6月25日、ベストアメニティスタジアム。サガン鳥栖の鎌田大地は、ドイツの名門フランクフルト移籍の壮行セレモニーが終わった後、ミックスゾーンに現れている。20歳のMFは、訥々(とつとつ)とその意志を語った。


サガン鳥栖でのラストマッチ、浦和レッズ戦に出場した鎌田大地

「(海外では)一からのポジション争いになりますが、そこで試合に出続けられるようになったら、A代表や来年のワールドカップも見えてくる。自分はうまくいかない、苦しい時期があった選手で、それを乗り越えて今の自分がある。小中高と挫折してきたが、それに負けずにきた」

 20歳の日本人選手が、欧州4大リーグ(スペイン、イングランド、ドイツ、イタリア)に羽ばたくというのは、昨今、日本人の欧州挑戦が苦戦を余儀なくされる中、明るいニュースと言えるだろう。

 では、鎌田はドイツで活躍できるのか?

「4大リーグのクラブでプレーするクオリティを(鎌田)大地は持っている」

 鳥栖を率いるマッシモ・フィッカデンティ監督は所見を述べている。

「キャラクターとしても冷静というか。あがったり、びびったりしない。(プレーする)場所を変えても問題はないだろう。今日のように集中し、欲張らず、しっかりと走れたら、ヨーロッパでもやれるはずだ」

 イタリア人指揮官はそう言って、太鼓判を押した。

 この日の浦和レッズ戦でも、鎌田は前半にダイレクトで背後に走るビクトル・イバルボにスルーパスを出し、決定機を作っている。簡単に見えるが、容易(たやす)いプレーではない。

 鎌田の才能は、スペイン語で言うRETROVISAR(バックミラー)にあるだろう。背後を含め、視界が人並みはずれて広い。それによって空いたコース、スペースを見つけられる。そこにボールを運ぶ、入れる、という高い技術も目を見張るが、ビジョンこそ彼の異能と言えるだろう。

 そして、ビジョンによって相手の裏を取れる。

「めっちゃ速く感じる」と、対峙した選手は洩らす。どこで止まって、どこで加速するかを心得ているだけに、敵に想像以上のスピード感を与える。キックフェイントひとつをとっても、ピタリと足を止め、逆をついて運べるため、歩いているように見えるのに、不思議と相手を置き去りにできる。わずかなボールの置きどころの違いで、狡猾に相手の重心を動かすのだ。

 自らタイミングを作れる選手で、それは「時間を操る」に近い。

 2015年のデビューシーズン、名古屋グランパス戦でのプレーにはド肝を抜かれた。後ろから来たディフェンダーを一度左に誘い、重心を傾げさせ、すぐさま体をひねって右中央に左足でパスを通し、豊田陽平のゴールを演出した。

 これは誰にでもできる技ではない。日本代表の香川真司、清武弘嗣などに匹敵するファンタジーだろう。そのチャンスメイク力は詩的なものさえあって、それはトップ下と呼ばれるFWとMFをつなぐポジションの選手にとっての資質と言える。

 そしてフィッカデンティ監督は鎌田に新たな要求もした。

「2トップを飛び越え、ゴールに迫れ」

わかりやすく言えば、得点も求めたのだ。

 単刀直入に言って、その挑戦は道半ばに終わっている。今シーズンもわずか3得点。鎌田の得点は目に見えて増えたわけではない。むしろ今季は、1人で厳しいスペースに突っ込んでいくことで、チャンスを逃した場面も少なくないだろう。自己主張の強すぎるプレーで、せっかくの「時間を操る」才能が無駄遣いされた部分も否めない。

 しかし、鳥栖での2年半で「球際で戦う」という点は鍛えられた。トップ下だけでなく、ボランチやサイドハーフも違和感なくこなせる。ピッチのどこにいてもプレーをアジャスト。体格にも恵まれ、ボールをめぐるファイトに負けない。

 浦和戦でも、中盤で柏木陽介からボールを奪い取ったシーンがあった。「見える」ことで間合いの取り方に優れ、奪いどころも心得ているのだ。

 走力も含め、インテンシティの高いプレーにも適応できる点は、海外進出においてはアドバンテージになるだろう。

「欧州チャンピオンズリーグで優勝を争うチームで活躍する」

 そう鎌田は明かしているようだが、その景色がビジョンとして見えているのかもしれない。

 もちろん、海を越えた鎌田には「何者」かになるために、越えていかねばならない壁はある。それに挑むことで、鎌田の技量の幅は広がるだろう。その才能はほとんど天性のものだが、海千山千の猛者(もさ)が集う海外リーグを触媒に、はたしてどんな成長を遂げるのか――楽しみは尽きない。

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