メキシコ北東部タマウリパス州の刑務所に収容されている受刑者(2017年5月24日撮影)。(c)AFP=時事/AFPBB News

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【AFP=時事】頻発する暴動や殺人、脱走──超過密状態のメキシコの刑務所の危機は、麻薬密輸組織(カルテル)の浸透と刑務所当局の腐敗により悪化の一途をたどっている。

 メキシコの刑務所をめぐっては、2015年に「エル・チャポ(El Chapo)」こと麻薬王のホアキン・グスマン(Joaquin Guzman)受刑者が脱走したほか、昨年には、北部ヌエボレオン(Nuevo Leon)州モンテレイ(Monterrey)の刑務所で暴動が発生し、49人が死亡している。こうした事件を通じて、同国政府が直面する問題がはっきりと浮かび上がった。

 司法監視機関フリメトリア(Jurimetria)のギジェルモ・セペダ(Guillermo Zepeda)代表は、この危機的状況には「超過密な環境と犯罪組織の浸透」との2つの要因が関係していると話す。

 エンリケ・ペニャニエト(Enrique Pena Nieto)政権はこの刑務所の問題について、設備の改善や刑務所職員の増員および賃上げなどで対応していくことを明らかにしている。

 同政権はこの1年間で刑務所の収容人数を約3万人削減することに成功した。だが現在収容されている受刑者21万6831人のうち、58%はいまだ超過密状態に置かれており、また国内の刑務所375か所の3割以上で収容定員を超過しているという。

 一部の刑務所では反社会的勢力が幅を利かし、権力をめぐって内部抗争を繰り広げるため、暴動や殺人、脱走などが起きる。

 今年に入ってからも刑務所内での銃撃戦や火災は起きている。北東部タマウリパス(Tamaulipas)州では受刑者29人が脱走する事件もあった。また、シナロア(Sinaloa)州では、グスマン受刑者の強力な麻薬密輸組織「シナロア・カルテル(Sinaloa Cartel)」創立者の一人、フアン・ホセ・エスパラゴサ(Juan Jose Esparragoza)容疑者の息子が刑務所から脱走している。

■刑務所内でパーティー、動画拡散

 西部ハリスコ(Jalisco)州の刑務所では、パーティーを楽しむ受刑者たちの動画がソーシャルメディアで拡散され話題となった。パーティーを主催したのは反社会勢力グループのボスで、受刑者らはこのボスをたたえるバンドのコンサートを見ながら、アルコール片手に騒いでいた。

 別の動画では、ライバル組織のメンバーに女性用下着を着用させ、監房のそうじをさせる受刑者もみられた。

 また最近では、受刑者の80パーセントが「湾岸カルテル(Gulf Cartel)」のメンバーで占められるタマウリパス州の刑務所から銃やトンネルが発見されている。

 2年前のグスマン受刑者の衝撃的な脱走事件は記憶に新しい。掘ったトンネルを通り看守の目をすり抜け、最も厳重な警備体制の敷かれた刑務所から脱走し、その後数か月間にわたり逃走を続けた。グスマン受刑者は2001年にも刑務所から脱走している。

 メキシコの経済調査教育センター(Center for Research and Teaching in Economics)のカタリナ・ペレス(Catalina Perez)氏は、このような刑務所の実情や、昨年2月に北部モンテレイのトポチコ(Topo Chico)刑務所で発生し49人が死亡したギャング抗争などは「刑務所内のシステムに存在する腐敗」によって起きていると指摘する。

「(刑務所内には)誰も解決しようとしない腐敗が多く存在する」と、ペレス氏は話し、「カネを払って豪華な監房に入り、欲しいものは何でも手に入れられる受刑者と、トイレ掃除をする羽目に陥る貧しい受刑者に分かれている」(ペレス氏)

 メキシコ国家人権委員会(CNDH)は今年5月、「犯罪組織と関係している、あるいは金銭的に裕福な受刑者が増加している」なか、犯罪組織が刑務所内で実権を握っていたり、一部権力を掌握していたりする状況は悪化しているとの懸念を改めて示した。

 メキシコ議会は昨年6月、有罪判決を受けた受刑者が刑務所に収容される代わりに、被害者への損害賠償や地域活動を行うことで罪を償うことのできる法律を可決。犯罪者の社会復帰を促し、刑務所内の混雑を緩和することを目的としたものだが、施行は遅れている。

 一方、人権団体などは罪を償った元受刑者の社会復帰に対し、受け入れる人々の教育が遅れていることに懸念を抱いている。

 受刑者の社会復帰を補助する団体「プロモーション・フォー・ピース(Promotion for Peace)」のコンスエロ・バヌエロ(Consuelo Banuelos)氏は、「地元での悪評が先行し、出所した人が職を見つけられず、差別の対象となっている場合、終わりのない悪循環に陥ってしまう」と指摘している。
【翻訳編集】AFPBB News