とにかくすごいキャスト!左からリース・ウィザースプーン、シェイリーン・ウッドリー、ニコール・キッドマン
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 女性の人権(フェミニズム)を求める声が、今また高まっている。といっても、ハリウッドの女優が男性スターと出演料を同等にするとか、エマ・ワトソンがフェミニストを標榜するなどの話は、応援してるけどそれはそれで遠い話にも思えてしまう。だって、日本の現状を考えてみたら、それ以前の問題が横行しているじゃないですか。電車のバギーやママがネイルしてるとか、炎上必至の「女性はこうあるべき」という勘違いCMもそうだし。あと、美術館やゴルフ場でのナンパを指南する高齢男性向けの雑誌とか、大いに疑問。でも、オスカー女優共演も話題の「ビッグ・リトル・ライズ 〜セレブママたちの憂うつ〜」を見れば、アメリカの富裕層(シングルマザーで生活が大変な人も登場するけど)のママたちの悩みに親近感も。母親、妻とは「こうあるべき」という社会通念がいまだ、これほどまでに女性たちの呪縛となっているとは。

 オスカー女優のリース・ウィザースプーン&ニコール・キッドマン(兼製作総指揮)、『きっと、星のせいじゃない。』(2014)のシェイリーン・ウッドリーがママ友を演じる。なんて豪華キャスト! ベースになるのは、小学校主催のイベントの夜、誰かが誰かによって殺害された事件。街の関係者の証言を挟みながら、ことの発端と思われる子供間のいじめによって、ママ友の人間関係にピシっと亀裂が入った日から事件当夜までの出来事を全7話でサスペンスフルに描き出す。

 ワーママと専業主婦、成功者&金持ちとシングルマザー、夫婦間の微妙なずれ、親と子、不倫、いじめ、DVなど、センセーショナルな題材をてんこ盛り。それでいて、ドロっとならない洗練された映像世界から浮き彫りになるのは、これまでに埋没していた女性たちの心の声だ。もちろん、このドラマに出てくるママたちの暮らしぶりに、何がそこまで大変なの? と思う人もいるかもしれない。でも、人の幸せは外から見ただけではわからない。よくいるでしょう、おしどり夫婦で有名だったのに……とか、完璧な家族に見えたのに……とか。本作に登場するどの家庭も、程度の差はあるけれど、何かしらの理由で問題を抱えている。

 キーとなるのは、元弁護士の才色兼備で、一見すると完璧な夫ペリー(アレクサンダー・スカルスガルド)がいながら、能面のような表情が印象的なセレステ。原作者がキッドマンを想定して書いただけあって、まさに原作のイメージ通りなのだが、第5話でセレステがセラピストを相手に、長年否定し続けてきた自分が抱える問題と対峙していく過程は、鳥肌もの! 妻、母親、女性であることの前に、人は等しく一人の人間としてあるべきだと強く思わずにはいられない。これこそがフェミニズム。キッドマンは大胆な性描写にも体当たりで挑んでいるが、この第5話こそが女優としての真骨頂という感じで、文字通り息をのむ。

 多くの女性たちにとって、肉体的、精神的な男性からの暴力(日常のちょっとしたセクハラ、パワハラ、モラハラを含めて)と無縁でいることは不可能だと思う。一番危険なのは、「コレぐらいは我慢するべき」が高じて、気づかないうちに心のバランスを崩したり、完全に被害者になっていること。もちろん、男性は女性を傷つけるだけの存在ではないし、女性は常に被害者なわけでもない。または女性の敵は女性とか、そういう単純な対立構造を描いている作品ではないのだが、本作が伝える女性にとっての精神や魂の解放といったテーマに、多かれ少なかれシンクロする人は多いはず。それほどまでに、いまだ現代の多くの女性たちは窮屈な思いをしているということなのかもしれない。

 誰もが他人に見せるのとは別の顔を持つ。それは当たり前のことではあるけれど、もっとも大きな秘密を抱えている(あるいは抱えることになる)のは、果たして誰なのか? そんなミステリーの要素に最後までぐいぐいと引っ張られるし、伏線の回収も完璧。でも、それ以上にギスギスとした不協和音だからけの登場人物たちの魂が、奇跡的な邂逅を見る最終話の幕切れは、すべての女性に対する讃歌でもあるだろう。圧倒的に娯楽作でありながら、こんなふうに新時代のフェミニズムを描けるなんて、どれだけ今の米ドラマのレベルが高いかを痛感させられる。前回の「ナイト・オブ・キリング 失われた記憶」と同じベイチャンネルHBOの今期を代表する秀作シリーズだ。

 原作は、アメリカでベストセラーにもなっているオーストラリアの人気作家リアン・モリアーティの小説「ささやかで大きな嘘」。売れっ子ぶりといい、読みながら映像が浮かぶ筆致といい、湊かなえを思い浮かべたりもするが、「アリー・myラブ」などで一時代を築いたヒットメイカー、デヴィッド・E・ケリーによる翻案は文句ナシに素晴らしい。基本的には脚本をすべて自分で執筆するケリーは、テンポよく交わされる巧みなダイアローグ(会話)が持ち味だが、本作ではこれまでとは異なり「余白の美」が生きている。劇中で使われている楽曲や、こだわりのミュージカルネタ(ドラマオリジナルの要素として『アベニューQ(原題)/ Avenue Q』『ブック・オブ・モルモン』からの『アナと雪の女王』)もドラマに即したもので気が効いている。これはケリーの第二の黄金期の始まりとなるのかも。

 映像作品として「余白の美」を生かし切っているのが、全話の監督を手掛けている映画『ダラス・バイヤーズクラブ』(2013)のジャン=マルク・ヴァレ。『わたしと出会うまでの1600キロ』(2014)ではウィザースプーン、ローラ・ダーンらとコラボしているが、本作の舞台となるモントレーの海辺の街の風光明媚なロケーションを生かした詩的な映像美は、非常にヴァレらしい。特に海辺のシーンは印象的。ピアノ曲「September Song」(byアグネス・オベル)がかかるシーンの美しさは神々しいほどで、寄せては引く波のリズムとメロディアスなピアノの旋律が、傷つき揺れ動く女性たちの心と呼応するようでもあり、全ての悲しみを包み込み、洗い流してくれるかのようでもあり。メインテーマ曲(byマイケル・キワヌーカ)をはじめとするサントラも超オススメ。劇中は字幕で歌詞もきちんと出るので、ぜひ物語とのリンクを想像してみるのも一興だ。

「ビッグ・リトル・ライズ 〜セレブママたちの憂うつ〜」(原題:Big Little Lies)
100点
サスペンス ★★★★★
恋愛 ★★★★★
社会派 ★★★☆☆

視聴方法:
スター・チャンネルで放送中(『ビッグ・リトル・ライズ 〜セレブママたちの憂うつ〜』(字幕版&二か国語版))
Amazonビデオ(『ビッグ・リトル・ライズ』(字幕版))
Google Play(『ビッグ・リトル・ライズ』(字幕版))
Microsoft Store(『ビッグ・リトル・ライズ』(字幕版))
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