キャッシュレス社会、最初に実現するのはインドか

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インドに関するここ1年で最大のニュースは、ナレンドラ・モディ首相が打ち出した高額紙幣の廃止だ。使用できなくなったのは、同国内で流通していた紙幣全体の86%を占めていたとされる。


だが、実際にはインドでは、これをはるかに上回る多大な影響を社会全体に及ぼし得ることが起きている。それは、「インディア・スタック(India Stack)」と呼ばれるプロジェクトの開始だ。


インドでは2009年まで、身分証明書といえるものを一切持たず、出生証明書さえないという人が国民のおよそ半数を占めていた。身分証明書がなければ、その人は銀行を利用することも、保険に加入することも、運転免許証を取得することさえできない。そのためこうした人たちには、起業などの機会も与えられなかった。

そこで政府が同年に立ち上げたのが、「アドハー(Aadhaar)」プロジェクトだった。


同プロジェクトは指紋認識と網膜スキャン技術を使用する生体認証データベースで、12桁の(全国民に割り当てられた)デジタルIDを使用するもの。これまでに実際に導入されたITプロジェクトの中で最大規模、かつ最も大きな成功を収めた例とされている。デジタルIDを取得したインド国民は2016年末までに、人口の95%に当たる約11億人に上っている。


だが、このプロジェクトはインドにとって、始まりに過ぎなかった。同国は2016年、デジタル化に向けたもう一つのプロジェクト、「インディア・スタック」に着手した。


インディア・スタックは、国民の住所、銀行取引や納税申告に関する情報、雇用記録、医療記録などのデータを保存し、共有するための安全なネットワークシステムだ。アドハーを通じてアクセス・共有が可能になっている。簡単に言えば、インディア・スタックは新たなデジタル社会の基盤になり得るものだ。



可能になった「キャッシュレスの世界」


ここで、昨年行われた高額紙幣の廃止についてもう一度考えてみる。モディ首相によるこの決定は、その他の事柄とは関連のない一つの出来事と見られた。だが、これは全ての国民を新たなデジタル・システムへと移行させるものでもあった。


アドハー・プロジェクトが開始されて以来、インドでは新たに2億7000万近い銀行口座が開設された。マスターカードが2015年に発表した報告書によると、インドは当時、デジタル決済システムへの移行の準備が最も遅れている国の一つだった。


だが、報告書から一年ほどの間に、そのシステムは導入が開始された。数年前には現金以外で行われる取引が全体のわずか2%にすぎなかったインドでデジタル社会への移行が実現されるなら、そうした移行は他のどこでも起こり得る。


インディア・スタックは、先進各国のデジタル決済システムへの移行を大きく加速させ、同時に現金利用の終わりを告げるものになったのかもしれない。抜け目のない投資家たちは、この「革命」に大きな投資機会があると見ているだろう。



インドでは、金融システムが抱える多額の不良債権が経済成長の大きな足かせとなってきた。不良債権残高は2009年以降、4倍ほどに膨れ上がっていた。そして、モディ首相による高額紙幣の廃止は、この点に関して非常に重要なことを達成したといえる──銀行の資本構成を改めたのだ。


高額紙幣の廃止以降、インドの銀行システムには新たに800億ドル以上が流入。市場はこれを好感した。2017年の初め以降、インドの銀行大手12行の銘柄で構成するニフティ銀行指数は約30%上昇している。一連の改革が進むなか、通信、テクノロジー関連株も今後、急伸することが見込まれている。