TLCが“ラストアルバム”で見せたレガシーと成長 波乱のキャリアを振り返る

写真拡大

 TLC is back!!!

 と叫びたくなるようなアルバムが到着した。結成25年を迎えるガールズ・グループ(いや、もうガールズとは呼べない世代であるのは重々承知であるが)、TLCが実に15年ぶりとなるオリジナルアルバム、その名も『TLC』を完成させた。ただ、朗報ばかりではない。彼女たちにとっては通算5作目となるオリジナルアルバムだが、新作と同時に彼女らにとっての“ラスト・アルバム”となることも同時に発表されたのだ。

 1992年に『Ooooooohhh… On the TLC Tip』でデビューしたT-ボズ、チリ、そしてレフト・アイの3人組であるTLC。T-ボズの低くてハスキーな歌声と、チリの爽やかかつ甘やかな伸びのある歌声、スキルフルながら愛嬌のあるレフト・アイのラップ、プラス、デビュー以来ずっと3人のダンスやファッション、メイクまでもが時代のトレンドとなっていった。1994年に発表した2ndアルバム『CrazySexyCool』は「Waterfalls」や「Diggin’ On You」などのシングルがヒットし、全米だけで1,100万枚以上を売り上げたモンスター・アルバムに。アメリカ南部のアトランタから飛び出した3人組は、一躍、世界一のガールズ・トリオとなった。

 続く「Fanmail」は気鋭のプロデューサーであったシェイクスピア、そして元Xscapeのキャンディがタッグを組んだ未来的なサウンドと露骨な歌詞も話題になり、中でも当時男性バッシング・ブームを作ったシングル「No Scrubs」はR&Bシーンに大きな変革をもたらし、アメリカを含む世界6カ国でプラチナムディスク認定を受けたヒット作となった。名実ともに世界一のガールズグループとなったTLCだが、2002年、彼女たちを悲劇が襲う。中米・ホンジュラスを訪れていたレフト・アイが自動車事故によって命を落としたのだった(レフト・アイはかねてからホンジュラスへボランティア支援を行っていたほか、ホンジュラスから養女も迎えていた)。ちょうどその頃、3人の間の確執もよく取り沙汰されていた時期だったので、レフト・アイの死はことさら悔やまれた。

 だた、レフト・アイの逝去から7カ月、TLCは彼女らの絆の強さを示すかのごとくニュー・アルバム『3D』を完成させた。レフト・アイの未発表ヴァースや、彼女が自身の新作のために吹き込んでいたヴァースを使用した『3D』を発表したと同時に、T-ボズとチリは、新たにレフト・アイに代わるメンバーを迎え入れるより、今後はボーカルデュオとして活動していく決意を固めたのだった。

 以後、数種類のベストアルバムや幾度かの来日公演を実現させながら活動を続けていた2人だったが、新作について動きがあったのは2015年に入ってから。クラウドファンディングのKickstarter上で、ファンに対してアルバム制作資金の出資を募ったのだ。結果、出資募集期間内に総計40万ドル以上を集めた2人は、無事に本作『TLC』の発売日を迎えることとなった。

 『TLC』の冒頭を飾るのは、プリミティヴでパワフルな「No Introduction」。この曲を聴けば、T-ボズとチリの2人が新しいことにチャレンジしながらも、今もTLCのレガシーを大切にしていることが伺える。リリックでは〈レフト・アイの居場所は誰にも譲れない〉と歌い、『CrazySexyCool』や「No Scrubs」、「Waterfalls」などの過去の名曲、名アルバムのタイトルも忍ばせる。MVも先行公開された「Way Back」ではベテランMCのスヌープ・ドッグを招き、マイケル・ジャクソンやマーヴィン・ゲイ、プリンスらの名前を出して過去を振り返りつつも、変わらぬ今を生きようと歌う。レイドバックしたファンク・サウンドは、これまでのTLCの作風にはあまり見られなかった雰囲気だ。アルバムに漂うのは、成熟した2人だからこそ放たれるポジティブな雰囲気。Earth, Wind & Fireの「September」を大胆にサンプリングした「It’s Sunny」や、個性を賛美する「Haters」では、これまで以上に真っ直ぐなメッセージを読み取ることができる。また、昨今のアメリカ国内の情勢を憂う「American Gold」は、まさに今のTLCだからこそ発することができる重厚な内容だ。そして、TLCファンであれば、今作に収録された楽曲の節々に、“かつてのTLCっぽさ”を感じ取ることが出来るかもしれない。〈パーフェクトな女の子たちはリアルな存在じゃない〉と歌う「Perfect Girls」はかつての「Unpretty」に似た主張を感じるし、センシュアル(官能的)に男性を誘う「Start A Fire」はかの「Red Light Special」を彷彿とさせる。そして、過去に付き合ったダメ男をメッタ斬りにする「Aye MuthaFucka」はさながら、2017年版「No Scrubs」といった向きだ。「Joy Ride」にフィーチャーされている高揚感あふれるホーンアレンジには、『Diggin’ On You』の12インチに収録されていた「Diggin’ On You (LA’s Live Remix)」に通じるヴァイブスを感じてしまう。

 本作『TLC』にはダラス・オースティンら、長年TLCサウンドを作り上げてきたクリエイターの名前は少ないが、キャリア初期から常にTLC作品に参加していたデブラ・キリングスが多くの楽曲でバックコーラスを務めていたり、UGKやB.O.Bらも手がけてきたヒューストンの重鎮プロデューサー、コリー・モーが参加していたり、何より、クリスティーナ・アギレラやレディ・ガガらをブレイクさせてきた重鎮プロデューサー、ロン・フェアがアルバム全体のエグゼクティブ・プロデューサーを務めていたりと、往年のファンが楽しめるトピックも多い。何より、安定感のある2人のボーカルは昔のままであるし、「Way Back」のMVで確認出来るダンスのスキルやチリの見事なプロポーション(!)を見ると、デビュー当時の初々しさすら覚えるほどだ。『TLC』で新たなスタートを切ると同時に、そのキャリアに一旦幕を降ろそうとしているTLC。永遠に愛されるであろう彼女たちのレガシーと成長を一度に感じることができる、充実のアルバムが完成した。(文=渡辺 志保)