2016年4月に起きた「熊本地震」により、熊本県内を走る鉄道路線の多くが影響を受けた。なかでも阿蘇地区を走る鉄道路線の被害は甚大で、いまもなおJR九州の豊肥(ほうひ)本線と南阿蘇鉄道で一部区間の列車運休が続いている。

 

豊肥本線の被害状況は前回報告したとおり深刻で、路線復旧に向けて課題も多い。では、一方の南阿蘇鉄道の状況はどうなのだろう。ここでは、復旧に向けて力強く動き出した南阿蘇鉄道の現状を見ていきたい。

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峡谷や山々が生み出す美景が自慢の南阿蘇鉄道

南阿蘇鉄道はJR豊肥本線の立野駅と高森駅の間、17.7kmを結ぶ第三セクター鉄道だ。元は国鉄高森線で1928(昭和3)年2月に路線が開業。1986(昭和61)年には、路線の運営が南阿蘇鉄道に引き継がれている。

 

南阿蘇鉄道では、会社が生まれた当初からトロッコ列車の運転を開始。トロッコ列車以外にレトロな形のディーゼルカーを導入させるなど、観光路線らしい列車や車両を走らせてきた。1992(平成4)年には「南阿蘇水の生まれる里白水高原駅」という日本一長い駅名を付けた新駅を開業させるなど、話題にもこと欠かない。

↑(震災前)立野橋梁をトロッコ列車+MT3010形気動車が渡る。当時はすばらしい眺望が楽しめた

↑(震災後)橋桁にヒビが入るなど、修復が必要になった立野橋梁。現在は周辺道路の補修などが進められている

 

沿線の風景もすばらしい。立野駅を発車するとすぐに立野橋梁を通過する。この橋梁は、支える橋脚が末広がり構造のトレッスル橋で、同じ姿だった余部橋梁(あまるべきょうりょう)が使われなくなったいまでは、貴重な姿を現代に伝える歴史的な建造物といっていい。さらに、現存するトレッスル橋としては日本最長(136.8m)で、橋上から望む眺望はスリリングかつ、開放感に満ちていた。

 

また、この立野橋梁の先に第一白川橋梁がある。こちらも深い峡谷に架かる橋で、その高さはなんと64.5m。造られた当時は日本で最も高い所に架けられた橋だった。こちらも橋の上からの眺めに定評あり。峡谷を抜けると北に阿蘇山、南に外輪山を望む阿蘇カルデラを列車はのんびりと走った。

↑(震災前)JR立野駅の東側に南阿蘇鉄道専用のホームがあり、ここから折り返し高森駅行きが発車した

↑(震災後)高森駅の待合室やトイレは施錠されていた。JRの施設に比べ、ホームなどの被害は軽微なようにも見えた

 

険しい立野駅〜長陽駅間に被害が集中

南阿蘇鉄道の沿線で美しい風景が楽しめたのが立野駅〜長陽駅間。阿蘇外輪山を侵食して流れる険しい峡谷を越え、人里離れた森林地帯を走るこの区間に甚大な被害が集中した。南阿蘇鉄道も自社ホームページ上で「2つのトンネルで内壁の崩落や亀裂が見つかり、鉄橋の橋桁も損傷、線路は250mにわたって流出している状況です」と報告している。

 

アクセス道路が寸断されたこともあり、被害状況を直に確認することはできなかったが、やや高森駅側にある阿蘇下田城ふれあい温泉駅では駅舎が崩れるなど、震災被害の一旦を見ることができた。

↑(震災後)駅舎内に温泉施設があった阿蘇下田城ふれあい温泉駅。建物が一部崩れたため、駅舎はシートに覆われていた

↑(震災後)阿蘇下田城ふれあい温泉駅から高森方面を望む。列車が走らない線路上にはピンクの花が咲き、のどかな風景が広がる

 

南阿蘇鉄道では、震災が起きてから3か月後の7月31日に比較的被害が軽微だった中松駅〜高森駅間で運行を再開。平日は3往復、土曜・休日はトロッコ列車の2往復を含めて4往復の列車を運転している。片道7kmながら、阿蘇カルデラの眺めが楽しめるトロッコ列車は人気で、訪れる旅行客も多い。さて、今後は南阿蘇鉄道の路線復旧はどのように進むのだろうか。

↑(震災後)中松駅の構内。同駅と高森駅間には本数は少ないながらも列車の運転が始められている

 

国主導による調査、そして復旧計画が進められる

地震が起こったちょうど1年後、2017年4月に国土交通省鉄道局により南阿蘇鉄道の被害状況がまとめられた。路線の復旧を目指した調査だけに、克明な報告が行われている。下記では、そのポイントをあげておこう。

