日本はいま深刻な危機に直面している。ここ数年で安全保障上の危機、とりわけ周辺国の各種ミサイルの脅威が高まっている。また、大規模な地震その他の災害の発生確率も高まっている。

 周辺国の日本に対するミサイル攻撃の脅威については、平時からのサイバー攻撃や特殊部隊による破壊工作などと連携して行われることが多く、これらの複合した脅威にも対処しなければならない。

 また、大規模災害への対応に自衛隊主力が追われている際に、その隙に乗じて領海、領空への侵犯や偵察を行おうとする周辺国もある。東日本大震災発災後、中露はそのような動きを見せた。

 東京オリンピックを控え、日本国内でも、攪乱のための大規模サイバー攻撃や、国際テロ組織による無差別テロ、それらと連携したミサイルの日本近海への撃ちこみ、特殊部隊や潜入工作員による破壊工作などが起きるおそれもある。

 本論では、高まる危機の実態と、それに対処するための具体的な方法を探り、そのためのキーテクノロジーとして、A4S炉(改良型の超安全小型・シンプルな高速原子炉)がいかに必要か、しかも低リスク、低コストで実現可能かを明らかにする。

 福島第一原子力発電所の事故以来、わが国では新型原発の開発や新設が、それ自体が許されないタブーとなっている。

 しかし、日本の直面する安全保障上の危機、とりわけ深刻さを増すミサイル脅威に対処するための画期的なミサイル防衛システムとして、指向性エネルギー兵器の開発配備が世界的に進められている。

 そのため共通に必要とされる最適の電源となり得る、A4S炉という超安全な小型高速の原子炉の技術が日本にはすでにある。これを生かせば、日本の安全保障もエネルギー確保も可能になる。

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深刻化する日本に対するミサイル脅威

 これらの脅威や危機に対応するためには、様々な対応策が必要だが、被害規模から言えば、最も深刻な危機は、大都市に対して核・化学・生物などの大量破壊兵器を載せたミサイル攻撃による被害である。

 無防備な大都市に1発でも大量破壊兵器を載せた弾頭が着弾すれば、爆発の規模・様相、地形、気象条件などで異なるが、メガトン級核爆弾なら数百万人、20キロトンでも約50万人、サリンの化学弾頭1トン前後なら半径数キロ以内の数十万人以上が死亡すると見積もられている。

 生物兵器については熱に弱く不安定でミサイル弾頭での実射実験の記録はないが、テロなどでは使われる恐れがあり、数万人から数十万人以上の被害が出るであろう。

 これらの大量破壊兵器数発が同時または連続して各地の大都市部で爆発すれば、日本全国で1000万人を超える被害が生ずるおそれもある。

 これらの被害規模に比べれば、大規模地震や津波のなどの災害の被害規模は、比較的小規模にとどまると言えるかもしれない。東日本大震災での死者・行方不明者は約2万3000人であり、政府が発表したマグニチュード9.1クラスの南海トラフ地震では、最悪33万人の死者が出ると想定されている。

 日本は災害が頻発しているため、防災が重視されるのは自然なことだが、半面、安全保障上の脅威に十分な注意が向けられない嫌いがある。しかし、その被害規模予想からみても、安全保障上の脅威がいかに深刻な問題かは明らかであろう。

 中朝露は、このような大量破壊兵器によるミサイル攻撃能力を持っている。これらの諸国の指導者や軍高官は、これまで対日攻撃の意思と能力を誇示した事例があり、近年その能力は急速に向上している。

 北朝鮮は広島級の20キロトン前後の核弾頭を載せた弾道ミサイルを保有している可能性が高い。その保有数は、38ノースなど米国専門機関の見積もりなどによれば、現在15〜20発だが、2020年頃までに多ければ100発、平均的には50発くらいになるとみられている。

 また、北朝鮮が保有している核搭載可能とみられる弾道ミサイルの数は、すでに約1000基に達している。さらに、ここ数年以内に、その種類が多様化し、旧型から新型のミサイルに換装される可能性が高い。

 これまでは、日本を標的とする弾道ミサイルは、射程約1300キロのノドン200〜300基が主とみられていた。なお、韓国国家情報院は2006年夏のノドンの配備数は450基との見方を示している。

