭界には今からでも殴りこみ可能というわけである。

 なぜ商標権が切れているかというと、まあ昔のことだから、そこらへんが緩く、何も考えずに毎日もみじ型カステラにあんこつめてたら、更新をうっかり忘れて切れてた。とかいう話かと思ったら、どうやらそうではないようだ。

 もみじ饅頭の創始者「高津常助」は20年で切れる商標権の更新を忘れてたわけではないが(多分)何故かしなかった。その上、非常に職人気質な人間で「技術は盗むもの」という信条のもと、息子にもみじ饅頭のレシピを一切教えなかったという。

 その結果、息子は納得いくもみじ饅頭を作り出すことが出来ず、「親父の名を汚したくない」という理由で、もみじ饅頭の製造販売自体をやめてしまったそうだ。

 真面目か。

 このように、緩いどころか、クソ真面目な理由で、元祖が早々にもみじ饅頭を手放してしまったのだ。

 しかし、すごい話である。

 例えば、アンパンマンのやなせたかし先生にはお子さんがいなかったそうだが、もし子どもがいた場合、その子どもが「俺はアンパンマンが上手く描けないからアンパンマンの権利は全部手放す」と言い出すだろうか。

 逆に「お前はアンパンマンが描けないから権利はやらん」と言われたら、ありとあらゆる法的手段で争い、最終的に暴力を繰り出してでも説得しようとするだろう。

 だが、そういう発想ではなかった。高津親子のおかげで、もみじ饅頭の権利は解放、広島は「大もみじ饅頭時代」に突入した。

 その結果、複数のもみじ饅頭会社が「我こそが元祖」と言っている状態が今も続いているそうだが、買う側からしてみれば、選択肢が多くて楽しいということになる。

◆この世にはいったい何種類のもみじ饅頭が?

 そう、もみじ饅頭はとにかく種類が多いのだ。

 出している会社も多いが、その中でもさらに、バリエーションが展開されまくっている。

 今回サンプルとして送られてきた、もみじ饅頭は「にしき堂」のものであったが、スタンダードなこしあん、粒あんから、チョコレート抹茶、チーズ、もちもちした食感の「生もみじ」と、とにかく種類が多い。

 一体何種類あるのか、とにしき堂のHPに記載されているものの数を数えて見たところ少なくとも「28種類」である。

 多い。

「カレーに入れれば全部食える」のノリで何でももみじ饅頭に入れてしまっているのではないかと思えるが、ラインナップを見ると「ジンギスカンもみじ」のような、逸脱したものは見受けられない。どれも「手堅く美味そう」だ。これだけ展開されていると、一個ぐらいイロモノがありそうなものだが、ここでも真面目さが垣間見える。