北朝鮮が長年に渡りシンガポール企業を経由してロシアから原油を輸入していたとの証言が飛び出した。

米政府系のボイス・オブ・アメリカ(VOA)は、30年もの長きに渡って北朝鮮の外貨稼ぎ機関の要員として働いたリ・ジョンホ氏のインタビューを行った。

リ氏は、1998年から2004年まで朝鮮労働党39号室傘下の大興(テフン)総局で貿易管理局長を務めた後、2007年に金正恩党委員長の指名で国防委員会所属の金剛経済開発総会社の理事長になり、大興総会社の中国・大連支社長を務めていた2014年10月に脱北、韓国を経て2016年3月に米国に亡命した人物だ。

原油獲得ルート

リ氏は、北朝鮮の原油獲得ルートについてシンガポール経由のロシアと、中国の2つがあるとして、そのやり方を詳細に語った。

まずはシンガポール企業と原油輸入契約を結ぶ。次にシンガポール企業がロシアの石油会社と契約を結ぶ。そして、タンカーに積んで北朝鮮に輸送するという流れだ。取引を隠蔽すると同時に、シンガポール企業の信用度の高さを利用して、先に原油を受け取り、支払いは後回しにできるメリットがあった。

リ氏がこの事業に関わっていたのは1997年から2005年までの間だが、このルートが今でも使われていることはタンカーの動向を観察すればわかるという。

一方、中国からは借款の形で年間50万トン前後が供給されている。パイプラインを経て輸入された原油は、烽火化学工場で加工され、ガソリン、ディーゼル油がそれぞれ10万トンずつ生産される。つまり、トラックや乗用車に使えるのは20万トンにしかならず、それすら全量が軍需用や備蓄用に回される。

民生用に使われるのは、ロシアと中国からタンカーで輸入したガソリンだ。その量はロシアが毎年20〜30万トン、中国が5〜10万トンに達し、3000トンを積載可能な石油タンカー10〜12隻で輸送している。一方、航空燃料は定期的な輸入はせず、指導部の指示があった場合に限り輸入し、量は毎年5000〜1万トンほどだった。

リ氏は、もし米国が原油の対北朝鮮輸出に対して制裁を加えたら、北朝鮮のライフラインが途絶えるも同然だと述べた。

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朝鮮労働党39号室の内情

リ氏は、自身が勤めていた朝鮮労働党39号室についても語った。

金一族の秘密資金を調達している39号室は、各種の中央機関から、数百に及ぶ傘下の企業、道、市、郡の支部に至るまで要員を配置した数十万人規模の巨大組織だ。中央機関の責任者は大臣級、次官級の待遇を受ける。つまり、リ氏は大臣級の大物脱北者ということだ。

一般的に持たれているイメージと異なり、39号室は違法な経済活動を行わないように上からの統制を受けている。些細なことで大きいものを失いかねない、党の対外イメージが損なわれかねないとの理由からだ。

例えば、大興総局は麻薬の生産、輸出を行っていたが25年前にやめさせられた。それ以降、麻薬、偽札、偽タバコなどの事業は別の部署で行っている。そのため、対北朝鮮制裁を39号室関連の事業や人に集中させることは、効率が悪い。

韓国の対北朝鮮融和策

リ氏は、韓国の金大中、盧武鉉の両大統領が進めた対北朝鮮融和策、太陽政策について北朝鮮がどのように見ていたかについても語った。

金正日総書記は苦難の行軍(大飢饉)が収束しようとしていた2000年、「39号室のカネが底をついたことが南朝鮮傀儡(韓国)や米国に知られていたら、攻め込まれていただろう」と危機感を示した。核開発はこのような危機感からスタートしたという。

1998年に金大中大統領は太陽政策を掲げたが、北朝鮮内部ではこれを「日光を当てて我々を丸裸にしようとする」敵対的なものとして見ていた。同時に、逆に利用し尽くそうという考えから、韓国の資本、物資を次々に受け入れた。一方で、資本主義思想は徹底的に遮断した。「蚊帳を二重、三重に張って『甘いものは受け入れ、苦いものは捨てろ』」(リ氏)ということだ。

北朝鮮経済の現状

北朝鮮経済の現状についてリ氏は、北朝鮮の1年の輸出額約30億ドルの45%を地下資源が占めており、他にも水産物が多く、資源輸出型経済となっていると話す。

2008年の北京オリンピックをきっかけに中国の石炭需要が急増したことに目をつけた個人や組織が、数百もの小規模な炭鉱を作り、石炭輸出を行った。あまりに大量な輸出に、このままでは資源が枯渇しかねないと危惧した北朝鮮当局は、2008年から無煙炭の年間輸出量を500万トンに制限した。

しかし、党や軍が率先して制限を無視し、2013年の輸出量は1000万トン、2016年には2200万トンに肉薄した。

2013年には「大切な資源を安値で売り払った」として党に対する大々的な粛清が行われたが、それでも輸出増加が止まることはなかった。

粛清の煽りを受けて同年12月から数ヶ月間石炭輸出が止まったが、その影響で平壌市内のレストラン、商店、市場は大打撃を受けた。それだけ北朝鮮経済が地下資源の輸出に依存しているということだ。

もし北朝鮮の資源輸出が完全に止まれば、その影響が及ぶのは鉱山や関連部門にとどまらない。250万キロワットに過ぎない電力生産量がさらに減り、より多くの工場、企業所などが生産に打撃を受ける。個人のタンス外貨預金は50億ドル(約5605億円)と言われているが、消費者は経済状況が悪化すると財布の紐を締めるため、さらに状況が悪化するだろう。

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亡命を決心した理由

2013年12月に張成沢氏とその側近、家族も含めた数百人もの人々が高射銃で処刑され、数千人が収容所送りになった。 知り合いの幹部も複数が処刑され、息子の友人も収容所送りになり、非常に強いショックを受けた。

金日成、金正日時代にも粛清はあったが、それを上回る「前代未聞の虐殺蛮行」(リ氏)であり、社会主義国でこのようなことが起きるとは想像だにしていなかった。

それ以前は愛国心が強く、脱北など考えすらせず、立ち遅れた祖国にいかに貢献するかばかりを考えていた。しかし、次々に処刑される人々を見て、悲劇はもう見たくないと脱北を決心したのだという。