 また北朝鮮は、これまで韓国を標的としているとみられていたスカッド約600基の一部を改良し、射程を1000キロに伸ばしている。これらのスカッド改良型は、西日本の大半から最大限、横須賀、横田まで攻撃可能とみられている。

 また今年3月、スカッド改良型の4基の同時発射試験に成功し、その精度も飛躍的に上がっている。北朝鮮は4発のミサイルは在日米軍基地を狙い、テストをしたと表明している。スカッド改良型への換装は今後急速に進むとみられる。

 また、射程2500〜4000キロとみられムスダンも、昨年6回目の発射試験でようやく成功した。ムスダンは、グアムに届くか否か微妙だが、台湾と中国のほぼ全土を射程下に入れている。またムスダンは、今後大量配備される可能性が高い。

 さらに固体燃料を用いた潜水艦発射式の弾道ミサイル北極星1と、その陸上配備型でキャタピラ移動式の北極星2も、北朝鮮の全土から日本を攻撃することができる。いずれも発射試験に成功し、北極星2は、金正恩委員長から量産の指示が出されており、その配備数も今後増加していくとみられる。

 現在の北朝鮮のミサイル保有数は約1000基程度とみられているが、数年以内に、そのうち計500〜600基程度が日本を攻撃できる状態になるとみられる。また、ノドンもムスダンも各50か所程度の基地があるとみられている。北極星1・2も加わり、同時発射能力も50〜100発程度になるとみられる。

 中国も、それと同水準かそれ以上の各種ミサイルによる対日攻撃能力を持っている。注意すべきなのは核弾頭の威力であり、中国はメガトン級の水爆弾頭を主としてミサイルに搭載しており、予想される被害規模は北朝鮮のミサイル攻撃の比ではない。

 今年の中国の軍事力に関する米国防総省の年次報告によれば、中国は、日本を攻撃できる射程1500キロ以上の弾道ミサイル、地上発射巡航ミサイル、空中発射の巡航ミサイルを各200〜300基、計600〜900基保有している。

 また、それ以外に射程が300〜1000キロの移動式短距離弾道ミサイルを1000〜1200基保有している。そのうち、数百基は沖縄本島以南の南西諸島を射程に入れているとみられる。

 ロシアも北方領土に超音速・亜音速の地対艦ミサイルを配備し、千島列島の松輪島に新たな海軍基地を建設する準備を進めるなど、北方領土、千島列島、カムチャツカ半島の周辺区域に対する、濃密な各種ミサイル攻撃が可能な能力を高めている。

 これらの中朝露によるミサイル攻撃の第1の目的は、自国領域から数千キロの遠方から米空母の接近を阻止し、1700キロ程度以内の海空域からは排除し、韓国、日本、台湾などの同盟国と米国との軍事的連携を断ち切ることにあるとみられる。

 それと同時に、核・化学・生物弾頭による日韓台に対する攻撃能力を高め、その恫喝により駐留米軍の撤退と米国との同盟関係の破棄を強要するという政治的効果も狙っているとみられる。

いかにミサイル脅威その他の危機に対処するか?
抑止力強化の3つの方法

 脅威が現実になった時の対応も大切だが、脅威が現実のものになる前に、その脅威を抑止し、相手にそのような行動をとらせないことが、安全保障を含め危機管理上最も重要である。

 抑止のためには、大きく2通りの方法がある。1つの方法として、相手が実際に攻撃に出るなどの実力行使に出ても、それに耐え抜く力があることを相手に知らしめて、あきらめさせる拒否的な方法がある。

 もう1つは、相手が攻撃などを加えた場合に、確実に報復し侵略による利得以上の損害を報復により受けることを知らしめるという報復的方法である。

 拒否的抑止力には、仮に大量破壊兵器の攻撃を受けても核シェルターなどに逃げて国民が生き延びることができ、政経中枢、防衛機能、基幹インフラなどの機能を維持できる能力を持つという、民間防衛を主とする方法がある。

