@AUTOCAR

写真拡大 (全6枚)

text:Julian Rendell(ジュリアン・レンデル)

 

グループ200万台の夢とひとりの英国人

ボルボと、親会社の吉利汽車(ジーリー)が立ち上げたLynk&Co。それが成功するか否かは、英国人デザイナーのピーター・ホーブリーの双肩に掛かっている。

2011年以来、Lynk&Co立ち上げに向けて尽力してきたホーブリー。その仕事は、単にクルマをデザインするだけではなかった。

創立者は中国の企業家、吉利汽車を立ち上げた李書福。車両開発は吉利と、その傘下にあるボルボが手掛けた。

その目的は、中国と国外市場とのギャップを埋めることにある。つまりは、安価なベーシックカーを販売する吉利と、プレミアムブランドに位置づけられるボルボとの中間にポジショニングされるブランドだ。

吉利はグループ全体で200万台の生産を目指している。

「吉利での仕事を始めたときには、未完成のコンセプトカーが2台あり、少人数のデザイナーがいるだけでした。現在のLynk&Coは、デザイン関連だけで500人以上のスタッフを抱えています」とホーブリーは語る。

かつてクライスラーやボルボ、フォードでチーフデザイナーを務めた彼は、キャリア後半にあってもその辣腕ぶりを発揮し続けている。彼の最も知られた業績は、1990年代初頭に手掛けたボルボのデザイン再生だろう。

67歳という年齢の彼は、一般的には定年を迎えていてもおかしくないが、スローダウンするような気配を微塵もみせない。

入社、なにがきっかけだった?

「まったくの白紙からデザインを立ちあげるのが好きなんですよ。あらたにデザインチームを編成しましたが、完全にあたらしい自動車会社というのは魅力的でしたね」

ホーブリーは上海とバルセロナ、スウェーデン・イエーテボリの3ヶ所に、デザインセンターを設立した。年内には中国の慈渓に第4のデザインスタジオを開設する予定だ。

上海はアンドレアス・ニルソンの指揮の下、210人の精鋭が従事している。

バルセロナは完全にデジタル化された先行デザインスタジオで、ボルボから受け継いだもの。責任者はデイヴィッド・アンコナで、吉利の傘下で再生を図るロンドンタクシーはここが手掛けた。

イエーテボリのトップはガイ・バーゴインで、元ボルボのデザイナーが10名強所属していたが、現在は240名ほどのスタッフを擁し、欧州のメンバー中心のチームがLynk&Coのブランドとデザインの構築に当たっている。

「わたしたちは、単なるデザインだけでない仕事から始めましたが、マーケティング部門はありません」とはホーブリーの弁だ。

独特なスタイル貫く「Lynk&Co」

Lynk&Coは、独特なスタイルのブランドだ。中国資本で創設されたが、デザインや技術開発は欧州のメンバーが手掛け、生産の基準は欧州、設備は中国のボルボ向け工場を使用する。

ホーブリーが思い描くブランドとデザインのテーマは、スウェーデンの暗黒小説や、それを映像化したTVドラマに着想を求めたという。

「テーマはスカンジナビアン・ノワールです。それに、日々の暮らしの中で重要なものの多くはダークカラーだというのも、発想の源になっています。チョコレートやエスプレッソ、それにギネスとかね」

彼が率いるチームは、Lynk&Coのテーマを、クルマのフロント周りに表現した。グリルやボンネットの開口部形状、ヘッドランプやデイタイムランプなどだ。

「クルマの顔つきは、中国市場では非常に重要視されます。おそらく、西側の国々以上に」

結果として、Lynk&Coのデザインのキーとなる特徴は、ボディ幅いっぱいに広がった、ダークなプラスティックのスリムなグリル、そしてヘッドランプのハウジングの形状となった。フェンダー上部に配された見やすいランプは、デイタイムランプとしての機能性も十分だ。

ホーブリーは述べる。「グリルには様々なディテールを盛り込んでいます。中国の彫刻は、骨や木を材料にした小さな飾りでも驚くほど複雑です。その趣や歴史を反映しました。中国人はディテールを好みますからね」

ポルシェからヒントも

クラムシェル・ボンネットは、ポルシェ風の開き方をする。

「それはポルシェの専売特許というわけではないですよ。ポルシェ独自のデザイン要素といえば、フロントウインドウ上端の角が丸くなっていることですね」

ボンネットには、2本のリブが走る。これはボディサイドにも刻まれるが、ヒントになったのは上海の高層ビル群に切り取られた空だという。

ボディサイドはくっきりとした折れ目を設けず、リアのホイールアーチへと膨らむ、力強く張り出したショルダーが与えられる。

「SUVらしいテーマをより強めたもので、ですからそれを用いたセダンは、筋肉質でスポーティなシェイプになっています」というホーブリー。

今年の上海ショーで公開されたセダンタイプの03コンセプトは、まさにその言葉通りのデザインだった。

少なくとも5つの新型車をデザインしたというLynk&Coだが、ホーブリーには今後やるべき仕事がまだまだたくさん残っている。

「そうなんですよ。まだしばらくはここに残るつもりです。わたしたちは適切なプロのデザインのやり方を持ち込み、ゼロからデザイン部門を立ち上げました。フォードでの仕事を最後に引退することもできたんですが、それよりも今の仕事をしている方がずっと楽しいですよ」