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川端由美の「CYBER CARPEDIA」



進化はネクストフェーズへと移った。これからは走りではなく、電脳化こそが自動車の未来を決める鍵となる。2020年の“自動車の常識”をモータージャーナリストの川端由美が現場から解説する。

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THIS MONTH’S CYBER CARPEDIA

NVIDIA



NVIDIAと聞くと、GeForceに代表されるゲーム用グラフィックボードを思い浮かべる人が多いだろう。ところが近年、AIコンピューティング企業へと変貌を遂げ、“AI銘柄”の筆頭に上げられるまでに成長した。そして、自動運転の分野でもキープレイヤーとなっている。

自動運転に欠かせない“謎の半導体メーカー”



先日、日本を代表する経済雑誌のウェブサイトに“謎の半導体メーカー”というタイトルが踊ったことで、一躍話題になった「NVIDIA」だが、実はゲーム用グラフィックボードのメーカーとしては、知る人ぞ知る存在だ。ところが今回、トヨタ自動車との提携を発表して話題を振りまいた。



▲すでにボルボやアウディと自動運転で手を組んでいる。今回は、トヨタとの提携を発表。自動運転用に開発された『Xavier』は、消費電力を低めることで、車載を可能にした。

なぜ、世界有数の自動車メーカーがゲーミング企業と提携したのだろうか? 実のところ、NVIDIAは近年、自動運転に代表されるAI開発を推進するプラットフォームを構築し、“AIコンピューティング”企業へと変貌していたのだ。



▲アウディとは、最も初期から、自動運転の開発で手を組んでいる。2011年のCESで発表した自動運転のシステムと比べると、大幅に小型化されている。

もちろん、多くの人にとって、いまだにNVIDIAは“謎の半導体メーカー”には違いない。そもそも、1993年の創業時には、セガの『バーチャファイター』を動かせるゲーム用グラフィックボードを設計するという、かなりマイナー路線を採っていた。その後、プレイステーションやXboxに搭載されるGPUのメーカーとして成長をしてはいた。そう、創業者のジェン スン ファン氏がスゴいのは、ボードそのものは単なる箱であり、その上で“何が動くか”を常に重視している点にある。創業時は流行のゲームソフトが、今はAIが、NVIDIAのボードの上に実装されて、新たな世界を生み出しているのだ。

同社がゲーミング企業からAIコンピューティング企業へと変貌を遂げるきっかけとなったのは、2012年にGoogleが発表した猫の画像を認識する技術、いわゆる“ディープラーニング”である。この時、GoogleはCPUを2000個も使ってニューラルネットワークを構成したのだが、スタンフォード大のチームがNVIDIA製GPUを使って同じ計算をすると、わずか12個で実現できるという研究結果を発表した。つまり、GPUを使えば、AIの研究開発に大きなコンピューターが必要ないわけで、AI研究の間口を広げたことになる。

もちろん、“AIブーム”だという人もいる。確かに、1947年にアラン・チューリングが人工知能の概念を提唱したのち、’50年代に第一次、’80年代に第二次のAIブームが起こったが、その都度、技術的な課題が常に水を指してきた。

自動運転の分野でも、プラットフォーマーを狙う



現在は、AI第三次ブームだが、大きな技術的課題を乗り越えたことにより、一過性のブームでは終わらない状況に進みつつあると断言できるだろう。なぜなら、例外に対処できるようになり、フレーム問題を乗り越えた。ウェブ上にあるビッグデータを活用したディープラーニングの研究が進んだことにより、“特徴から概念を取り出す”ことができるようになり、シンボルクラウンディング問題(※1)が解決されたからだ。

さらに、GPUの活用でAI開発に大型コンピューターが不要となり、AI開発に拍車がかかった。実際、NVIDIA製『Jetson』というAIを積むハードウェアは、アマゾンで6万4000円で“ポチ”れる。さらに、開発言語も無償で提供されており、AIを成長させるために最適なクラウド・センターまでNVIDIAが提供しているのだ。

AIがそれほど簡単に開発できるとは! という驚きを胸に、NVIDIAの開発者向けイベント「GTC(=GPU Technology Conference)に足を運んだ。その内容は、“AI革命”と呼べるものだった。

今回の最大の話題は、高性能GPU『Volta』が新開発されたことに加えて、AI開発に最適化されたクラウド・センターを発表したことだ。これはつまり、「AIの開発速度を劇的に加速し、かつ開発の敷居を大幅に下げた」ことを意味している。



