G大阪から期限付き移籍で広島に加入するパトリック。広島側も継続的にその動向を追っていたようだ。写真:中野香代(紫熊倶楽部)

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「好きな日本食は?」という質問が飛ぶと、顔をクシャクシャにして笑いながら、「納豆も生魚も大丈夫。好きなのは、お好み焼きと親子丼だね」

 
 当然、広島メディアとしては聞かないといけない。
 「それは大阪風?それとも広島風?」
 
 2014年、ガンバ大阪を3冠に導いた立役者であるパトリックは、一瞬困ったような表情を浮かべた。
「それは、大阪のほうだね。実は広島のお好み焼きは食べたことがないんだ。でも、食べたらちゃんと感想は言うよ」
「お願いします」
 
 そう言うと、コーラスのバリトンパートが似合う声で、「はい」。日本語だった。
 
 記者会見での冒頭の挨拶も日本語で、いや広島弁で「こんにちは、パトリックです。ブチ、頑張るけん」。こういうちょっとした部分に人柄が表われる。
 
 深刻な得点力不足に悩む広島は、夏の移籍期間で前線の補強を第一の課題に設定。両サイドに君臨するミキッチ、柏好文というタレントを活かすためにも、絶対的な高さや強さを持つ選手を求めていた。
 
 当初は、欧州やオーストラリアも含むアジア枠の選手など、多くのタレントがリストに挙がっていた。その中にはJリーグでの経験が豊富で、甲府時代も含めて対広島戦では爆発的な力を発揮していたパトリックの名前も存在していたことは事実である。森保監督からも「パトリックの名前は出ていた」と足立修強化部長は言う。
 
 ただ、昨年10月に負った右膝前十字靱帯損傷という大怪我の影響がどうなのか。気になっていたのはここだ。6月17日のG大阪対神戸戦。パトリックは先発し、52分間しっかりと走り、プレーすることができた。
 
「あの試合のパフォーマンスを見て、いけると判断しましたね」
 
 そう考えた足立部長がパトリックの代理人と接触したのは6月20日。実はこの時、彼には他の複数クラブから具体的にオファーが舞い込んでいて、移籍クラブを決定する間際だったという。広島はギリギリだったのだ。
                             
「広島は数々のタイトルを獲ってきた、大きなクラブ。そういう素晴らしいクラブでプレーできることは本当に嬉しい」とパトリックは目を輝かせる。
「柏や佐々木翔など、甲府時代から仲がいい選手とまた一緒にやれる。ミキッチ選手は両足で質の高いボールが出せるし、青山敏弘選手は裏に出すボールが素晴らしい。このチームにはオプションがたくさんある。あとは、自分の活躍次第だと思っています。
 
 怪我は大丈夫。コンディション的にはいい。それに、怪我をしたことで学んだこともたくさんある。客観的に自分のプレーを見て、落ち着きというか、判断のところをもっと冷静にプレーすれば、もっといい結果が出せた。そこをプレーで発揮できれば」
 
 2013年、夏の移籍期間に甲府に途中加入すると、7連敗中だった甲府が後半戦は5勝8分4敗と持ち直し、残留に成功したことに希望を見たい。2014年、途中加入したG大阪では15節から出場。それまで4勝3分7敗で降格圏の16位に沈んでいたチームが快進撃をスタート。最終的には3冠を達成していることに望みをかけたい。
 
「広島でも、同じように活躍したい。そのためにも、自分の力を100%、いや200%の力を発揮してチームに貢献したい」
 
 ずっと続けていた笑顔が、一瞬、消えた。自らの思いがこもった「9」という数字が入った「39」のシャツに覆われた分厚い胸の筋肉が、揺れた。決意と情熱で、パトリックは明らかに昂ぶっていた。
 
取材・文:中野和也(紫熊倶楽部)