眠りとは違う? 「昏睡状態」とはどういう状態なのか

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執筆:藤尾 薫子(保健師・看護師)
医療監修:株式会社とらうべ


昏睡は高度な意識障害です。

他人が呼びかけても反応しないし、痛みなどにも反応しません。医学的には「刺激に対して反応を示さない状態」とされています。

見た目はまるで眠っているようで、軽度の場合なら刺激を与えると目覚める場合もありますが、重度になると深く眠ったままです。

今回はそんな「昏睡状態」について解説いたしましょう。

意識障害としての昏睡

意識障害には、完全に目覚めている「覚醒」状態から意識不明が続く重い「昏睡」状態まで、「清明(はっきりしている)度」を軸とした量的障害としての意識の混濁具合と、意識の内容が常態を越えて変わってしまう「質」的な障害との2つの軸から診断されます。

昏睡はこのうち量的障害に属しています。

量的な意識障害は、その程度によって、次のように軽度のものから5段階に区分されています。

1. 明識困難


ややぼんやりとして思考のまとまりが十分でなく、見当識障害は見られない

2. 昏蒙


うとうとしている状態、浅眠状態でぼんやりとしている

3. 傾眠


呼びかけると目を開けるが、また眠る

4. 嗜眠・昏眠・昏迷


つねると目を開けるといった刺激が加わらないと眠り込んでしまう

5. 昏睡(コーマ)


つねっても無反応のように、刺激を与えても覚醒しない

以上の5つの区分は、その境界が連続的です。

そして、意識混濁の程度が重くなるほど、治療による回復の可能性も低くなりますし、死に至る危険性も高くなってきます。

昏睡状態の検査法はあるの?

意識障害の原因として脳疾患が疑われる場合は、頭部MRI、CTスキャンなどが施行されます。

それでも脳の形態異常が見られなければ、脳機能検査、血液検査、尿検査、髄液検査など、意識障害の身体的原因が検査されます。

また、意識混濁の程度を客観的に評価する尺度もあります。

たとえば、日本でよく用いられる「JCS(ジャパン・コーマ・スケール)※」は、刺激に対する反応としての意識の混濁を3×3の9度に分類する尺度です。

これによると、昏睡は3ケタの意識障害で、半昏睡、昏睡、深昏睡の3段階に分けられます。死期が迫って緊急治療が必要な状態です。

(※JCSの詳細については、次のサイトを参照してください ⇒ https://www.kango-roo.com/sn/k/view/3082)

昏睡状態の原因となる病気

それではどのような状態や病気の場合、昏睡に陥るのでしょうか。

その原因としては、次のようなものが挙げられています。

脳幹損傷などの激しい外傷


脳幹に損傷や圧迫が起きたり、脳の血管が圧迫された場合

さまざまな脳疾患


脳卒中、脳動脈瘤、くも膜下出血

熱中症の重症化

内臓疾患


肝臓がん、急性腎不全、肝炎、劇症肝炎、肝硬変、肝性脳炎、糖尿病など

薬の中毒


急性アルコール中毒、有機リン剤中毒、ウェルニッケ脳症、植物毒(食中毒)

感染症


日本脳炎、単純ヘルぺス脳炎など

昏睡状態は回復するの?

ひとたび昏睡状態に陥ると、残念ながら多くの場合、治療も難しく回復もままならないのが現状のようです。とくに、高齢者になるほど回復の可能性は低いと言われています。

ただし、脊椎反応は失われていないので、昏睡状態に陥っても外界の刺激に無反応なままとは限らないという指摘もあります。

昏睡状態から意識を回復したケースもあるので、次のようなことが意識回復の可能性として挙げられています。


・親しい人が話しかけるのをあきらめない

・音楽をかける

・身体をさする

昏睡状態で周囲の声は聞こえるの?

昏睡状態自体は無反応のようですが、刺激を与え続けることで状態が変化してくる可能性もないわけではありません。

そんな時、もっとも早く回復する機能が「聴覚」といわれていますので、家族などが話しかけ続けることで、脳に何らかの変化が起こり、昏睡状態が軽減されて、患者には声が聞こえることもないわけではないようです。

奇跡的に回復した患者さんの体験記などでは、そのようなことも記述されています。

<執筆者プロフィール>
藤尾 薫子(ふじお・かおるこ)
助産師・保健師。株式会社 とらうべ 社員。産業保健(働く人の健康管理)のベテラン


<監修者プロフィール>
株式会社 とらうべ
医師・助産師・保健師・看護師・管理栄養士・心理学者・精神保健福祉士など専門家により、医療・健康に関連する情報について、信頼性の確認・検証サービスを提供