業績低迷が続き、どん底の状況にあった日本マクドナルドホールディングス(以下、マクドナルド)。しかし、この2年ほどで急速に業績が回復しつつあるのは、みなさんご存知のことだろう。2014年にマイナス218億円の赤字を計上した純利益は、2016年に54億円の黒字転換。2013年を超える水準に急回復した。

 なぜ、マクドナルドは“復活”できたのか。まずもって、マクドナルドは店舗の改装やサービスレベルの向上に徹底的に注力した。そのうえで原動力となったのが、マーケティング活動の大幅な改革。その裏には戦略的なPRの発想がある。ここでは、この4月に刊行した『戦略PR 世の中を動かす新しい6つの法則』で提示した、「6つの視点」に照らし合わせて読み解いてみよう。

 まず、注目したいのは「そもそも」の要素である。社会に影響を及ぼすPRは「よくぞ言ってくれた!」という人々の潜在的な普遍性に訴えかけるものが少なくない。マクドナルドも例外ではない。同社は新製品の方向性を、ヘルシー路線から「おいしさ」の追求に、大きく舵を切った。カロリーのことなど忘れて、ガブッと食らいつきたい。背徳感すらも美味という、ハンバーガー本来の魅力に立ち戻ったのである。

 次に「しみじみ」の要素である。ここでいう「しみじみ」とは、感情に訴え「自分ゴト化」させること。「当事者性」の醸成だ。マクドナルドで言えば、「名前募集バーガー」(2016年)などの顧客参加型キャンペーンが該当する。また、AKB総選挙よろしく、“推しバーガー”の投票を募った「第1回 マクドナルド総選挙」では、新製品ではなく、既存のハンバーガーメニューに焦点を当て、再評価のきっかけをつくったという点でも秀逸だった。

 では、「おすみつき」の要素はどうだろうか。これは、インフルエンサーなどの「第三者発信」によって得られる信頼性を意味する。例えば、マクドナルドはインフルエンサー向けの新製品試食会の回数を倍増させた。その感想は、インフルエンサーたちを通じてソーシャルメディアに発信される。また「クラブハウスバーガー」発売時には、雑誌『dancyu』誌面で、料理研究家やオーナーシェフといった著名な「食のプロ」たちが、その味をレビューするという試みもあった。

 こうした一連の活動は「ばったり」――偶然に出会う(出会ったと思える)という要素を生み出す。消費者は過剰に狙われることを忌み嫌う。そんな傾向がさらに強まる中で、この偶然性は、情報の価値に直結する。マクドナルドは参加型キャンペーンや後述するユニークな試みによって、消費者のSNS投稿を活性化させた。一方で、パッケージにもフォトジェニックになるよう、工夫をこらしている。その結果、ソーシャルメディアでのエンゲージメントは飛躍的に向上した。さまざまなSNSタイムラインで、マクドナルド商品を見かける機会が増えたと感じた読者の方も多いのではないだろうか。こうした、「偶発的な出会いの演出」も戦略PRには欠かせない要素のひとつである。


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業績回復を牽引した“遊び心”に富んだキャンペーン

 さらに、「かけてとく」の要素――ウィットや頓知に見られる、機知とリアルタイム性に富んだコミュニケーションも多く見られる。実はこれは、日本のPRにまだまだ足りない部分なのだが、マクドナルドの復活劇では存分に遊び心が発揮されている。代表的なのは、トッピングによる「裏メニュー」であり、お笑い芸人のダンディ坂野さん扮する「怪盗ナゲッツ」を起用したキャンペーンだろう。これまでどちらかというと、真面目なコミュニケーションが目立っていたマクドナルドだが、復活劇ではユーモアに富んだキャンペーンなどのユニークな試みで話題をつくったのである。

 ここまで見てきて、いかがだっただろうか。どん底からの急速な復活の背景には、戦略的な情報発信があり、それがマクドナルドを取り巻く空気そのものを変えていった。ネガティブな空気が、2年がかりでポジティブな空気に変わっていったのだ。

 最後に、戦略PRを成功させる、もうひとつの要素である「おおやけ」についてご紹介したい。ひと言で言えば、社会性や公共性である。世の中のニーズや社会課題と自社や商品を結びつける視点であり、PRの基本所作でもある。


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 マクドナルドの場合、どうだっただろうか。売上げも評判も地に落ちた2014年からの復活はそれ自体が「おおやけ」のニュースであり、ドラマだった。日本人の多くは“復活劇”が大好きでもある。だが、業績不振から脱却しようとあえぐ企業がすべて注目されるわけではない。では、マクドナルドは何が違ったのか? それは、マクドナルドの広報担当者が足元の数字や今後の取り組みをしっかり開示し続けたことに尽きる。復活のきざしをつかみ、復活劇を追いかけたいメディアと世間に対し、正しいタイミングで情報を提供していたからに他ならない。マクドナルドの復活は、衆人環視の「おおやけ」ストーリーだったのだ。

(本田 哲也)