教育は平等、ではない。

親の経済力が子どもの教育や学力に反映される「教育格差」。

東京の中心で暮らす裕福な家庭では、子どもの教育に桁違いの金額を費やしていると聞く。

これまで、年間学費300万円をかけて世界のトップ層を目指したり、型にはまらぬ生き方を望むインターママ、親子4代で白百合学園育ちの方たちを紹介した。

今回は、慶應義塾幼稚舎という、華麗なる門をくぐった親子の実態に迫る。




#File04 ご縁こそ、宝。“社会の上澄み”が集う、慶應義塾幼稚舎という特権階級


名前:桜子さん
年齢:34歳
子ども:長女6歳
子どもの学校:慶應義塾幼稚舎

「大変お待たせいたしました」

ウェスティンホテル東京の『ザ・テラス』に現れた桜子さんを一目見て、取材班は慌てて背筋を正した。

競争率10倍とも言われる、慶應義塾幼稚舎(以下、幼稚舎と表記)。

日本の政財界を支える企業の御曹司やご令嬢、各界や梨園などの由緒ただしきお家柄の子どもたちが集う、言わずと知れた名門小学校である。

桜子さんの長女は今年、その狭き門を見事突破し、選ばれし144名の新1年生の1人となった。

コンサバの王道・上下ネイビーのコーディネートに、決して主張しないが上品に華を添えるパールのネックレス&ピアス。

わかりやすいブランド品はどこにも見当たらず、上質だが実用的なデザインの(つまり、ファッショナブルではない)白いレザートートを携えて現れた桜子さん。

-ああ、さすが。

取材班は一同、阿吽の呼吸で頷いた。

桜子さんの内側から滲み出るのは、母に徹する女の覚悟。その凜とした美しさを前にして、飾り立てた美などは一瞬で霞んでしまう。

取材班は、自身が持ってきたシャネルのバッグをそっと目につかぬ場所に隠し…まずは気になる、あの質問を投げかけた。

「桜子さんご夫妻も、やはり慶應のご出身なのですか?」


幼稚舎の狭き門は、やはり卒業生しか突破できない…?


親の面接はない。しかしながら…


「ええ。でも私も主人も、大学からです」

-なるほど…内部生ではないにしろ、やはり慶應一家ではあるらしい。

卒業生でないと入学は難しい。そんな噂がまことしやかに囁かれているが、桜子さんの話により信憑性を帯びてくる。

しかし桜子さんは、続いて意外な事実を教えてくれた。

「でも…親の出身校は、“直接的には”関係ないと思いますよ。幼稚舎のお受験は親の面接もありませんし、願書に出身校を書く欄もありませんから」

親の面接がないとは意外だった。

むしろ、親の面接で合否が決まるようなイメージさえあったが、それは無知ゆえの誤解だったようである。

しかし桜子さんの言い方には、微妙に引っかかる点がある。“直接的には”というのは、どういうわけか。直接的ではなくとも、“間接的には”合否に影響する、ということだろうか?

-では、ご両親の出身校は願書に書かないんですね?

取材班が念を押すように尋ねると、桜子さんは薄くマスカラを施した睫毛を数回上下したあとで、すっと目線を逸らした。




「…いえ、慶應出身者は、自由記入欄にそう書きます」

!!

あくまで、幼稚舎が親の出身校を聞き出しているわけではない。しかし、暗黙の了解がある、ということだ。

「それから…」

観念したように、桜子さんはゆっくりと口を開く。そして彼女の口から、さすがは慶應と言わざるを得ない、驚愕の審査基準の存在を知らされた。

「エントリーシートに、“福翁自伝*を読んでどう考えるか”を記載する箇所があるんです。別に慶應卒でなくても本を読めば書けますけど…慶應出身者は自身の経験談を交えることができる分、やはり内容が濃くなるし、書きやすいですよね」

福翁自伝の感想文…取材班は、その愛校精神に絶句してしまった。

慶應生たちの母校愛は、塾生以外から疎まれるのも致し方ないくらい、深い。しかしそうなるには理由があったのだ。

-それは…慶應生以外だと、なかなか難しいでしょうね。

取材班がポツリ、と呟くと桜子さんはまたしても驚きの内情を教えてくれた。

「そうですね。でも、幼稚舎受験を目指す親子がこぞって通う幼児教室があって、そこで“福翁自伝対策セミナー”が開催されるんです。他大卒の方はそこでポイントを教わるそうです…私は、行きませんでしたが」

福翁自伝対策セミナー…!

