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■どんなクルマ?

もはやレーシングカー

無駄を省いた妥協なきサーキットスペシャルを造ろうと思ったとき、そのベース車として現行マスタングが筆頭に上がることはないだろう、正直な話。

理由のひとつは、その巨体と呼んでも差し支えないボディサイズだ。たとえばGT3仕様が成功を収めているポルシェ911と比較すると、全長はおよそ30cm、全幅も10cmほど上回る。しかも、V8搭載の現行マスタングGTは素のMT仕様でも1700kg近い。

もっとも、そうした大きなクルマを扱い慣れているフォード・パフォーマンスとしては、寸法は大きな問題ではなかったようだ。

それでも重量だけは無視できるものではなく、GT350Rにはリアシートやオーディオ、ナビやエアコンが装備されない(ただし、後席以外の3つはオプションリストに掲載されているが)。

また、ホイールにはカーボン素材を用い、1本当たり6kg軽量化。5.0GTから60kgの削減は目覚ましいというほどではないが、効果は確実にあろう。

シャシーはコンポーネンツのアップグレードはもちろん、サーキット走行重視のセッティングも施される。また、各部に追加されたエアロパーツにより、ベース車よりはるかに強力なダウンフォースを得ている。

しかし、最大の注目ポイントはボンネットの下に収められた5.2ℓV8だ。アメリカンマッスルカーの典型的なパワープラントとは異なり、欧州スポーツカーの領域に踏み込むような、フラットプレーンクランクを持つ高回転型ユニットである。

その最高回転数は8000rpm以上で、6500rpm以下に留まる既存のクロスプレーンV8をはるかに上回る。

最高出力533ps/7500rpm、最大トルク59.3kg-m/4750rpmというスペックは、低速トルクの豊かさを売りにゆったりと回るアメリカンV8の常識とは趣を異にするものだ。

サウンドもまたマスタングらしい低い轟きではなく、高らかに響く唸りと咆哮を聞かせる。

■どんな感じ?

フォード「公道? 配慮していません」

現状で最も過激なマスタングとなるGT350Rは、すでにラインナップしているGT350とは比べものにならないほど、サーキットユースを徹底的に追求したモデルだ。

実際「このクルマでは公道走行の要件に配慮することを考えなかった」というのがフォードの主張だ。

シートはホールド性を重視した専用のレカロで、ステアリングホイールはアルカンターラ巻き。シートは通常のマスタングより5cm近く低く設置され、ステアリングコラムを目一杯手前に引き寄せると、ほぼ完璧なドライビングポジションが決まる。

フォードがこのGT350Rをサーキットスペシャルとして評価してほしいなら、スラクストンを市場場所に選んだのは正解だ。

英国一のハイスピードコースは、クルマもドライバーも容赦なく力量を試される、高速セクションとタイトでテクニカルなセクションを併せ持つ。

GT350Rは、その要求を易々とこなす実力の持ち主だ。サーキットでの走りは、キャナルボートの操船を思わせるほど巧みで、無駄を剥ぎ取ったモデルらしく、クローズドコースで本領を存分に発揮する。

極めてシャープでダイレクト

かなりアグレッシブにセッティングされたサスペンションは、通常のマスタングにあるフワフワと揺れるような動きを完全に排除し、アジリティとコントロール性、精確さをもたらしている。

スラクストンには、通り一遍のクルマでは歯が立たないセクションが随所に存在する。まず、ピットアウトするといきなり緩やかな左コーナー、それを抜けると、ハードブレーキを要求されるタイトなコーナーが立て続けに迫る。

たいがいのクルマならここですっかり面食らうのだが、GT350Rは難なくそれを吞み込んでいく。

ステアリングは極めてシャープでダイレクト、ブレンボの巨大なブレーキは秀逸で、ミシュラン・パイロットスポーツ・カップ2は強力無比のグリップとトラクションを生む。

圧倒的に速度が乗るチャーチ・コーナーをはじめとする高速セクションでは、驚くほどのスタビリティを発揮するが、これには空力パッケージの貢献が大きい。ロールもブレーキング時のダイブもわずかで、ボディの大きさや重量を忘れるほどだ。

8000rpmのレッドラインめがけて回るエンジンは、斬新な体験を味わわせてくれる。活気に満ちたこのV8はまさに走りのキモで、このシェルビー・マスタングを力強く突進させる。

レスポンスは、マスタングGTのそれよりはるかに優れている。エンジン回転を呼び覚ますのに、GTであればスロットルペダルを強く踏み込まなければならないところだが、GT350Rなら軽くひと押しするだけで回転計の針が跳ね上がり、シフトダウン時のブリッピングも決まる。

■「買い」か?

サーキットマシンとしては実に有能

ベースのマスタングが完全に公道向けのクルマであることを考慮すれば、このGT350Rがサーキットで見せた性能は驚くべきものだ。

しかし、正直に言えば、パワーアップしてシャシーを固め、ハイグリップタイヤを履かせれば、たいていのクルマは速くなる。

真に難しいのは、サーキットでのパフォーマンスと、バンピーな公道での走りとを両立することだ。それに関しては、ポルシェの得意分野である。

残念ながら、今回は凹凸の多いカントリーロードでこのスペシャルなマスタングを試す機会には恵まれなかったが、305mmもの幅があるフロントタイヤであれば、路面に足を取られることが十分に予想できる。

しかし、サーキットマシンとしては実に有能で、しかも楽しいことだけは間違いない。

フォード・シェルビー・マスタングGT350R

■価格 $65,000(730万円) 
■全長×全幅×全高 NA 
■最高速度 285km/h 
■0-97km/h加速 3.9秒 
■燃費 5.7km/ℓ 
■CO2排出量 NA 
■乾燥重量 1660kg 
■エンジン V型8気筒5163ccガソリン 
■最高出力 534ps/7500rpm 
■最大トルク 59.3kg-m/4750rpm 
■ギアボックス 6速マニュアル