多くの人と繋がれるSNSは便利だが、内容によっては炎上のリスクがある。とりわけジェンダーに関する投稿は内容に注意しないと、個人だけでなく企業や自治体の発信が大炎上することもある。

ジェンダー論に詳しい評論家・勝部元気氏は6月23日、東京都武蔵野市の男女共同参画センターが開催する「武蔵野市男女共同参画フォーラム2017」で、「SNSと炎上時代のジェンダー問題」をテーマに講演を行った。

「モテの格差」に不満を抱く男性が女性を攻撃する

男女平等を否定する人の心理について、勝部氏はトランプ米大統領への投票者層を引き合いに出して説明した。

「トランプ氏に投票したのは、旧保守派の人よりも、製造業に従事する低賃金の男性が中心でした。彼らは鬱屈した感情を持っており、大統領選でグレート・リセットを求めたのです。
日本のネットが抱えるジェンダー問題も同様に考えられます。ネットでは『男たるものこうあるべき』という保守的な価値観はあまり見受けられませんが、男女平等を公に批判する人たちは『男性差別だ』という被害者意識を持ち、罵声、罵倒、女性蔑視をするのです」

男性が被害者意識を抱く理由を勝部氏は、「家長父制モデルを獲得できない男性が、自分たちは被害者であるかのように感じて女性を攻撃するケースが多い」と見ている。

「男女の待遇差で言えば、賃金が最たるものでしょう。でも彼らの中ではそこはスルー。『男性は被害者、女性は加害者』という強力な思い込みがあり、自分たちが被害者と感じられる状況に対して敏感に反応します」

かつて男性は雇用が安定して収入も高く、誰もが結婚して家庭を持つことができた。しかし現在は、雇用の不安定や所得の低下から恋愛や結婚ができる男性とそうでない男性が二極化する「モテの格差」が広がる。恋愛や性的な関係を享受できない男性が不満をため込み、女性を敵視してしまう。

企業の炎上問題は制作側の女性比率ではなく「人権侵害の意識がないこと」

企業や自治体でも炎上事例は多々ある。参加者たちのグループディスカッションパートでは、最近のジェンダー関連の炎上事例を話し合った。美容雑誌『VOCE』が掲載した女性軽視の記事、自治体では鹿児島県志布志市の「うなぎ少女」をはじめ、多くのケースが挙がった。

炎上後は「制作の意思決定の場に女性がいないのでは」という指摘がされるが、勝部氏によれば原因は女性比率ではなく、

「(制作者側が)何が人権を侵害する差別で、何が女性蔑視なのかを把握していないことです」

と分析する。

「他人と自分との間には境界があり、そこは踏み込まないという基本的なルールが抜けている。その状況で『配慮、配慮』と言うだけでは不十分です。自分がされて何も思わないことは人にやってしまうおそれがあるからです」

ネット特有の状況も炎上に影響を及ぼすという。

「ネット社会は開けているように見えて、実は閉じた社会でもあります。同じような価値観を持つ人が集まり、似たような考えを閉じた空間で共有することで、悪い方向に進むことがある。炎上とは、それまで閉じた環境で共有・増強された文化が、全く異なる文化に突然触れた反動で生じるわけです」

この現象は「エコーチェンバー現象」と呼ばれ、攻撃性の高い情報や、間違った情報の拡散を生むことが懸念されている。またポスト真実(客観的事実よりも感情的訴えが世論形成に強く影響)も問題だ。

子どもを含め若い世代を中心にネットに触れる時間が長いため、ネットに存在する偏った意見を正しいと思い込んでしまうおそれがある。勝部氏は「ネットでは性的内容を投稿しないことが大切」と強調した。

在特会のような組織の出現前に「ウーマンヘイト対策基本法」の整備を

批判への対処はどうすればよいか。勝部氏は「相手を知れば怖くない」と余裕を見せる。

これは勝部氏が昨年、体操選手が女子高校生の制服を着たリオ五輪閉会式のポスターに対し「『制服JKを性的アイコンにしています〜!』と世界に向けて堂々とアピールやらかしました」とツイッター発信したところ、「お前は制服フェチだろ」などの非難を浴びた。同じく女子高生の話題を出したところ、「お前はロリコンだろ」とも言われたこともあるという。

勝部氏は「こうしたコメントをする人の過去の投稿を見てみると、実は自分が女子高生を性的な目で見ていたり、制服ポルノを拡散していたりする」と、発言の矛盾を突く。感情的になるのではなく、相手を見極める冷静さも必要だと説く。現に勝部氏は3時間に1度はエゴサーチをするが、メンタルは病まないという。「彼らが叩いているのは私ではなく、彼らの脳内にいる私の虚像だから」らしい。

今後、男女平等をいかに広めていくか、ということについては「ネットを結節点として利用して、現実社会で目標を同じにする人たちの連帯を強めることが重要」と発言した。

「大切なのは、ジェンダー問題に対して誰かが勇気をもって指摘した際、『何が起こったの?』『いつでもサポートするから!』と多くの人が重層的に動いて、最初に動いた人を1人にしないようにすることです」

また勝部氏は女性の権利を守るためには現行の「ヘイトスピーチ対策法」のような法律も有効だと指摘。「ウーマンヘイト対策基本法」を提唱した。

勝部氏が懸念するのは、在特会(在日特権を許さない市民の会)のようなヘイトスピーチを支持する団体の出現だ。女性蔑視を是とする人たちの中に強力なリーダーシップを持つ人物が現れ、組織化される前に手を打ちたいというのだ。

今後、勝部氏は7月に自身のオンラインサロンを立ち上げるほか、遅くとも8月には男女の対等なパートナーシップを普及することをミッションとしたNPO「パリテパートナーズ」を法人化していくという。