幼児教室の商売気に、取材班は感動すら覚えた。

それにしても、幼稚舎受験を目指す親は、幼児教室をはじめとする子どもの教育に、いったいどのくらい投資しているのだろうか。

*福翁自伝:幕末維新・明治の洋学者・教育者で、慶應義塾創設者である福沢諭吉晩年の自叙伝。


幼稚舎受験対策にかかる費用の相場は…?親子で挑む、お受験戦争


良質な縁が、モノを言う


-幼稚舎のお受験では、皆さん具体的にいつから、どのような準備をされるんですか?

当連載では以前、インターナショナルスクール入学の最低条件「5歳でバイリンガル」をクリアするため、年間300万円を費やしプレスクールに通わせる母親の存在を紹介した。

日本を代表する名門私立小学校、幼稚舎では、子どもたちにどういった資質が求められるのだろう。そしてそのために親は、どのような英才教育を受けさせているのか。

「幼稚舎のお受験は、子どもの行動観察・運動・絵画工作、の3つの観点で審査されます。そのため皆さん、幼児教室と、個人で運動と絵画の先生をつけていますね」

そもそも幼児教室という、未就学の子どもを対象とした予備校が存在すること自体が驚きだが、運動と絵画の、個人の先生とは一体…?

「運動なら○○先生、絵画なら△△先生と、ママ友間で情報が回るんです。そこからはネットワークを駆使して、個人的に直接コンタクトをとります」

…やはり幼稚舎、一筋縄ではいかないのである。

お受験そのもので問われなくとも、その過程ではやはりネットワーク力、つまり良質な縁がモノを言うのだから。

「きっと、私たちが幼稚舎出身だったら、もっと難なく情報を得られたでしょうね」

桜子さんはそう言って、口元だけで笑った。その渋い表情から、情報戦に疲弊したことが嫌でも伝わってくるのだった。




「実際、私たち夫婦は出遅れてしまって…4歳から幼児教室に通わせましたが、幼稚舎に毎年定員の半数を入学させている某有名幼児教室には、もう定員オーバーで入れませんでした」

その有名幼児教室には0歳児からのクラスがあり、人気ゆえ歳を重ねるごとに途中入学が難しくなるのだという。

-ちなみにその…幼児教室と、運動と絵画の先生への講師料も含めると、月額いくら位かかるものなのでしょう?

桜子さんが、さりげなく金額の話を避けていることに気づいてはいたが、取材班は思い切って尋ねた。

通わせる頻度や、講座によっても違うので…と、一旦は曖昧に誤魔化そうとした桜子さんではあったが、取材班が引かないのを見て観念したようである。

「そうですね、月20〜30万という方が多いのではないでしょうか。運動や絵画以外に英会話なども通わせて、月60万、なんて方もいらっしゃいましたけど」

月20万ということは…年間240万。しかもそれは通常時の話で、お受験間近になれば合宿やら冬季特訓、個別指導や志望校別模試など…どんどん費用は嵩む。

わかってはいたが、やはり幼稚舎は“社会の上澄み”が集う場所なのだ、と取材班は改めて痛感した。

小学校に入る前から、これだけの金額を子どもに投資できる家庭は必然的に限られる。

さらに言えば、経済的条件だけあれば良いわけでもないのだ。

もちろん、子どもの資質が最も重視されていることは間違いない。

とはいえ願書の自由記入欄を使って“間接的に”アピールできる経歴、そして、有用な情報を入手できる良質なネットワーク基盤を持つ者が有利となることもまた、事実なのである。

▶NEXT:7月10日 月曜更新予定
アンチ白百合学園のママの本音に迫る。

【これまでの華麗なるお受験】
Vol.1:年間学費300万!インターナショナルスクールの知られざる世界
Vol.2:型にはまらぬ人生を。多額の投資も厭わない、インターママのあり余る愛
Vol.3:「わきまえられること」が肝要。名門お嬢様学校、白百合学園の教え