 別の方法として、相手国からの各種ミサイルを撃墜できるミサイル防衛能力を持つという方法がある。

 報復的抑止力として最も確実な手段は、例えば、核・化学・生物兵器などの大量破壊兵器による国土国民への攻撃があった場合、確実にそれから生き残り、かつ相手国にとり許容できない損害を与えるだけの報復手段を持つことである。

 核弾頭を搭載したSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)の保有は、その有力な方法である。

 英仏などは主としてこの方法により確実な抑止能力を保持しようとしている。四面環海の日本も、SLBMを搭載した、長期間行動可能でいざというときに高速が出せる原子力潜水艦の保有が望ましい。

 それが早急には実現困難であれば、早くかつコストの安い方法として、地下移動式の陸上配備の弾道ミサイルを保有するという方法がある。

 以上から明らかなように、抑止力を最も強化する方法としては、(1)民間防衛態勢の強化、(2)ミサイル防衛システムの増強、(3)SLBMまたは地下移動式弾道ミサイルの配備という3種類の方法があり、それらの併用により最大の抑止力を得ることができる。

 ただし、後述するように、民間防衛やミサイル防衛システムの配備という拒否的方法のみでは、大量連続のミサイルなどによる飽和攻撃に対しては、対応力に限界がある。一部撃ち漏らしを生じ、大量破壊兵器による甚大な被害を被ることは避けられない。

 そのため、残存報復力が伴わなければ、真の抑止力にはならない。オバマ政権は「核兵器なき世界」を標榜し核戦力の近代化を怠り、米国の核戦力は劣化、老朽化が進んだ。その間、中露朝は核戦力の増強、近代化に拍車をかけてきた。

 その結果、米国の核の傘の信頼性は現在かつてなく低下しており、不利なバランスを回復するには約10年かかるとみられている。このため、米国の核の傘に依存する日本としては、独自の報復的な核抑止力保持の必要性が高まっている。

先進国最低水準の日本の民間防衛態勢

 民間防衛について、特に日本の現状では、「国民保護法」を根拠法規として、各自治体レベルで計画作成や訓練が行われている。しかし、以下に示すように様々な欠陥がある。

(1)国民への強制力がない。
(2)対処のための具体的な人員・組織・装備について現在の消防団以上の組織は前提としておらず対処能力に欠けている。

(3)核・化学・生物兵器などへの具体的な対応策も明確ではない。
(4)防衛事態対処と国民保護との調整をどうするかが明確ではない。

(5)疎開するとしても行政区画を超えた疎開先の調整がされておらず輸送手段も明確でない。
(6)避難用の核シェルター、防災用以外の備蓄、化学・生物剤の除染設備もほとんどない。

 少なくとも、緊急時に国民を3日間程度収容し、その安全を確保するためのシェルターを整備する必要がある。諸外国では冷戦時代から、政府が責任をもって核シェルターを備える努力をしてきた。

 各国は、ヒロシマ,ナガサキでの核兵器の惨害を知り、後世の国民と国家の生存にかかわる最大の危機ととらえ、政府の当然の責任として、多大のコストをかけて核シェルターの整備に取り組んできた。

 核シェルターは、スイス、イスラエルでは全国民向けに100%整備されている。他国の普及率は、米露が約8割、英国7割、シンガポールは約半数である。中国の首都圏、都市部には大規模な地下シェルターがあり、西部地域への大規模疎開計画も立てられている。

 しかし、唯一の被爆国である日本の核シェルターの普及率は、0.02%に過ぎない。日本では国会で核シェルター整備について真剣に審議されたことすらない。

 しかし、日本に対する大量破壊兵器を搭載したミサイル脅威の高まりを考えれば、核・生物・化学攻撃に対するシェルターの整備を急がねばならないことは明らかである。

 これらシェルターに必須の付帯設備が、耐圧・耐熱扉、大量の浄水タンクと浄水機、除染設備、空調とエアフィルター、それらの非常用電源である。非常用電源確保の死活性は福島第一原発の事故でも明らかになった。

 核シェルターには小型の自家発電機は備えられているが、能力的に限界がある。また、在来の大型原発などから送電線で広域の電力需要を賄うという方法では、ミサイル攻撃、テロ、大規模災害などにより、原発や送電系統などが破壊された場合、広域の電源が一挙に失われるおそれがある。

