敵国の人工衛星を攻撃するのは空軍か?宇宙軍か?(写真はイメージ)


 中国やロシアが宇宙戦力(対衛星兵器等)を強化しつつある。ロシアに至っては空軍を「航空宇宙軍」に改称した。

 そんな中、米国では「宇宙軍(Space Corps)」創設を巡って議会と空軍の対立が激化し、大変な議論の盛り上がりを見せている。今回は、その対立の概要と今後の展望を紹介しよう。

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空軍省管轄の「宇宙軍」創設を

 事の発端は、下院軍事委員会が6月22日に明らかにした2018年度国防予算草案に、陸海空海兵隊に続く第5の軍種「宇宙軍(Space Corps)」を創設せよという提案が盛り込まれたことにある。

 米下院軍事委員会の案はこうである。

・空軍長官は2019年1月1日までに「宇宙軍」を空軍管轄として設立することを確約せよ。

・宇宙軍は宇宙軍総参謀長をトップとして、宇宙軍参謀本部を設置する。

・宇宙軍参謀総長の任期は6年。空軍参謀総長と同格とし、また陸海空海兵隊のトップと同様に統合参謀本部のメンバーとし、空軍長官の直属とする。

・空軍長官は、宇宙装備についての研究・開発・試験・評価・調達の目標を決定する権限を持つ。

・宇宙軍創設と同時に、国防総省の首席宇宙顧問(空軍長官がその任)等を廃止する。

・この提案は、空軍の軍事施設・インフラの再配置を求めるものではない。

 要するに、米海兵隊(Marine Corps)の宇宙版を創設しようというわけである。ご存知の通り、米海兵隊は海軍省管轄の海軍から分化した組織であり、それを空軍省でもやろうというのである。

空軍は「今やるべきなのは統合」と反対

 これに対し、ヘザー・ウィルソン空軍長官は「国防総省はもう十分に複雑怪奇だ。この議会提案は、その国防総省をさらに複雑化し、屋上屋を架し、より多くの予算を無駄遣いするものでしかない」と激しく反対した。

 また、空軍参謀総長のデビッド・ゴールドフェイン大将も次のように明確に反対姿勢を示した。

「今、空軍がやるべきなのは、組織の分割ではなく、さらなる統合を図ることだ。今、大切なのは、新しいネットワーク、ドクトリン、訓練によって、陸海空宇宙サイバーの5つの戦闘空間において、米軍がシームレスに一体化できるようにすることである。4つの軍種をまとめるだけでも大変なのに、5つにすればより困難になる」

「空軍長官は絶対に間違っている」

 他方、提案をとりまとめたマイク・ロジャース下院議員(米軍事員会戦略戦力小委員会委員長であり宇宙戦力の議会責任者)を筆頭とする宇宙軍創設論の急先鋒の議員たちは、見解が異なるようだ。

 彼らによると、航空戦の発達に伴い米陸軍から米空軍が分化したように、現在の宇宙空間の軍事的意味と中ロの宇宙戦力の増大は、まさに宇宙軍創設を必要としている。その流れに逆らう米空軍の姿勢は退嬰(たいえい)的だという。

 ロジャース議員は、議会やインタビューなどで、以下のように強い危機感を示す。

「我々のスマートフォンも軍事力の運用も、宇宙の人工衛星に依存している。国家もそうだ。だから、中国やロシアは米国の人工衛星を潰せば、米国に勝利できると認識している。今やどの国家も宇宙に依存している以上、宇宙に戦争が及ぶのは必然である」

 そして、彼は米空軍の対応を辛辣に非難する。

「空軍長官は絶対に間違っている。現実の宇宙からの脅威に対応するための努力を否定する議論が米空軍から出てきたことに、私は激怒している。彼らはF-35の予算獲得のために宇宙戦力の強化を犠牲にしようとしているのだ」

「国防総省は、いつもいつも改革に反対してきた。かつては空軍創設に反対し、米軍の統合運用に大きな役割を果たしたゴールドウォーター・ニコルズ法にも反対した。米空軍は無人機開発に抵抗してきたし、過去15年以上にわたる何十件もの報告書や研究も無視してきた。その結果、中国やロシアの衛星破壊兵器等の開発は進み、強力になってしまった」

 ロジャース氏はヘザー・ウィルソン空軍長官を批判し、「場合によっては宇宙軍長官を創設し、宇宙に関する任務を空軍から切り離すべきかもしれない」とまで言及し、対立はエスカレートしている。

 こうした議論は外部でも盛り上がりつつある。多くのメディアが「宇宙軍」創設案の内容を伝え、専門家の議論も始まっている。

 例えば、外交軍事誌として著名な「ナショナルインタレスト」誌(6月28日発行)は、現役の海軍軍人による「海軍にこそ、宇宙軍設置を」とする論説を掲載した。その海軍軍人は、「空軍には宇宙で戦力運用するための見識も能力もない」「海洋での活動は、様々な専門の乗組員が乗り物を運用し、何年も飛行し、ブイを設置し、停泊と出発を繰り返す。宇宙での活動はそれとよく似ている」といった理由から「宇宙軍は海軍省に設置すべきである」と唱えている。

 また、退役空軍大佐からも宇宙軍創設案が今年2月に出ており、広がりを持った議論と言えよう。

宇宙軍が創設される可能性は?

 果たして、宇宙軍は創設されるのだろうか。

 もしも上院軍事委員会の予算案でこの提案が盛り込まれ、両院協議会での報告書が両院で可決され、大統領が拒否権を発動しなければ(もしくは発動しても)、両院の3分の2以上の採決があれば宇宙軍創設に向けて米政府は動き出すだろう。

 問題は、その難易度である。まず、下院は既に提案が予算草案に盛り込まれたこと、下院軍事委員会の大多数がロジャース案に賛成していること、ロジャースがトランプ政権を支える保守派と反対する穏健派双方とも話せる人物であること等々を総合すれば、提案が通る可能性は高いだろう。ロジャース氏は「これは民主党筆頭委員のジム・クーパー議員も含めて、小委員会の議員たちとともに、何カ月も宇宙専門家や指導者たちと何カ月も議論を重ねてきた結果の結論なのだ」と述べ、超党派かつ一定のコンセンサスを得ていることを強調する。ただ、少数派ではあるが、下院軍事委員会委員にも反対論者がいたことは注意しておくべきだろう。

 関門となるのは上院だが、上院軍事委員会の宇宙問題への危機感は強く、また少なくとも空軍長官が宇宙顧問を兼ねることの現体制の実効性への批判が過去にあったことから、宇宙軍創設に賛成する可能性は十分ある。実際、上院軍事委員会委員長のマケイン上院議員は、「中国とロシアの宇宙戦力は驚異的な速度で発展した。しかし、同じ時期に米空軍は宇宙システムの研究開発を80%も削減した」と今年になって発言している。

 急進的な下院に比して上院は穏健的な傾向があるが、上院を通過すれば、トランプ政権が議会と妥協を迫られている以上、また中東での軍事介入が深入りし、そのための予算を必要とする以上、もし上下両院で宇宙軍提案が通れば、拒否権を発動する可能性は少ないとみるべきだろう。

筆者:部谷 直亮