’90年代に人気を博した映画監督ハル・ハートリー

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 NYインディーズシーンの旗手として’90年代に人気を博した名監督ハル・ハートリー。『トラスト・ミー』『シンプルメン』など、切なさと清涼感をあわせ持った傑作で知られ、’95年発表の『フラート』では東京ロケを敢行。永瀬正敏や二階堂美穂ら日本の俳優も出演し、二階堂美穂とはプライベートでも結婚するなど(’13年に円満離婚)日本との関わりも少なくない。

 そのハートリーが自作「ヘンリー・フール三部作」のBOXセットをリリースするために、現在クラウドファンディングを行っている(〆切は7月13日)。第一作の『ヘンリー・フール』(’97年)は日本でも劇場公開されたが、第二作の『フェイ・グリム』(’06年)と最終作『ネッド・ライフル』(’14年)は未公開。そして3作ともDVDやBlu-rayがリリースされておらず、長らく観ることが叶わない“幻”の状態が続いていた。

 ハートリーの目的は、「三部作」をHDリマスターで、日本語を含む5か国語の字幕を付けてリリースすること。「これが『ヘンリー・フール三部作』をちゃんとした形で観てもらえる人生で一度きりのチャンスになると思う」と切実な事情を明かす。『フェイ・グリム』は権利を別の会社が持っており、長い交渉の末に「“三部作”というパッケージの一本としてならリリースしても構わない」という話までこぎつけたのだという。

 ハートリーにとってクラウドファンディングで出資を募るのは3度目。インディペンデントのスタンスを貫き続けてきたハートリーは、早くから映画ファンと直接繋がって出資を募ったり、作品を配給できるインターネットの可能性に注目してきた。2000年代初頭にネットで新作を公開したのは、当時の通信速度が遅すぎてほとんど失敗に終わってしまったが。

――今回、なぜ「ヘンリー・フール三部作」に日本語字幕を付けようと思ったんですか?

ハートリー:それこそが、今回クラウドファンディングを始めた理由だよ! 日本はずっと僕の映画を好意的に受け入れてくれていたからね。僕は’80年代後半から映画を作り始めて、’90年代にはインディペンデント映画の波を確かに感じていたけれど、その後、インディーズ映画のシーンはビジネス優先の企業に取って代わられてしまったと思う。今では僕の作品も出資や配給先を見つけるのが難しい。だからこそ、僕の作品を世界中の人に観てもらうために5か国語の字幕を付けたいと思ったんだ。

――数ある監督作の中で「ヘンリー・フール三部作」を選ばれた理由を教えてください。

ハートリー:「ヘンリー・フール三部作」は約20年かけて製作した、それぞれにテイストが違う独立した作品だけど、3本通して観てもらえれば全体のテーマがよりはっきり浮かび上がる。僕は’90年代に若者たちのメロドラマを多く撮っていたけれど、その後、混沌としたリアルな世界の在り方を映し出したいと思うように変化した。「三部作」を通して観てもらえれば、僕が意図していたことがより明確に伝わるし、今の時代にリリースする意味があると思っているよ。

――日本では、人気の高い『トラスト・ミー』がDVDやBlu-ray化されておらず、’14年にリバイバル特集が組まれた時にも上映されていません。『トラスト・ミー』の権利はどうなっていますか?

ハートリー:今では初期作の権利はすべて僕が持っているから、「ヘンリー・フール三部作」のBOXセットが成功すれば、『トラスト・ミー』も5か国後の字幕を付けて再リリースするつもりだよ。これから3年をかけて、これまでに撮った長編、中編をHDリマスターのコレクションとしてリリースしていく計画なんだ。

――もしクラウドファンディングが目標額に達しなかったらどうなるのですか?

ハートリー:ファンディングが成功しなくても「ヘンリー・フール三部作」のBOXセットは11月に僕の会社(POSSIBLE FILMS)からリリースされるんだけど、初めての試みである字幕については、まだなんとも言えない状態なんだよね。今回のキャンペーンはリサーチも兼ねていて、100ドルの出資が100人集まれば日本語の字幕のニーズがあると判断して、その費用も捻出できる。だからなんとしても100人に参加の声を挙げてもらいたいんだ!

 今も昔もインディペンデントの道をひた走るハートリー。その想いに日本が応えられるかは今回のファンディングの結果次第。外国映画はどうしても配給会社が買い付けてくれるのを待つしかない状況が続いていたが、海外の映画監督が直接映画ファンに呼びかけて日本語化を試みる珍しいケースだけに、プロジェクトの推移を見守りたい。

取材・文/村山 章

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