 独立した小規模電源の必要性は、大規模震災、津波など減災の観点からも、極めて高い。

 危機時に、電力喪失のリスクを分散するには、地域ごとに小型の独立した超安全な高圧送電網に依存しない電源を保有していることが望ましい。このような侵略にも災害にも強い小型電源は、各地域ごとの強靭化の要石とも言えよう。

限界のある現在のミサイル防衛システム

 現在日本が防衛政策の1つの柱として重視しているのが、ミサイル防衛システムの整備である。これは積極的に敵のミサイルを撃墜するという拒否的抑止力の要となるシステムである。

 しかし、現在のミサイルによりミサイルを撃ち落とすという方法には大きな問題点がある。特に、音速の20倍程度で再突入してくるICBM(大陸間弾道ミサイル)の撃墜は、今年6月に世界で初めて米国がICBMを模擬したミサイルを撃墜する試験に成功したと発表したように、まだ確実な撃墜手段はないのが実情である。

 現在主に使用されているスタンダード・ミサイルSM-3BlockIでは、ICBMのような速度の速いミサイルに対しては、迎撃高度が低く十分な迎撃のための時間的な余裕を得られない。

 この欠点を克服するため、直径13インチのBlockIに替わり、直径21インチと大型化しエンジンも推力を挙げて1000キロ以上の高度に達する改良型のBlockIIが日米共同開発されている。

 BlockIIA型は近く配備されるが、まだICBM撃墜能力は限定されている。2018年から2020年の間に配備される予定のBlockIIBが配備されれば、ICBMの撃墜もかなりの確率で可能になるとみられている。

 しかしそれでも新たな問題が生じる。1つは、ミサイルの単価が数十億円に上ることである。

 北朝鮮ですら同時または連続で50基から100基の弾道ミサイルを発射でき、おとり弾頭も打てるとすれば、それらに対処し確実に撃墜するためには敵ミサイル1基に対し少なくともミサイル3基程度は必要となり、ミサイルを装備するだけでも数千億円の予算が必要となる。

 さらに、レーダ、指揮通信統制装置、データリンクの改修などの関連予算を含めると、莫大な予算が必要となる。あえて整備すれば、その他の必須の予算を圧迫することになり、予算上必要数を整備できなくなるという制約が出てくる。これでは、50〜100基の飽和攻撃には対処できないであろう。

 ペトリオットも現在全国の16個高射隊に36発射機、576発が配備されている。しかしその迎撃範囲は局地的なもので、各高射隊で約1000平方キロ、16カ所の要域を守れるに過ぎない。イージス艦のスタンダードミサイルで撃ち漏らした後のミサイルをPAC-3で守れるのは国土の数パーセント程度の要域に限られることになるであろう。

 このように、現在のミサイルによる敵ミサイルの撃墜という方法は限界にきている。

革新的な指向性エネルギー兵器の登場

 米海軍はこのような現行のミサイル防衛システムの問題点を深刻に認識し、全く新しい革新的なミサイル防衛イステムの研究開発に全力を挙げている。その兵器システムが「指向性エネルギー兵器」である。

 指向性エネルギー兵器は、電磁波のエネルギーを目標に集中して指向し、そのエネルギーで敵ミサイルなどを機能麻痺、あるいは破壊するという、兵器システムである。

 指向性エネルギー兵器として現在有望視されているのは、レールガン、マイクロウェーブ、高出力レーザーを使用した兵器である。その原理は異なるが、電磁波の指向性エネルギーの利用という点では共通している。

 レールガンは、瞬間的に数百万アンペア以上の大電流のバルスを発生させ、ローレンツ力の原理を使い、磁場の中に置かれた伝導体を弾丸とともに超加速させ、火薬を使った在来の砲の数倍以上の速度で撃ち出すという砲である。

 砲身の内部ではプラズマが発生し、その超高温で砲身が腐食し多数の砲弾を連続発射できないという問題がある。また瞬間的な大電流を発生させるためのコンダクター、キャパシタ(蓄電池)の小型化も克服すべき技術的障害となっている。将来的には、超音速砲弾の誘導が課題になるとみられている。

