外資系投資銀行でバックオフィスを担う、有希、30歳。

港区の酸いも甘いも知り尽くした彼女に与えられた呼び名は、“港区おじさんコレクター”。

彼女のポートフォリオには、業界のスーパースターである勇人、甘い時間を提供する賢、監理銘柄の慎吾、月日をかけて育てた和夫、そして遠征要員の遼一などがいる。

港区おじさんから食事はおごられても、贈り物は嫌いな有希。そんな彼女がプレゼントを受け取る相手とは?


「お願い」を叶える港区おじさん


16:00

有希が長々と続く会議から戻ると、ぴょこぴょことデスクに向かってくる晴香の姿が見えた。

「有希さん!有希さん!見て見て〜」

晴香は、エリカと同じセールス部門に所属する4歳年下の後輩だ。人懐っこさが可愛らしく、エリカはライバル視しているようだが、有希は入社当初から妹分と呼ばれるほど可愛がってきた。

「じゃーん!買ってもらいました!港区おじさん、ありがとう〜!」

クルッとその場で小回りすると、真新しいパンプスを誇らしげに見せた。

「あら、可愛い。欲しがってたフェラガモの最新作じゃない。センスが良い方なのね。」

晴香は、デートしている男性も、行ったレストランも、最近した悪いことまでもを有希に報告をしてくれる。信頼の証だとは思うが、男性からすると有希に筒抜けなのはバツが悪いだろう。

自由奔放な晴香は、大のおねだり上手で、仕事でもプライベートでもその本領を発揮している。行きたいレストランも、着たい洋服も、住みたいマンションも。彼女の「お願い」はなんでも望み通りになる。

一種の才能だとは思うものの、有希は、自分で支払える範囲を超えた贅沢は、借金のような怖さを持つ気がしている。

若い時はその贅沢が自分を大きく見せてくれる役割を果たしても、年を重ねて「お願い」が叶わなくなった時、自分を苦しめる原因になる。レバレッジをかけすぎて良いことはないのだ。

「そういえば、有希さん。この前のディナーの時にこれ落として行きましたよ。なんですかこれ?」

晴香が差し出したトランプのカードを見て、有希は体が少し火照るのを感じた。


プレゼントはさりげなく。有希がプレゼントを受け取るとき。


そのトランプを有希に渡したのは、浩介という男だった。

浩介は、有希のポートフォリオに無理やり入ってきた。

晴香に、最近通い始めたクリニックの先生と近づきたいから手伝って欲しいと懇願され、しょうがなく数合わせで行った食事会に、浩介はいた。

30代で副院長という肩書きにその場の女性たちはメロメロだったが、同年代にほぼ興味のない有希は、晴香がどれだけ良い子かをお目当ての先生にアピールすることに徹していた。

―もう、会うことはないだろう。

浩介に対する有希の印象は食事会の最後まで良くなることはなかった。

【港区おじさんコレクションΑ
名前:生田浩介
年齢:36歳
職業:美容外科クリニック副院長




不気味な電話と送り主不明のプレゼント




「ラ・メゾン・デュ・ショコラ六本木ヒルズ店です。徳永有希様のお電話番号で間違いないでしょうか。」

見知らぬ電話番号から有希宛に電話があった。

「お取り置きいただいた商品なんですが、本日中に取りに来ていただけますでしょうか?」

有希は困惑した。

「あの、私そちらで取り置きはしていないと思うのですが……」

なかなか話が噛み合わず、とりあえず有希は店舗に向かうことにした。

お店には、有希の名前で40周年記念限定品のアソルティモン・メゾンが取り置きされており、すでにお会計は済んでいた。

不審に思った有希は、伝票を見せてもらうと、有希の名前と携帯番号の下に、見知らぬ携帯番号が記されていた。有希は、その番号に電話をかけてみることにした。

「有希さん!先日お会いした生田です。プレゼント、受け取ってもらえました?チョコレートがお好きだと言っていたので。」

電話越しに、嬉しそうな浩介の声が聞こえてきた。

もちろん食事のお誘いがあり、プレゼントを受け取ってしまった手前、ディナーのお誘いはしぶしぶ受けることにした。



―ちょっとお店遠いから、下にタクシー待たせてあるよ! 浩介

オフィスの車寄せに止っていたタクシーに乗り込むと、車は『ANAインターコンチネンタルホテル東京』の前に止まった。

「行き先、違うと思うんですけど。」

有希が不安そうに運転手に話しかけると、日比谷花壇のショップ・カードを差し出された。良く分からないまま、ホテル内に入ると、有希の名前で大きなバラの花束が取り置いてあった。

