スマートフォンの普及を背景に、GPSやBeaconを活用した位置情報系のサービスが増えている。デジタルに強みを持たない小売店の場合でも、スマートフォンの位置情報と連動させ、近くにいる人に情報を発信し、集客や購買行動につなげられる。店舗や商品情報、割引クーポンを送信したり、来店に合わせてポイントを付与したりすることも可能だ。

 

この位置情報を利用したビジネスとして記憶に新しいのが、日本マクドナルドホールディングス(日本マクドナルド)の例ではないだろうか。日本マクドナルドでは、位置情報を利用したスマートフォンゲーム「ポケモンGO」のアイテムが入手できる「ポケストップ」を店舗に設けることで集客を促進し、2016年8月の既存店売上高が前年同月比で15.9%増えたと発表している。

位置情報は金=ビジネスになるのだ。これらは「ジオロケーション」や、「ジオターゲティング」などと呼ばれ、主にGPSやBeacon(ここではBluetoothなどの信号を発信する端末を指す)を用いる。

また、位置情報というリアルなデータを利用したサービスであるため、リアルな場所との連携によって効果的な施策を講じることができる。これに目をつけているのが外食産業だ。たとえば位置情報とマッチングサービスを組み合わせた「UberEATS」は、自店でデリバリーを行なっていないレストランでも、提携店舗であれば商品をスマートフォンで注文・配達してもらえる。

配達員はUberと契約したドライバーで、位置情報を活用し配達エリア内のドライバーに依頼されるようになっている。これによってレストランとしては、配達員を抱えたり、システムを構築したりするといった投資が不要で、デリバリー事業を始められるようになるのだ。

このように、位置情報の活用によって新しいビジネスが生まれる可能性が見えてきており、大手・中小を問わず参入しようとする企業が増えてきている。国もそうした状況を踏まえてか、国交省がアイデアソンを開催するなど産業化の促進を図っているようだ。

そんななか検索型のバイト・アルバイト・パート求人情報Webサイト「バイトル」などを運営するディップも、位置情報を使ったアドビジネスをスタートさせた。事業担当の次世代事業準備室、「Social_Ad(ソーシャルアド)」事業責任者の山根弘成氏(以下、山根氏)に、事業創出の背景と、今後の展開について話を伺った。
 

ディップ株式会社 次世代事業準備室 Social_Ad事業責任者 山根弘成(やまねひろのり)氏


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アニメの聖地巡礼事業から「位置情報」に着目

「私が所属する次世代事業準備室は、文字通り次の事業を考えるところです。そこで、2020年のオリンピックに向けて、インバウンド向けのサービスを考える話に。となれば、海外の方も視野に入ります。海外の人にウケるものってなんだろうと考えた結果、アニメだ! ってことになりました。でもアニメって、すでにいろいろな派生品が出ていて、ほとんどの枠が埋まってるんです。その中で、たまたま「聖地巡礼」という領域にまだ参入の余地があり、『聖地巡礼マップ』のリリースに至りました」と山根氏は言う。

「『聖地巡礼マップ』を通してアニメファンと地域の方がリアルで繋がるきっかけを作り出し、イベントのような一過性の需要ではなく、そこへ何度も足を運んでもらうことを目標にしました。そして、将来的にはアニメ聖地を訪れる人たちが増えていくことによって地域が潤い、弊社の主軸事業である求人領域でも地域に貢献していきたい、という狙いもありました」

最初に行なった2015年3月の秋葉原のアニメショップをめぐる「“秋葉原限定”次世代型スタンプラリー」では、スタンプ台を置くことや、アニメのコンテンツを使うことができない中、スタンプ台をBeaconに置き換えてスタンプラリーを実施。位置情報×聖地巡礼というスタイルを確立した。

次に行なったのは神戸市とNTTドコモ合同の官民連携イベント「次世代型スタンプラリー in KOBE」。自治体や大手企業との連携を実現した。

その後は多摩都市モノレールの車両にBeaconを設置し、駅から街に送客できるかの実験や、スタンプラリーを組み込んだ一泊二日の旅行ツアーを行うなど、マネタイズのテストを絡めた検証を行っている。このころから「Social_Ad」を意識した取り組みになっていったようだ。直近で行った2016年9月の「映画『聲の形』スタンプラリー in 大垣市」あたりから、収益構造が見えてきたと話す。同年12月に行われた「現代用語の基礎知識」選 ユーキャン新語・流行語大賞2016で「聖地巡礼」という言葉で受賞もした。

