アニメの背景美術語り合った(左から)川上量生、西村義明、庵野秀明

写真拡大

 庵野秀明(株式会社カラー)、西村義明(株式会社スタジオポノック)、川上量生(株式会社ドワンゴ)らが日本の手描き背景美術文化を守るべく立ち上げた背景美術スタジオ「でほぎゃらりー株主鼎談(ていだん)〜いま、アニメーション背景を語る。〜」が1日、内幸町のイイノホールで行われ、アニメの背景美術の大切さについて大いに語り合った。

 『思い出のマーニー』の米林宏昌監督がスタジオジブリ退社後、初めて手がけた長編アニメーション作品『メアリと魔女の花』の公開を記念して行われた本イベント。庵野は同スタジオ設立に賛同した思いについて「手描きはこれから状況的に厳しくなる。デジタルの方が効率がいいし、もうかるから。そういう中で、伝統工芸みたいなものを残したいし、あらがってほしい。それは作画にも言えますが。だからとにかく新人をとってほしいと言いました。新人が少しでも残ってくれれば、小さいながらも継続していけます」と熱く語る。

 西村によると、同スタジオ設立のきっかけのひとつに庵野の存在があったという。『かぐや姫の物語』制作中に、庵野が西村のもとを訪ねてきたことがあったそうで、「その時に庵野さんが会社を作ったらどうかと言ってくれたんです。庵野さんは宮さんの画が大好きなので、画を残したいと。それから子どもが主人公で一生懸命生きていくというアニメを残してほしいと。その時は制作で忙しかったんですが、それが頭に残っていたんですよね」と西村は述懐する。「僕が西村君に言ったのは宮崎さんの画の系譜を残してほしいということ。米林さんがやれば誰もあれパクりだとは言わない。あれジブリでしょと言われても、はいそうですと言えるのは米林さんだけなので」と語り、会場を爆笑の渦に包んだ。

 しかし当の宮崎駿はつい先日、長編制作復活を宣言してしまう。「でほぎゃらりーはジブリの背景美術をやっていた人を中心に作った会社です。ジブリがやってきたことを残そうと思って会社を作ったのに、ジブリは制作を初めちゃいました。なんだったんだと思いますよ。予想してましたけどね」とボヤいてみせた川上。庵野は「思った通りですね」と返答してみせ、会場は大盛り上がりとなった。

 背景美術の大切さについて庵野は「美術をいいところがやってくれるなら、長回しもできるようになりますし、演出も変わってきます。逆に美術に予算をかけないなら、どんな背景でもいいような演出になってしまう。そういう意味で、キャラクターデザインを誰がやるのかと同じくらいに美術監督を誰がやるのかというのは大事になるんです」と説明。川上も「アニメの人は美術が大事というわりには美術にお金をかけない。でも僕の感覚でいうと、ウェブサービスでは見た目というのはお金をかけていいところだと思う」と問題意識を抱えていたという。

 このスタジオ名の命名者は、『となりのトトロ』『もののけ姫』などの美術監督を務めた男鹿和雄。「でほぎゃ」というのは秋田弁で“でまかせ、口まかせ”を適当に言ってしまうことの意であり、男鹿がスタジオを立ち上げることがあったなら使おうと思っていた名前だったのだとか。その言葉を裏付けるように、手描き背景の極意とは、「描き込むところと手を抜くところのメリハリを付けること」にあるという登壇者たち。

 そんな流れから西村は、男鹿から「キャラクターが主役なので、背景は目の端で見たものを描くんです」と言われたというエピソードを紹介。庵野も「宮崎さんもパース(遠近法)はいいかげんでしたよ」と付け加えるなど、手描き背景の魅力を次々と語る登壇者たち。「アニメーションは面白いんです。だからいろんな幅があっていい。全部デジタルというのはポリゴン(ピクチュアズ)がやっていますけど、それもいい。“でほ”にもジブリのような手作りの良さもあった方がいい。だから僕らがアニメを作るときには、“でほ”にも協力してほしいと思っています」と付け加えた。(取材・文:壬生智裕)

映画『メアリと魔女の花』は7月8日より全国公開