チリ代表のMFアルトゥーロ・ビダル【写真:Getty Images】

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テクニックとハードワークのファイナル

 7月2日、FIFAコンフェデレーションズカップ・ロシア2018の決勝戦が行われ、W杯王者ドイツが南米王者チリを相手に1-0で勝利した。走れない選手は誰もおらず、文字通り「ハードワーク」する選手たちによって争われたファイナルとなったが、それは現代サッカーのトレンドを体現したものとも言えそうだ。一貫した強化方針のもとにチーム力を高め、このレベルに到達してきた両国には、日本も学ぶべきところがある。(文:西部謙司)

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「テクニックのある選手を走れるようにするか、走れる選手にテクニックをつけるか。前者のほうが簡単そうだが、走らない選手は本当に走らないのだよ」(イビチャ・オシム)

 コンフェデレーションズカップ決勝で走れない選手は誰もいなかった。チリのサンチェスやビダルはチーム最高クラスのテクニシャンだが、どちらも無類のハードワーカーである。テクニックのある選手がハードワークしまくるのは、いわば現代サッカーのトレンドであり、チリはその代表的なチームといえる。

 前線からハイプレスをかけ、かわされても二度追い三度追いができる。逆に相手のプレスを巧みなパスワークやドリブルで外す。テクニックとハードワークを高い次元で両立させてきたからコパアメリカ連覇があった。

 一方、若手主体のドイツは当然走れる。ただ、チリに比べるとテクニックの怪しい選手が何人かいて序盤にプレッシャーをかけられるとミスを連発していた。カウンターの形になれば個で突破できるヴェルナー、ドラクスラーがいて、後方からの押し上げも速いのでチャンスにはなる。しかし、チリのハードワークに対してテクニックの優位性はなく、チリ有利で試合は進んでいた。

 ドイツの先制点、そして決勝点となったゴールは単純にチリのミスである。

 自陣ペナルティーエリアのすぐ外でボールを持ったディアスがターンして1人を外したところでボールを足下から離しすぎてしまいヴェルナーに奪われた。ヴェルナーはサポートについたスティンドルに渡してシュートは無人のゴールへ。とくに何もしないままドイツに虎の子の1点が転がりこんできた。

 テクニックに優位性のあるチリはそれゆえに墓穴を掘ってしまった。ディアスのタッチが大きくなってしまったのは疲労の表れだろう。

疲労という落とし穴。“2軍”で優勝してしまうドイツの自力

 ハードワークの権化であるビダル、サンチェスのミスも目立った。ファーストタッチが微妙にズレている、それでもいつもなら無理が利くので何とかしまうのだがそこでミスが出る。ものすごく動くのでわかりにくいが、チリの選手たちにはいつものキレが少しだけかけていた。疲労の蓄積によるものだと思う。

 失点の前にはハイプレスから奪ってビダルのシュート、GKが弾いたところをサンチェスが詰めたが至近距離からのシュートをミスしていた。

 プレスで奪い、ビダルは切り返しで1人抜いてシュート。ハードワークとテクニックのチリらしいチャンスメークだったが、肝心なところで体が言うことをきいてくれない。ほかの決定機もシュートを打ち上げてしまうなど微妙だが決定的なミスタッチが多かった。

 ハードワークのチリにはフレッシュな選手がいない。無理に無理を重ねられるところに強みがある一方、それがテクニックに影響を及ぼすこともある。メッシやロナウドは常にフレッシュな状態でいて、ここという瞬間に最高のテクニックを発揮するが、そういうタイプはチリにはいない。

 ハードワークを免除されている選手がいないのは強みである半面、強烈なノックアウトパンチがない。ドイツに先行されたことで、チリはさらに無理を重ねなければならず必要な精度が落ちてしまった。

 ドイツは幸運だった。先制したことで得意とする堅守速攻の流れを継続すればよかった。もし、逆にリードされていたらドイツにできることはそんなになかったと思う。ハードワークはチリに負けていないが、敵のハイプレスを何とも思わないテクニシャンはキミッヒとドラクスラーぐらい。この2人はすでに“1軍”の主力クラスである。

 今回の“2軍”チームで株を上げたのはCFのヴェルナーだ。ライプツィヒでブレイクした頑健かつ俊敏なゴールゲッター。プル・アウェイでマークを外すのも上手く、クロースやエジルなどパサーのレベルが違う“1軍”ならもっと活躍できるだろう。

 近年のドイツは珍しくCF不足だった。ベテランのクローゼとマリオ・ゴメスに頼ってきたわけだが、ようやく適材をみつけられたのではないか。

 それにしても若手主体でコンフェデレーションズカップに優勝できてしまうドイツの地力には驚かされる。今回のメンバーから何人かは確実に“1軍”に昇格していくだろう。

日本が学ぶべきこと。強化方針の芯

 チリとドイツはどちらもハードワークのチームだった。チリにはテクニックもあった。ドイツほど大きな選手はいないが全員が筋肉の鎧をつけたような体格だ。ただ、チリが昔からこういうチームだったわけではない。

 チリが現在のプレースタイルに変わったのはビエルサ監督の時代からだ。同じころ、日本ではオシム監督が「走れ」とハッパをかけていた。岡田監督時代にチリとは二度対戦していて1勝1分と勝ち越している。ホームの親善試合とはいえ、まだそのころは遠い存在ではなかったわけだ。しかし10年ほど経過した現在、チリと日本の差は大きく広がっている。

 チリのサッカーはその間、ずっと一貫している。ビエルサからサンパオリ、現在のピッツィと監督は変わっているが指向するプレーは同じ。一方の日本がどうかはご存じのとおりである。いまは「デュエルだ」「縦に速い攻撃だ」と強調されているけれども、負ければまた違うことを言い出すだろう。

 ハードワークかテクニックか、ではない。全部なければ世界のトップには行けない。ただ、どの国にも得手不得手はある。ドイツはもともとハードワークの国だが、一時は技術がおぼつかなくなった。

 2000年から始めた育成改革によって技術が改善されて現在がある。だからといってドイツが持ち前のハードワークを忘れたわけではない。それは今回の2軍チームをみても明らかだ。

 長所を生かし短所をできるだけ克服する。当たり前だが、そうやって強化の成果が出るまでにはそれなりの時間は必ずかかる。しっかり芯を見定めたら、ブレずに続けていく強さが本当の実力をつけていくのだと思う。

(文:西部謙司)

text by 西部謙司