 米海軍は2015年、従来の砲の約6倍に当たる毎秒9.1キロという速度で約20キロの弾丸を撃ち出し、約400キロメートル先の目標に到達するエネルギーを持つレールガンの原型の開発に成功した。近く、艦艇に搭載し試験する予定である。レールガンは10年以内にICBMの撃墜が可能になると期待されている。

 このレールガンの発射エネルギーは25メガワットに上り、砲身内部のプラズマの温度は1000万度に達する。艦艇のガスタービンエンジンの出力の一部により電源は補充できるともみられているが、独自の安定的な小型の電力源があればそれが望ましいであろう。

 マイクロウェーブ兵器については、連続波のマイクロウェーブ兵器と電磁パルス兵器の2通りがある。

 核爆発では半径数百キロから1000キロ以上の広範囲に強烈な電磁パルスが伝わり、電子装置やコンピューターシステムを機能麻痺させることができる。現在では、電磁バルスを核爆発によらずに発生させる電磁パルス弾も開発され、中露は保有しているとみられている。

 その対策として民生用も含めすべての電子機器に電磁シールドを行わねばならないが、日本国内ではまだ対策は普及しておらず、各種のインフラが瞬時に麻痺するおそれがある。

 電磁パルス被害の様相は、太陽フレアでも同様であり、電磁パルス被害対策として、分散型の小型電源がリスク分散上望ましいことに変わりはない。

 マイクロウェーブ兵器は、在来のレーダの出力を数倍に上げ、かつ飛来する敵ミサイルの弾頭などにそのエネルギーを連続照射し破壊するという兵器であり、今後5年から10年でICBMも破壊できるレベルになると期待されている。

 必要なエネルギーは1平方センチ当たり2分の1ワット程度とみられているが、その発生源として安定的な小型電源が必要である。

 高出力レーザー兵器については、収れん性の強い光を発生させ、そのエネルギーを遠距離に届けて目標の外殻や電子装置などを焼き切るといった方法で、その機能を奪い、あるいは破壊することができる。

 他の指向性エネルギー兵器も同様だが、エネルギー源が続く限り連続して発射できるという特性があるため、1発当たりのコストが1ドルを切るとも見積もられ、極めて安価なコストで多数の目標に連続的に対処することができ。

 また、照射エネルギーを連続的に変えれば、目標の指示、人員の殺傷、ミサイルその他の機能麻痺から破壊まで、同一のシステムで対応できるという特性がある。光速で直進するため、見える目標はエネルギーが照射できる限りほぼ確実に破壊できる。

 しかし、大気中の減衰が大きく、今後とも音速の20倍程度で突入してくるICBM弾頭の迎撃は困難とみられており、むしろ近距離のより低速の各種ミサイルや無人機、小型ボートなどの撃破に適しているとみられている。

 出力としては現在約100キロワットのものが製造されているが、これを将来は500キロワットにまで上げることが目標とされている。メガワット級になれば、各種の低速の弾道ミサイル、巡航ミサイルなども撃墜できるようになるとみられている。

 高出力レーザーの発信源としては、ファイバー型固体レーザー、スラブ型固体レーザー、自由電子レーザーなど各種があるが、いずれも瞬間的に数十メガジュール以上の大電力を発生させる必要がある。そのための電力の発生源とそれを貯める蓄電池、キャパシタの開発が課題となっている。

 さらに、以上の純然たる軍用目的以外に、宇宙から飛来する隕石などの衝突を監視し、衝突の危険があればそれを回避するための全地球規模の防衛システムの必要性も一部の科学者を中心に唱えられている。

 JAXA(宇宙航空研究開発機構)もこれに参加しているが、隕石などの破壊手段として指向性エネルギー兵器も有力視されている。そのための宇宙空間での電力源としても小型で安定した安全に打ち上げられる電源が必要である。

 さらに、報復的抑止力の決め手となる、日本の地政学的条件に最も適したSLBMとそれを搭載するための潜水艦の動力源としても、A4S炉は最も適している。その他の一般の艦艇用としても使用でき、防衛用の原油備蓄の必要性も大幅に減る。民間船舶に使用すれば、原油への依存も大幅に減らせるであろう。