プレゼントをもらうことも、自分とあまり年の差のない港区おじさんに手を出すことも禁じていた有希だったが、浩介との出会いで一気にそのタブーを犯すことになった。


止まらないプレゼント。浩介からの最後のサプライズは?




「有希、今週の金曜日空いてる?クリニックのメンバーで食事に行くんだけど、来ない?」

何かと理由をつけては、週に1度のペースで会う用事を作ってくる浩介に、最近は完全にペースを乱されていた有希だったが、なんとか頻度を減らそうとした。

「私、その日お休みもらってゴルフ行く予定なんです。」

有希が男性の香りを漂わせると明らかにむっとした顔になる浩介だったが、食い下がることはなかった。

「おっけー。じゃあ、とりあえず次は土曜日。」

そう言って、微笑んだ。




浩介の切り札と、目の前に広がる東京湾の夜景


冬のけやき坂のイルミネーションが終わり、東京ミッドタウンの桜シーズンが過ぎ去ると、港区の中心は海よりに移動する。

梅雨を飛ばしてやってきた今年の夏の暑さをしのぐため、有希と浩介はコンラッド東京にある『風花』に来ていた。

今日、有希はタクシーで六本木ヒルズに向かい、ダイアン フォン ファステンバーグでワンピースをピックアップした。その後、クリスチャン ルブタン銀座店を経由し、ここに辿りついた。

先に店に到着していた浩介は、真新しいワンピースと靴に身を包んだ有希を満足気に見つめた。

「本当に良く似合ってる。花火でも打ちあがるともっと美人が引き立つんだけど。」

カウンター席で夜景を楽しんだ後、お会計をしに浩介が席を離れた。しばらくすると、浩介の代わりに、ホテルの支配人が声をかけにきた。

「お連れ様がお呼びですので、ご案内させていただきます。」

どこに連れて行かれるのか不安に感じていると、支配人はホテル・エリアへと移動した。有希が通された部屋は、レインボーブリッジと東京湾が広がるスイート・ルームだった。

「すごい夜景!」

浩介がにっこり振り返り、ゆっくり近づいて来る。ホテルの部屋だということに少し警戒しつつ、有希は浩介の横を通り過ぎ、窓際に近寄った。

ふいに手を引っ張られ、ぐっと引き寄せられた浩介の胸からは、大きな鼓動の音が聞こえていた。

「有希、僕と結婚を前提にちゃんと付き合って欲しい。」

聞いたこともないほど、浩介の声は震えている。

「君がモテるのは知っているけど、他の男性と遊んでいるのは見たくない。答えは今じゃなくていいから。答えがイエスならこのトランプを次に会うときに渡して。」

渡されたトランプには指示こそ書いてないものの、これはまるで宝探しゲームのようだ。差し出されたトランプを受け取りながら、有希は目の前の夜景も浩介の顔もボヤけ始めるのを感じていた。

―違う。あなたじゃないんだ。

有希の中に昔封印したはずの人物との思い出がもやもやと蘇ってきた。

有希の脳内評価:★☆☆☆☆(5つ星中1つ星)
・浩介のプレゼントのセンスは良かったが、プレゼントはもらって嬉しいものであるべきで、戸惑いながら受け取るものではない。受け取らないという選択肢を与えない点が女性の気持ちを無視している。

・女性へのプレゼント方法をどこで習得したのか不明。過去に受け取ってもらえなかった経験があったのではないかと考えられる。

・トランプを使ったプロポーズなど楽しい時間を過ごしたが、本音を出して話せなかった点はマイナス・ポイント。

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(続編)ポートフォリオを組む理由。有希の悲しい過去を知る港区おじさん。