佐川急便本社(「Wikipedia」より)

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 宅配便大手の佐川急便を傘下に持つSGホールディングス(HD)は6月14日、東京証券取引所に上場を申請したと発表した。手続きが順調に進めば、今秋にも東証第1部に上場する。時価総額は3000億円規模とみられ、今年最大の上場案件となりそうだ。

 中核事業会社の佐川急便は昨年3月、日立物流と資本・業務提携を結び、SGHDは日立物流株の29%を、日立物流は佐川急便株の20%を保有する関係となった。将来的に経営統合を目指している。SGHDの上場は、日立物流との経営統合に向けた布石だ。

 SGHDが上場申請したことを受けて、日立物流の株価が大幅続伸した。日立物流の株価はSGHDの上場観測から6月6日に上場来最高値の2648円を付けていた。その後、下落し、6月14日の終値は2480円。上場申請の正式発表で切り返す動きとなり、6月20日には2703円と上場来高値を更新した。持ち株会社の上場に伴い、投資家は日立物流が保有している佐川急便株の価値が高まると判断した。

●日立物流と資本・業務提携

 陸運業界では、インターネット通販の普及により宅配便の取扱量が急増しており、ドライバーの不足が深刻化、経営を圧迫している。

 SGHDの2017年3月期連結決算では、売上高に当たる営業収益が前期比1.4%減の9303億円と微減。営業利益は同8.4%減の494億円、純利益は同16.3%減の284億円と大幅に落ち込んだ。人手不足を背景とする人件費の高騰が経営を圧迫したことによる。そこで、19年3月期を最終年度とする中期経営計画を見直した。当初は、連結営業利益を620億円としていたが、565億円に下方修正した。

 転機は13年にあった。宅配便業界最大手のヤマト運輸に追いつき追い越せと、インターネット通販大手のアマゾン・ジャパンの配送を受託して宅配便の取り扱い個数を増やしてきた。その結果、13年3月期の宅配便個数は13億5000万個、08年3月期の10億4000万個から30%増加した。しかし、荷物1個当たりの平均単価は460円となり、08年期の529円から13%下がった。

 そのため、アマゾンと値上げ交渉を行ったが、13年に決裂し、アマゾンの宅配から撤退。17年3月期の宅配便取扱い個数は12億1000万個と、ピークに比べて約10%減った。しかし、顧客を選別し、採算性を重視する方針に転換したことで、平均単価は511円と11%上昇した。

 SGHDは新たな収益源を求めて、企業間物流に手を伸ばした。それが佐川急便と日立物流の資本・業務提携として結実した。

 日立物流は3PL(サード・パーティ・ロジスティクス)の国内最大手。3PLとは、保管や配送、荷役、輸出入、物流コンサルといった、企業の物流を一括して請け負うことをいう。

 提携は、佐川急便が配送する荷物を日立物流の倉庫で一時保管することから始めた。昨年10月からは、東南アジアでの陸上輸送でトラックを相互に利用している。SGHDは上場で調達した資金を、人手不足対策などや東南アジアでの物流事業の拡大に充てるとしている。M&A(企業の合併・買収)も仕掛けていく。

 日立物流と経営統合するためには、時価総額など共通の物差しが必要になる。SGHDの新規株式公開により、統合に向けた話し合いの気運が高まってくるとみられる。

 日立物流の17年3月期連結決算(国際会計基準)は、売上収益が前期比2.2%減の6653億円、調整後営業利益は同4.0%増の294億円、当期利益は同28.5%増の199億円だった。

 SGHDと日立物流を単純合算すると、売上高は1兆5956億円、営業利益は788億円規模の物流会社になる。

 佐川急便の代わりにアマゾンの配送を受託して苦境に立たされたのがヤマト運輸だ。持ち株会社のヤマトホールディングスの17年3月期の連結決算の営業収益は前期比3.6%増の1兆4668億円だが、営業利益は同49.1%減の348億円、純利益は同54.2%減の180億円と大幅な減益に見舞われた。

 ヤマトが宅急便をかつてのような高収益の事業に戻すには、数年はかかるといわれている。SGHDは日立物流との経営統合を速めて、ヤマトの背中が大きく見える、絶好の位置につけることを狙っている。

●問題はガバナンスにあり

 SGHDと日立物流の経営統合が現実味を帯びてくるにつれて、ガバナンス(企業統治)の問題が、大きなハードルとして立ちはだかる。

 佐川急便は“スキャンダルの宝庫”と揶揄されることが多い。

 1987年に右翼団体が、自民党総裁選に立候補した故竹下登氏に対して、「日本一金儲けがうまい竹下さんを総理にしましょう」という“ほめ殺し”作戦で街宣を仕掛けた。これは、佐川急便の創業者、故佐川清氏が黒幕だといわれている。佐川氏は新潟県の出身で、同郷の故田中角栄元首相から支援を受けてきた。その恩義のある田中氏に反旗を翻した竹下氏を許せないとして、右翼に街宣を依頼したとされる。

 90年代初めの東京佐川急便事件では、故金丸信・元自民党副総裁や故石井進・元稲川会会長の違法なカネの流れが明るみに出て、批判を浴びた。事件の責任を取り、佐川正明氏(清氏の後妻の長男)が退任し、栗和田榮一氏(清氏の先妻の息子、SGHD現会長)が佐川急便の社長に就いた。

 2000年代初めには、お家騒動が勃発した。創業者の佐川清氏=旧経営陣と、栗和田氏が対立。旧経営陣は栗和田氏の解任を仕掛けたが、返り討ちにあった。旧経営陣によるクーデターは失敗したことで、佐川清氏の影響力は一掃され、栗和田氏が佐川急便の経営権を掌握した。そして今日まで栗和田体制が続いている。

 最近でもスキャンダルが絶えない。

 昨年、佐川急便東京営業所の運転手が駐車違反で検挙を逃れるため、知人らを身代わり出頭させる事件を起こした。身代わり出頭は、城北、渋谷、城西、城南、足立、杉並、世田谷用賀、台東の都内各営業所に広がりをみせた。警視庁は3月3日、一連の身代わり出頭事件の検挙者は計106人になったと発表した。

 昨年12月には、配達員が荷物を蹴ったり地面にたたきつけたりしている様子が動画でインターネット上に投稿された。ネット通販の利用拡大で宅配便の取扱量は増えたが、ドライバー不足は一層、深刻化している。それが一連の事件の根底にある。

 SGHDの難点は財務ではなく、不法を容認してきた組織体質にある。「上場会社にふさわしい経営のあり方を身につける必要がある」との指摘に対し、真摯に耳を傾ける必要がありそうだ。
(文=編集部)