各分野で求められている小型で安全な電力源
それを可能にするA4S炉

 これまで、日本が直面している安全保障上の危機、特にミサイルの脅威に有効に対処するため、砲爆撃やテロ攻撃にも超安全で、小型で安定し、かつ必要な大電力を瞬時に供給できる電力源の必要性を述べてきた。

 テロ、災害などに対してもこの超安全な小型炉は在来型の大型炉よりもはるかに安全である。特に、地下型にすれば、テロや地上へのミサイル攻撃にも強い。

 また防衛用として一義的に使用し、必要に応じ民生用電力に振り向けるようにしておけば、平常の警備は自衛隊が自ら行うことになり、現在の民間警備会社や警察力による警備よりも、テロ、破壊工作等に対しても、はるかに安全性が高まる。ミサイル、航空機、無人機などの脅威にも防空態勢の一環として堅固に重層的に守ることができるようになる。

 このような小型原子炉の必要性はそれだけではない。巨大な今後の世界的電力需要を賄ううえでも欠かせない。今後2030年頃までに世界の電力需要は1.5倍程度にはなるとみられているが、特に途上国では人口の増加と経済発展にともない急速な需要の伸びが見込まれている。

 しかし、再生可能エネルギーでは基盤電源としての安定性や供給力に限界がある。化石燃料の大量消費は、地球温暖化を促進することになる。途上国を中心に原子力発電を増設する必要があり、現に中国やインド、中東諸国などで新規原発建設が相次いでいる。

 途上国では各種のリスクが多い。原発についても、事故、テロ、内戦、戦争での空爆などによる破壊、大規模災害などの危機が生じやすい。大規模な災害、破壊、テロなどに脆弱な既存の大型原発では、各種の危機に対するリスクが極めて高くなる。

 上に述べた防衛用の電力源に求められる特性とこれらのリスクを回避するための要件は重なっている。

 すなわち、(1)小型で小出力だが、(2)在来の大型炉よりはるかに安全性が高く、(3)構造が単純で複雑な操作やメインテナンスもいらず、(4)燃料交換も不要、(5)新規の送電網もいらず、(6)単価も格安、(7)電力需要の増減に機敏に追従でき、(8)核兵器の原料となる核分裂物質の拡散につながらない型の原子炉が最も望ましい。

 奇跡のようなことだが、このような理想的な小型炉が日本の服部禎男博士により発明され、2005年に米国で特許を取得している。改良型の超安全・小型・単純(Advanced Super Safe Small & Simple)な原子炉であることから、A4S炉と称されている。

 A4S炉の技術的な特性として、出力は2.5万キロワットだが、直径は1.5メートル、高さが6メートル程度であり、炉心は1000度以上になると自動停止し超安全である。

 また、金属燃料棒が徐々に燃える構造になっており、制御棒もいらない。そのため、30年間燃料交換もメインテナンスも特別な運転員も不要で連続運転できる。部品数も20程度とシンプルになり、事故率は激減し、事故による周辺住民へのリスクも5000分の1に低下する。

 また電力需要に応じて瞬間的に出力を上げることもできる。電池のように、何本も連ねると大電力も得られる。単価は1基100億円程度に過ぎない。

 さらに、自然ウランの大半を占めるウラン238を燃料として使い、抽出したプルトニウムは不純物が多く核爆弾の材料には使えない。そのため、核拡散のおそれもない。

 また、海水中にある45億トン、鉱山ウランの1000倍のウラン238を利用できる。すでに海水からウランを補集する技術を日本は確立しており、A4S炉を使えば、日本は資源大国、電力大国になることができる。電力料金も大幅に安くできる。

 福島原発事故被害に幻惑され、新規の原発の開発を止めれば、せっかくの貴重な日本の技術資源を喪ない、他国に流出させることになる。すでに原子力工学科に入学する日本人学生は激減し、外国人留学生ばかりになっている。

 このままでは、せっかく育ててきた日本の原子力技術も関連産業も根絶やしになる。

 一刻も早く、日本の原子力産業の再生と防衛、エネルギーという日本の生存戦略にとり不可欠の国産革新技術、A4S炉の実用化を国を挙げて支援すべきであろう。

筆者:矢野 義昭