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デジタル世代の身の丈に合った腕時計選び



腕時計はなんとなく欲しいけど、何を買っていいのか分からないという読者のために。業界で“ハカセ”と呼ばれる、腕時計ジャーナリスト広田雅将の腕時計選び指南書『デジタル世代の身の丈に合った腕時計選び』。

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一生モノの条件を満たす4つの条件とは?



時計の仕事をしていると、時々「一生モノの時計はなんですか」と聞かれる。大きく誤解されているが、値段が高くても安くても、メンテナンスをしっかりすれば、時計は大体もつ。大事なのは、メンテナンスのできるアナログ時計を買い(デジタル時計は、やがて液晶がダメになる)、数年に一度ちゃんと修理に出すことで、それさえ守れば、ほとんどの時計は基本的に一生モノになりうる。安いクォーツはダメという意見もあるが、例えば安価なシチズンのアナログクォーツムーブは分解できる。つまり、直す気になれば、直すことは可能なのである。

ただ、より一生モノを探すとなると、4つの条件を満たす必要がある。シンプルであること、機械式であること、歴史の長いメーカー製であること、定番であることだ。

シンプルでも複雑でも、大体の時計は直せる。しかし単純な方が壊れにくいし、修理費も抑えられる。そしてクォーツよりも機械式の方が修理できる可能性は高い。というのも、クォーツを動かす電池が液漏れを起こした場合、まず直せないからだ。そして歴史のあるメーカーであれば、未来も存続している可能性が高いだろう。定番モデルも同様で、今まで売れてきたモデルだから、今後も作られる可能性は高い。

時計の修理で最も大切なのは、交換部品があることだ。特に大事なのは針と、機械式時計の場合は自動巻き機構、そしてゼンマイを収めた香箱である。基本的にどの機械式時計も、修理のたびにこういった部品は交換される。替えずに済むことを明言しているのは、グランドセイコーぐらいだろう。

その時計が生産される限り、交換部品は供給される。しかし生産中止になると、部品は代替品に置き換えられてしまう。まず欠品するのは、自動巻き機構や香箱ではなく、リュウズや針と言った外装部品だ。気に入った時計でも、修理の度に針が変わったら興ざめするに違いない。だから長く使うなら、定番をお勧めしたいのである。

現時点で、一生モノの条件を満たすであろうモデルはふたつある。オメガの『スピードマスター プロフェッショナル』と、ジャガー・ルクルトの『レベルソ』だ。とりわけレベルソの新作である『レベルソ・クラシック・ミディアム・スモールセコンド』は、一生モノの条件をほぼ満たしている。





ジャガー・ルクルト

レベルソ・クラシック・ミディアム・スモールセコンド

価格:62万5000円

惜しまれつつ生産中止になった「ビッグ・レベルソ」の後継機。名機Cal.822を小ぶりなステンレス製のケースに搭載する。基本的なサイズは前作に同じだが、ケース厚が7.5mmと薄くなり、ケース裏側に湾曲が設けられた結果、装着感は改善された。ただブレスレット付きであればなお好ましかったか。内容を考えれば、価格も妥当である。手巻き。SSケース。縦42.9×横25.5mm。3気圧防水。

そもそもジャガー・ルクルトは、昔のモデルもほぼ無条件に直してくれる会社だ。つまり安心して選ぶことができる。そしてムーブメントは機械式。手巻き式で、日付表示もないから壊れる心配は少ない。また機構がシンプルなため、修理費も相対的に安く抑えられる。加えて『レベルソ』は、1931年に発表された、同社を代表する定番だ。となれば、修理部品に困ることもないだろう。

加えてこのモデルには、いくつかの魅力がある。ひとつはケースの完成度の高さ。『レベルソ』はケースを反転できる機構を持つが、昔のモノの完成度は必ずしも高くなかった。反転させすぎるとガタが出たり、ケースのホールドの甘いモノがなかにはどうしてもあったのである。しかし、現在では、そういった問題はほぼ解消された。

また新しいモデルは、着け心地も良くなった。『レベルソ・クラシック・ミディアム・スモールセコンド』を例に取ると、ケースがわずかに薄くなり、またケースの裏側にわずかな湾曲が付けられた結果、腕馴染みが良くなったのである。



▲レベルソを特徴付ける、反転可能なケース。ケースを横にスライドしてひっくり返すと、カチリと言う音を立てて収まる。レベルソのケースは明らかに質を高め、進化し続けている。

そして搭載する手巻きムーブメントも魅力的だ。1993年にリリースされたキャリバー822は、低トルクで動くという、昔の高級ムーブメントの設計を今なお守っている。最新のムーブメントが大トルクを好む中、822のあり方は潔いと思う。トルクの弱いムーブメントは強いショックを与えると狂いやすいが、反面、弱い力で動くため機械の摩耗が小さい。つまり油切れを起こさないよう定期的にメンテナンスさえすれば、理論上は長く使えるはずだ。

日付もなく、自動巻きでもない本作は、時計愛好家向けの時計とみなされている。しかし個人的な意見を言うと、だからこそ、このモデルは、一生モノになりうると思っている。にもかかわわらず、価格が控えめなのもこの時計の大きな魅力だ。

文/広田雅将

広田雅将/1974年生まれ。時計ライター/ジャーナリストとして活動する傍ら、2016年から高級腕時計専門誌『クロノス日本版』の編集長を兼務。国内外の時計賞の審査員を務めるほか、講演も多数。時計に限らない博識さから、業界では“ハカセ”と呼ばれる。

※『デジモノステーション』2017年8月号より抜粋