受賞に対して「古くからあった『アニメ聖地巡礼』という言葉を世の中に広めた1つのサービスということで、聖地巡礼ファンの代表として受賞させていただきました」と山根氏。

 

「位置情報」を用いたリアルアドネットワークビジネスを展開

アニメ聖地巡礼の取り組みを通して、位置情報の活用によって送客ができる感触をつかめたという山根氏。検索による情報取得が飽和状態の中、「ユーザーに検索させずに、今いる場所でスグに使える情報を届ける方法」を考えた時、出来上がったサービスが「Social_Ad」だという。

これは、Web上のアドネットワークをBeaconによって現実世界で構成させるというもの。たとえば、渋谷にいる時に渋谷の情報が自動でスマートフォンに通知されるという具合だ。

Beaconに対応しているアプリをインストールしてあれば、ディップが設置したBeaconに反応して広告が受け取れる仕組みになっている。「Google Chrome」や「駅すぱあと」等が対応しているという。
 

左:スマートフォンにプッシュ通知が届いたイメージ 右:スマートフォンアプリ内に表示された広告イメージ


「Social_Ad」の特徴は成果報酬型であり、広告配信までは0円というところ。

「一般的な集客メディアや屋外広告などのOOHメディアでは、初期費用や月額利用料など成果が見える前にコストがが発生していました。Social_Adは実際に何人が広告を見て、どれくらい集客ができているのかを可視化し、クーポンを持って来店した数に応じて広告費が決まるので、集客コストの見直しや削減へと繋がる可能性がある」と山根氏は話す。

また、Beaconは集客だけでなく空席案内や多言語対応など利用用途は幅広く、置いたら後は店舗側で何もしなくてよい手軽さも今後のBeaconニーズの高まりに繋がりそうだ。

2017年6月時点で、渋谷、新宿、池袋、秋葉原などの飲食店を中心に400社700カ所の導入実績がある「Social_Ad」。従来のWeb広告の場合、広告をクリックされるのが1%以下。それに対し、駅に隣接している場所でクーポン型の広告を「Social Ad」で配信しているところでは、最もよいところで10%ほどの送客率があるといい、導入した店舗からの反応は上々だ。

海外と違い、日本は「声を出さずに情報取得」がなじむ

自動販売機に埋め込まれたBeaconと連動したサービスや、通常個別の企業がそれぞれで管理しているBeaconを自由に使えるようにするプラットフォームなど、Beacon周りのサービスがすでに展開されている。さらなる広がりを見せそうだが、ディップとしてはどのような展開をしていくのだろうか?

「今後Beaconがもっと流行ってきた時に、接触できるBeaconをすでに置いているというのが強みになるのではないでしょうか。ブームが到来した時に、Beaconを置こうといってすぐに数千個単位で置ける企業はそうはいない。

Beacon事業でよく聞く失敗として、そもそもBeacon対応アプリをインストールさせる段階でつまづいたという話を良く聞く。こうなると、Beaconを設置してもユーザーに使ってもらえない。だから我々は色んなアプリ事業者と連携し、彼らのBeacon事業をサポートするプラットフォーマーというスタンスを守っていきたい。

また、ディップの強みである営業リソースを使い、Beaconの設置やメンテナンスなどまで補うのが我々の目指しているところです。その他に、アプリ以外の方法でBeacon対応できないかも検討しています。たとえばWebブラウザ上でBeacon反応させるモデルなどを考えています」

山根氏はWi-fiスポットのような形で、自分の欲しい情報を検索ではなく、Beaconスポットから受け取るという世界が理想だと話す。最後にBeaconの今後について、日本人の気質とともに語ってくれた。

「将来的にはBeaconを人工知能化したいと考えています。人工知能化されたBeaconが、エリア内の天気やツイート、SNSにアップされた写真などを吸収し、ユーザーのアクションに合わせて最適な情報を配信してくれる世界にしていきたいですね。音声認識機能が普及しても、日本人がスマートフォンに話しかけているイメージが沸きません。声を出して情報を取得するよりも、声を出さずに情報を取得できるBeaconのほうが日本人のキャラに合っているなと思います」
 

筆者:IoT Today