日本が10年ぶりに出場したU-20W杯で、決勝トーナメントに進出したのはまだ記憶に新しいところだが、その大会でPK戦に新方式が導入されていたことは、あまり知られていない事実だろう。


先のU-20W杯でも導入された新たなPK戦方式

 通称「ABBA(アバ)方式」と呼ばれる新PK戦方式が、なぜ導入されたかと言えば、理由は簡単。PK戦では、先に蹴る先攻が有利というデータがあるからだ。

 FIFA(国際サッカー連盟)に先駆け、今年行なわれたいくつかの国際大会で同様の新方式を採用したUEFA(欧州サッカー連盟)の公式HPによれば、「IFAB(国際サッカー評議会=サッカーのルール制定機関)によると、サッカー競技規則で勝負の決着方法として定められている現行のPK戦システムでは、先に蹴るチームが不当に有利になることが明らかになっている」という。

 そこで、PK戦における先攻と後攻での有利不利をなくすため、AチームとBチームが対戦したとき、従来のように常にAが先に蹴るのではなく、新方式では1本目をAが先に蹴ったら、2本目はBが先に蹴り、3本目は再びAが先に蹴る、というように、1本ずつ交互に先攻後攻を入れ替えていく。

 つまり、今まではA→B→A→B……の順に蹴っていたが、新方式ではA→B→B→A……の順に蹴ることになるため、「ABBA方式」と呼ばれる。テニスに詳しい人なら、タイブレーク時のサーブ権をイメージするといいだろう。

 では、実際のところ、この新方式は公平性という点でどの程度の効果が見られたのだろうか。U-20W杯でPK戦までもつれ込んだ試合を振り返り、検証してみたい。

 この大会では決勝トーナメント全16試合のうち3試合が延長戦でも決着がつかず、新方式によるPK戦が行なわれている。結果は以下のとおりだ。

◆準々決勝(PK戦)ポルトガル4-5ウルグアイ
ポルトガル ○  ○○  ○×  ××
ウルグアイ  ○○  ○○  ××  ○

◆準決勝(PK戦)ベネズエラ4-3ウルグアイ
ベネズエラ ○  ○○  ×○
ウルグアイ  ○×  ○○  ×

◆3位決定戦(PK戦)ウルグアイ1-4イタリア
ウルグアイ ○  ××
イタ リア  ○○  ○○

 3試合の結果を見れば、先攻の1勝2敗。先攻有利は是正されているように見える。

 しかし、わずか3試合のサンプルしかなく、勝敗の結果だけに目を向けることはあまり意味がない。この3試合のサンプルケースにおいて注目すべきは、PKの失敗に”ある傾向”が見られるという点だ。

 ポイントは、1本目を先攻に蹴り始めたチームでは3、5、7本目、1本目を後攻で蹴り始めたチームでは2、4、6本目。つまり、同一チームが2本連続で蹴る2本目のPKである。

 3試合でPK失敗は全部で10本あったが、そのうち5本がこの”2本連続の2本目”に該当するのだ。

 10本のうち5本なら、確率は50%。単純な数字だけなら、”2本連続の2本目”が特段失敗の確率が高いとは言えない。そこで、失敗の内容をもう少し細かく見てみたい。

“2本連続の2本目”で失敗した5回のPKのうち3回は、その直前のPK、”2本連続の1本目”で失敗が起きている。つまり、1本目に引っ張られる形で2本目の失敗が起きているのだ。

 不思議なことにPK戦では、失敗の連鎖が起きやすい。Aが外すと、直後にBも外す。科学的根拠には乏しいが、サッカーに詳しい人なら”あるある”のひとつだろう。

 この失敗の連鎖が、従来なら相手チームに起きていたわけだが、2本連続で同じチームが蹴る新方式の場合、自チームに連鎖する可能性があるということだ。1本目の失敗が2本目に連鎖したケースが3度あるのに対し、1本目を外したものの2本目は決めたケースになると、1度あるだけだ。

 さらに言えば、1本目を外したが、2本目は決めたケースが1度なのに対し、1本目を決めたが、2本目は外したケースは2度起きている。こうした現象が、”2本連続の2本目”に失敗が多くなる印象を強くしているのだ。

 なぜ2本目で失敗が起きやすいのか。その理由はひとつではないだろうが、最大の理由として、”GKの慣れ”が考えられる。

 同一チームが2本連続で蹴ると言っても、当然キッカーは入れ替わる。そのため、キッカー自身にとっては1本目のPKだ。しかし、GKは立て続けに2本のPKに臨むため、心身ともにほぐれた状態で2本目に臨めるのではないだろうか。実際、現場でこの様子を見ていても、連続2本目に臨むGKには心なしか、いくらかの余裕や落ち着きが感じられた。

 やはり、この新PK方式では1本ごとに先攻後攻を入れ替える結果、「同一チームが2本連続で蹴ることになる」という点が、キモだと言っていいだろう。従来のPK方式では1人目と5人目にPKが得意な強心臓の選手を置くのが定石だったが、新方式では、1本目が先攻なら3、5人目、1本目が後攻なら2、4人目が重要になってくる。

 では、新PK方式は本当に先攻後攻の公平化に有効なのか。この最も重要な問題について、以上の検証を踏まえて結論を出してみたい。

 実際に新PK方式を体験したチームの監督に話を聞いてみると、実に3試合すべてのPK戦に関わったウルグアイのファビアン・コイト監督は、「いいアイディアだ。とてもフェアなやり方だと思う」。だが、その一方で、イタリアのアルベリコ・エヴァーニ監督は、「何かが大きく変わるわけではない。たいした違いはない」。両者は対照的な意見だったわけだが、ここまで見てきた検証結果で言えば、エヴァーニ監督が言うように、たいした違いはなく、先攻有利は変わらないのではないか、というのが、ここでの結論だ。

 なぜなら、”2本連続で蹴る2本目”に失敗が起きる可能性が高いことを前提にすれば、2本連続で蹴る必要のない1本目の先攻を取るほうが、やはり有利だと言えるからだ。いや、そうだとすれば、むしろ従来の方式以上に先攻有利になる可能性すらあるのではないだろうか。

 サンプル数がわずかに3試合しかないため、確かなことはわからないが、その効果には疑問を感じるというのが、新方式で行なわれたPK戦を見てみた印象である。

 ちなみに、この新方式はあくまでも試験的な導入段階にあり、今後、FIFAやUEFAが主催する国際大会でPK戦の方式がどうなっていくかは未定だ。日本サッカー協会によれば、日本国内の大会では現段階で導入の予定はないとのことである。

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