 

【南阿蘇鉄道の被害状況】

1)現在、運転休止中の区間のうち、長陽駅〜中松駅間(5.8km)の被害箇所は計20か所。落石や軌道のゆがみなど、比較的軽微な被害が多いとされた

2)残りの立野駅〜長陽駅間(4.7km)の被害箇所は22か所。こちらの被害状況はより深刻で、犀角山(さいかくやま)トンネルと戸下(とした)トンネルの2本はいずれも、内部のひび割れなどの損傷が著しく、またトンネル内で横ずれなども確認された

3)2本の橋梁の被害について。前述した立野橋梁は橋桁のひび割れなど、被害は比較的軽微だった。だが、第一白川橋梁は損傷、そして変形箇所が多く、橋梁の掛け替えが必要という診断結果となった

↑(震災前)立野駅〜長陽駅間を走るMT3010形。風光明媚な同区間の被害がより深刻だった

 

つづいて、被害状況の診断と共に復旧するためにはどのぐらいの費用と復旧期間が必要かも算出された。その結果が下記となる。

 

【南阿蘇鉄道の復旧に必要な費用と期間】

1)立野橋梁と長陽駅〜中松駅間の復旧に約5億円。復旧まで1年程度が必要

2)犀角山トンネルと戸下トンネルの復旧に約20〜25億円。復旧まで3年程度が必要

3)第一白川橋梁の復旧に約40億円。復旧まで5年程度が必要

 

復旧費は総額で約65〜70億円と算出された。被災した鉄道路線を復旧する場合に、費用の負担の割合は通常、鉄道会社が半分、国が4分の1、関係自治体が残りの4分の1を援助するという制度がある(鉄道会社が赤字の場合)。南阿蘇鉄道の場合は、年間の売り上げが1億円ほどで、半分を負担する資金力はとてもない。さらに、沿線自治体の高森町と南阿蘇村にそうした負担を求めることは難しい。

↑南阿蘇鉄道の終着駅・高森。駅前商店街もあり、高森町の中心駅らしい活気が感じられる

 

鉄道会社の負担をゼロにしたうえで、国の負担と関係自治体の負担を半分ずつにする案も検討された。この負担軽減策も、鉄道以外の災害復旧に追われる自治体には厳しい。そこで「補助災害復旧事業債」の活用が認められることに。この特例により、国が復旧費の97.5%を負担するという方針がほぼ固まった。

 

地元自治体の負担は2.5%(約1億6千250万円〜)と軽減される。今後、自治体内での負担率と南阿蘇鉄道の再建計画が2017年8月までにまとめられる予定となっている。

 

高森駅では「復興応援グッズ」を販売

順調に行けば長陽駅〜中松駅間の復旧は2018年度中、また立野駅〜長陽駅は2022年度ごろには復旧となる見込み。また、JR豊肥本線の復旧も肥後大津駅〜立野駅間は先行して進められる予定だ。こちらの復旧時期は明確ではないが、2022年度には熊本駅からJR豊肥本線を利用し、立野駅で列車を乗り換えて南阿蘇鉄道を訪れることも可能になりそうだ。

↑高森駅の駅舎内では復興応援グッズや阿蘇の土産品が数多く販売されている

 

南阿蘇鉄道の高森駅の駅舎には、同社の本社事務所がある。屋内では地元の土産物以外に、南阿蘇鉄道関連の「復興応援グッズ」も多く置かれていた。南阿蘇鉄道を応援しようとグッズの購入に訪れる人も見受けられるなど、活気が感じられた。

 

なお、「南阿蘇鉄道応援サイト」も立ち上げられ、応援グッズのオンラインショップや募金コーナーも開設。列車が走る高森駅〜中松駅間では、色々なイベント列車の運行なども活発に行われている。

↑高森駅から徒歩10分の「高森湧水トンネル公園(入場料300円)」。国鉄時代に高森線と宮崎県を走る高千穂線を結ぶために掘られたトンネルを公園化した。内部は真夏でも17度でひんやりしており、高森駅を訪れた際にはぜひ訪れたい

 

全線復旧へ向けて“力強く”歩み出した南阿蘇鉄道。震災後から1年あまり、いまはまだ注目度が高いように思えるが、全面復旧まで5年ほどの時間がかかる。5年の年月は短いようで長い。阿蘇カルデラという魅力的な観光資源に囲まれた南阿蘇鉄道。美しい橋梁を列車が再び走る姿を夢見つつ、今後も力強く応援していきたい。