大通りに沿いにある「喫茶 ライオン」。看板のレトロな書体も懐かしい

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古風な看板、年代物のインテリア、深煎りのコーヒー――。 昔ながらの佇まいを残し、当時から変わらぬメニューと接客に懐かしさを覚える“レトロ喫茶”。名古屋・栄の広小路通沿いに店を構える「喫茶 ライオン」も、そんな昭和の香りを漂わせる純喫茶のひとつだ。

【写真を見る】ネルドリップで抽出されたコーヒー(400円)。全ドリンクにゆで卵が付く

■ 1958(昭和33)年創業。親族で大切に守り続ける純喫茶

大通りの喧噪をよそに、そこだけ時が止まったかのように昭和の趣が残る空間。食品サンプルが飾られたショーケース、時間が止まったアンティークの壁掛け時計、役目を終えたダイヤル式のテレビ、趣味のいい骨董品など、レトロなインテリアが配され店内はどこか居心地のよさを感じさせる。

創業は1958(昭和33)年。現在は、3代目となる鈴木夫妻が店頭に立つ。「創業したのは私の祖母。親族で代々、大切に守ってきたお店です」と教えてくれたのは奥さんの三奈さん。先代マスターから店を引き継いだのは、2010(平成22)年のこと。接客は三奈さん、コーヒーのサーブや軽食の調理は夫の宗浩さんが担当する。

■ 当時のレシピを守る部分、時代に合わせて変える部分のバランスを意識

コーヒーは創業から変わらず、ネルドリップ方式でじっくりと抽出される。「ストレートな苦みを感じながらも、少しの酸味ですっきりとした味わいに。これが、昔からある“名古屋のコーヒー”の味だと思いますね」と三奈さん。ドリンクのオーダーで添えられるゆで卵も、独特なサービス文化が根付く名古屋ならではの心遣いだ。

三奈さんが「これはぜひ」と薦めてくれたのが、創業当時のレシピを再現した自家製プリンだ。「創業時から出していたメニューですが、時代の流れもあって先代マスターが一度メニューから下げました。そして私たちが店を継ぎ、当時のレシピと味を思い出しながら再現し、復活させたんですよ」。

卵と牛乳、バニラエッセンス、砂糖と、素材は昔と変わらずシンプルに。そしてレシピを再現するため試行錯誤を繰り返すなか、有名洋菓子店でパティシエの経験を積んだ宗浩さん独自のこだわりも光る。「素材の配合、蒸す時間など、当時の調理工程を見つけるまで時間がかかりました。そこからレシピを守る部分、時代に合わせて変える部分を組み合わせて、今の形に落ち着きましたね」と、宗浩さんは話す。

また、創業当時から変わらず根強い人気を誇るのが、ミックスサンドだ。三角形の昔懐かしいサンドウィッチは、厚焼き卵やトマト、レタスなどの具材が挟まれる。宗浩さんはサンドウィッチを丁寧に切り分けながら、「厚焼き卵は注文が入ってから焼き上げるので、出来立てはホカホカです。それを気に入ってくれる常連さんも多いんですよ」と教えてくれた。

■ 「常連さんや若いお客さんの言葉で、店のよさに気付いたことも」

「店を継いだ当初は、本当に私たちで守っていけるのだろうかと不安でした」と三奈さんは言葉を漏らす。「けれど、若いお客さんが来るようになって『なんだか、落ち着きますね』と声をかけていただいた時にホッとました。このままでいいんだって」。

「肩の力が抜け、最近は『こんなこともやってみよう』という意識も芽生えてきました。若い子を意識した新メニューを考えてみたり…」。そう言って運ばれてきたのが、2017年5月から始めたというワンプレートランチだ。サラダ、ミニオムレツ、トースト、ミニデザート、バナナが、1皿にかわいらしく盛り付けられている。「やはり若い子からの注文が多いですけど、昔からの常連さんにも気に入ってもらえたのがうれしいですね。ライオンらしさをきちんと守れているのかなって」。

最後に三奈さんはこんな話もしてくれた。「店名の由来もそうですし、他界した祖母や母には聞きそびれてしまったことがたくさんあります。その一方で、昔からの常連さんが変わらず来てくれていたり、若い子がSNSに写真をアップしてくれるのを見たりして、私たちが店のよさに気付かされたこともありました」。

昭和の風情を残しながら、新旧それぞれの客をもてなす「喫茶 ライオン」。朗らかに話す夫婦の表情からは、時代を受け入れながらも店を守り続ける実直さが感じられた。【東海ウォーカー/堀田裕貴】