「池井戸潤の作品が若い世代にも支持されるワケ」を本人が自ら分析。『半沢直樹』『下町ロケット』…etc.

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『下町ロケット』や「半沢直樹」シリーズなど、もはや説明不要な大ヒットドラマの原作者として、今もっとも引く手あまたの作家、池井戸潤。サラリーマンはもちろん、若い世代からも絶大な支持を集める人気作家が6年ぶりにSPA!登場。政府主導による「働き方改革」が叫ばれる昨今、我々サラリーマンや企業を彼はどう見ているのか――

――前回、ご登場いただいたのは’11年、ちょうど『下町ロケット』で直木賞を受賞されたタイミングでした。その後、「半沢」シリーズがテレビドラマ化され驚異的な視聴率を記録し、メディアから注目を浴びる機会も激増したと思います。生活の変化や、執筆に影響が出るようなことはありましたか。

池井戸:いや、全然ないですよ。

――取材が殺到して困ったことは?

池井戸:引き受けるのは刊行直後だけにして、あとは断っちゃいますから。作家生活を維持するにはいくつかコツがあるんです。例えば、テレビやラジオには出ないとか、講演をやらないとか、政治家とはなるべく付き合わないとかね(笑)。それだけちゃんと守っておけば大丈夫。

――ご自身の働き方が確立されているんですね。最近では「プレミアムフライデー」の導入など、世の中全体が働き方の見直しを求められているのかな、という気もします。

池井戸:仕事を楽しんでいるかどうかっていうのはすごく大きいと思うんですよね。嫌々やってる人にとっての朝の8時から夜中の12時まで働くのは苦痛以外の何ものでもない。そんなもの長くは続かないだろうけど、好きで仕事をしている人が好きなだけやるのは全然問題ないと思う。世代なんか関係なく個々人の裁量で決めればいいと思いますよ。

――池井戸さんの作品は、若い世代にも支持されていますが、ご自身ではどのように分析されていますか?

池井戸:僕はもうおっさんだし、今の若い世代を主人公にした私小説なんかは絶対に書けない。でも「仕事」を通じてならそういう人たちも描けるわけです。なぜなら、会社って上司から部下までいろんな世代の人たちが集まって成り立っているでしょう? だからこそ、そこには全世代共通の言語がある。つまり仕事や会社を媒介させればいろんな世代とコミュニケーションを取ることが可能なんですよ。この点に注目した小説って、実は今まであまりなかったのかもしれないなとは思います。

――最新刊『アキラとあきら』は、零細工場の息子・瑛と海運会社の御曹司・彬という、タイプの異なる2人の天才が、同じ銀行に入社し互いを無二のライバルとして認め合いながら苛酷な試練を乗り越えていく青春巨編です。もともとは’06〜’09年に文芸誌で連載されていた作品で、ファンの間では「幻の長編」として長らく刊行化が待たれていました。

池井戸:連載当時は、まだ「半沢直樹」も「花咲舞」もシリーズ化されていない状態で。似たようなモチーフを繰り返してもしょうがないし、銀行員モノを書くのはこの作品で最後にしようと思っていたんです。だったらとことんやってやろうと思って、対照的な境遇にいる2人の生い立ちからじっくり追って書いてみたつもりなんだけど……いまひとつ納得がいかなくて、結局は寝かせることになってしまった。映像化の話をいただいたのを機に再び改稿し、ようやく世に出すことができたけれど、実際に読者の方々にどういうふうに捉えられるのかはわからない。そもそも僕の小説って、台詞まわしでなんとなくこういうキャラクターかなっていうのを読者の側に想像してもらうような書き方なんですよ。

※このインタビューは7/4発売の週刊SPA!のインタビュー連載『エッジな人々』から一部抜粋したものです

【池井戸潤】
’63年、岐阜県生まれ。慶應義塾大学卒。『果つる底なき』で第44回江戸川乱歩賞、『鉄の骨』で第31回吉川英治文学新人賞受賞。第145回直木賞を受賞し、映像化もされた『下町ロケット』はベストセラーに。最新刊に『アキラとあきら』(徳間文庫)がある

取材・文/倉本さおり 撮影/寺川正嗣