▲GTCでは、NVIDIAのAI技術を搭載したポリスカーが登場。巡回中に長時間停車しているクルマを検知するなど、人間のお巡りさんと連携することで、より効果的な警らを行う。

前置きがいささか長くなったが、NVIDAのこうしたAI開発は、そのまま自動運転の開発に生かされていくことにもなる。昨年、発表されて話題になった自動運転向けAI実装ボード『Xavier』と、それに組み込まれている「DLA(=ディープラーニング・アクセラレータ) 」のオープンソース化を進めていると発表したからだ。

……と聞いても、なにがスゴいんだよ! とツッコミが入りそうだが、平たく言えば、「自動運転を開発するにあたって、様々な投資を軽減し、誰もが気軽に開発できるようにする」ということだ。いくらなんでも、世界有数の設計チームが生み出した推論TPU(※2)を“無料”で提供するなんてことを、誰が考えつくだろうか? 当然、誰もが大きな投資なしにAIや自動運転の研究が可能になり、その分野の研究開発が加速するワケだ。もはや、NVIDIAは自動運転の開発におけるプラットフォーマーと呼べる存在となったのだ。



▲『Xavier DLA』をオープンソース化することにより、誰もが投資なしに自動運転の開発をできるようにした。

※1 シンボルグラウンディング問題とは、コンピュータによる記号システム内で、シンボルがどのようにして実世界の意味と結びつけられるかという問題。記号接地問題とも言う。

※2 TPUとはディープラーニング(深層学習)専用プロセッサ『Tensor Processing Unit』。

自動運転での通勤が前提

NVIDIA新キャンパス



もちろん、ただの社屋ではなかった。昨年のGTCで発表された3Dレンダリングの技術を使っており、建設がスタートする一年前の段階で、すでにVRで社屋内見学ができたのも驚きだったが、とうとう今年、建設中の本社社屋、“新キャンパス”の見学がかなった――。

現在の本社社屋とは、道を挟んだエリアに建設されていた。コンセプトは、“ポリゴン(=多角形)”である。ヘルメットとグラスとベストを手渡されて、建設中の新キャンパス内に足を踏み入れる。社屋全体は六角形をしており、3カ所のエントランスがある。三角形のポリゴンが凸凹して連なる外観は、まるで処理中の3Dグラフィックのようで、NVIDIAらしい。



▲新キャンパスの建築を担当するジョン・オブライアン氏。VR活用による3Dレンダリングの推進にも熱心だ。

天井にある三角形の窓やガラス張りの側面から、自然光が入る気持ちのいい室内空間だ。あらかじめ日照時間などを考慮したシミュレーションをしており、日中はほぼ自然光の光で照明を賄うことができるという。また、熱反射ガラスで覆うことに加えて、床暖房を備えており、室内の温度調整のために、エアコンが唸り声を立てるようなことはない。実際、音には非常に配慮された設計になっており、上階にあるワーキングスペースは、多少のざわつきを前提にしたパントリー、電話もおしゃべりも禁止の図書館エリア、その中間にあたるハングアウトしやすい程度にざわついた空間に、自然に分かれるように設計されている。



▲室内にもポリゴンが多用される。一階は、プレゼンテーションルームになっており、用途ごとに広さやメディアを使い分けることができる。



▲天井にはポリゴン型の明かり採り窓が開いており、天然光が降り注ぐ。

創業者のジェン スン ファン氏の席はどこか? と尋ねると、彼はいつでも会社にいるし、どこでも彼の席だよ、とのこと。冗談半分ではあるだろうが、創業社長として、現在もNVIDIAを牽引するジェン スン ファン氏が、会社のどこにでもいるというのは、半分は本気だろう。

現在の社屋に加えて、新キャンパスには、2500人ほどが勤務する予定だ。公共交通が乏しいシリコンバレーの通勤では、それだけの人がクルマで通うことになる。新キャンパスでは、自動運転のクルマが一般的になる前提で設計されており、社員がクルマを降りた後、クルマが自動で駐車することを想定した乗降エリアも設計している。自動運転の開発を牽引するNVIDIAらしい発想だ。



▲建設中の新キャンパス。外装には、熱を遮断するパネルが採用されている。

文/川端由美

かわばたゆみ/環境ジャーナリスト。自動車の環境問題と新技術を中心に執筆するほか、海外の展示会取材も積極的に行なう。

※『デジモノステーション』2017年8月号より抜粋