3年連続で年間25ゴール以上を挙げているグリエーズマン。いまや世界屈指のストライカーとなった。(C)Getty Images

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 フットボールにおけるスピードとは、単純な「足の速さ」を意味するだけではない。
 
 もちろん足の速さは現代フットボールにおける重要要素ではあるが、その武器を正しく使えなければ、トップレベルには辿り着けない。
 
 敵味方の配置や個々のプレー意図、スペースの所在といった周囲の状況を正確に認知し、その状況下におけるベストのプレーを選び決断したうえで、イメージしたプレーを実行に移す――。
 
 フットボールとはこの「認知、決断、実行」の3ステップを秒刻みで繰り返していくスポーツであり、これを正確に、かつ周囲より「素早く」体現できる選手こそが、ワールドクラスと定義される。
 
 その意味でアトレティコ・マドリーに所属するフランス代表FWのアントワーヌ・グリエーズマンは、モダンフットボールに必要とされる「トータルな意味でのスピード」を有する、超一流のアタッカーである。
 
 レフティー特有の足に吸い付くような柔らかいタッチでボールを支配下に置きながら、鋭い切り返しと軽やかな身のこなしで敵DFのアプローチをかわしつつ、クロスボールやスルーパス、ワンツーでの崩し、長短のシュートといった豊富な選択肢を駆使して敵ゴールに迫る。
 
 グリエーズマンの一番のストロングポイントは、こうした幅広いプレーを、快速を活かして疾走しながら正確に実行できる部分にある。
 
 普通、プレースピードを上げれば上げるほどボールコントロールの精度は落ち、ミスが多くなるものだ。それは単純な技術的問題に加え、「認知、決断」のスピードが「実行」すべきタイミングに追いつかなくなることも一因となっている。
 
 しかし、グリエーズマンの持つ「トータルなスピード」は、そのセオリーを超越したレベルにある。周囲の状況を正確に把握し、ベストのプレーを瞬時に選択できる頭の回転の速さに加え、トップスピードで走りながらでもボール扱いが全くブレない卓越したテクニックを持ち合わせているからだ。
 
 2列目からゴール前のスペースに素早く走りこみ、勢いそのままにラストパスをダイレクトで捉える十八番のフィニッシュの形は、それらの能力が凝縮されたプレーだと言える。
 
 後方からスピードに乗って走りこむことでマークを振りほどき、少々ゴールから離れた位置からでも狙いすましたコースに勢いよくシュートを打ち込むことで、相手GKにリアクションを起こす余裕を与えない。
 全てのアクションがスピーディーかつ正確で、しかも利き足の左足のみならず右足でも頭でも難しい浮き玉を点で合わせてしまう。しかも、過去数年にわたって大きな怪我に見舞われることなく、年間50試合以上を戦い続けてきたのだから恐ろしい選手である。
 
 レアル・ソシエダ時代に左ウイングを主戦場とするチャンスメーカーとして頭角を現わし、最前線でのプレー機会が増えた13-14シーズンに得点能力が開花。同シーズンに年間20ゴールを記録すると、14年夏にアトレティコ・マドリーへ引き抜かれた。
 
 アトレティコではCFにセカンドトップ、ウイングなど複数のポジションをこなしながら、3シーズン連続で年間25ゴール超えを実現してきた。
 
 昨夏のEURO2016では得点王&大会最優秀選手に選ばれ、2016年のバロンドール投票ではクリスチアーノ・ロナウド、リオネル・メッシに次ぐ3位。今や世界有数のストライカーに成長した26歳は、今オフに重要な決断を下した。マンチェスター・Uからの巨額オファーを断り、FIFAから補強禁止処分を受けたアトレティコと2022年まで契約を延長したのだ。
 
 昨年はチャンピオンズ・リーグ(CL)とEUROで共に決勝で敗れるショッキングな最後を迎え、16-17シーズンも宿敵レアル・マドリーにCL準決勝で完敗。そのため一時はタイトルを狙えるビッグクラブへの移籍を仄めかすコメントを口にしたが、最終的には「いま出て行けば卑怯な形でアトレティコに損害を与えることになる」として残留を決意した。
 
 夏の補強ができないため厳しい戦いが予想される新シーズンのアトレティコにとって、チーム得点王の残留はこのうえない朗報だ。ピッチ上のプレーと同様に勇気ある決断を下したエル・プリンシピート(小さな王子様)には、今夏にお披露目される新スタジアムのスタンドから惜しみない拍手と歓声が送られることだろう。
 
文:工藤拓