中国人民大学の[革斤]雨桐さんは日本を訪れる中国人に、日本製品を買うだけでなく、日本でしかできない体験を大事にしてほしいと願っている。

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訪日中国人客の爆買いの心理を「日本でしか買えないこと」にあると分析するのは中国人民大学の[革斤]雨桐さん。日本を訪れる中国人に、日本製品を買うだけでなく、日本でしかできない体験を大事にしてほしいと願っている。

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昨年、日本を訪れた時、あることに気づいた。それは、日本には「限定」の商品が非常に多いということだ。「京都限定の抹茶ケーキ」や東京タワーで売っている「冬限定の記念品」などがある。また、アイスクリームの味も季節によって変わっている。そういう「限定」のものが一般的にはよく売れているようだ。

どうして「限定」のものが好きな人が多いのだろうか。その秘密は「限定」という言葉にあるように思われる。中国のことわざに「物は稀なるをもって貴しとなす」という一言があるように、人は珍しいものが欲しいという気持ちは普通だと思う。「今でないと手に入れられない」「これを買うなら今だ」という気持ちで、つい買いたくなってしまうのだ。

近年、訪日中国人の「爆買い」が話題になっているが、ここにも同じ心理が働いているように思われる。彼らは「日本製の化粧品、日用品、家電製品などは中国で売っていないから、日本にいるうちにいっぱい買わないとだめだ」と思っているのだろう。しかし、訪日中国人にとって「日本限定」なのは、お店で売っている商品だけなのだろうか。

私は松尾芭蕉の一句が好きだ。「古池や蛙飛びこむ水の音」。これは松尾芭蕉が当時見た「一瞬限定」の景色だろう。「池」、「蛙」、「水の音」などは普通過ぎるのではないかという疑問を抱いている人がいるかもしれない。しかし、この句は、普通に思えるような景色が実は、時間的に唯一無二の貴重な体験なのだということを教えてくれる。

これと同じように、私たちが日本で過ごす一瞬一瞬が、実は貴重な「日本限定」の体験なのではないだろうか。私は日本でそういう唯一無二をたくさん経験した。

たとえば、去年の9月下旬に宮城に行く途中でのおじさんとの出会いだ。宮城で行われる嵐のコンサートに行くために、友達と2人で京都から夜行バスを乗り継いで、新幹線で仙台に行った。新幹線に乗る前は全然寝られなかったので、二人とも非常に疲れている状態だった。新幹線もかなり混んでいたので、友達と分かれて座った。その時、隣の席にいたのがスーツのおじさんだった。

おじさんは疲れている私を見て、「どうしたの?お嬢様も宮城ですか?」と声をかけてくれた。そこから会話が始まった。宮城の有名な「ひとめぼれ」というお米のことから、京都の名所までいろいろ話してくれた。宮城に着いて、駅で「さようなら」と挨拶したあと、そのおじさんとは二度と会うことはなかった。そのおじさんは本当にあの日、あの列車でないと会えない人だ。そのスーツ姿のおじさんは私の「期間限定」だった。

さっき出逢った人はこれから一生、再び会えないかもしれない。今歩いている道は二度と踏むことさえできないかもしれない。どこかにある、見た目が地味なお店で食べたカツ丼の味は、記憶でしか味わえないということもあるだろう。そういった数多くのことが、もう一度再現できないかもしれないからこそ、自分の貴重な経験になるのだ。

訪日中の一瞬一瞬が日本でしか味わえない「日本限定」の貴重な体験である。「日本限定の商品」ばかりにとらわれず、より多くの人に自分だけの「古池の音」を見つけてほしい。(編集/北田)

※本文は、第十二回中国人の日本語作文コンクール受賞作品集「訪日中国人『爆買い』以外にできること」(段躍中編、日本僑報社、2016年)より、[革斤]雨桐さん(中国人民大学)の作品『「日本限定」に出合おう』を編集したものです。文中の表現は基本的に原文のまま記載しています。なお、作文は日本僑報社の許可を得て掲載しています。