【福田正博 フォーメーション進化論】

 2014年のブラジルW杯以降、”世代交代の遅れ”が指摘されてきた日本代表だったが、ロシアW杯アジア最終予選が始まってからの約10ヵ月間で、新戦力が台頭してきた。


U-20W杯で4試合に出場し、3得点を挙げる活躍をした堂安律

 最初に世代交代の扉を開けたのは原口元気だった。10代の頃から年代別の日本代表の主力選手として将来を期待されていたが、これまでW杯もオリンピックの舞台も踏んでいない。その悔しい時期を経験したことで芽生えた、「なにがなんでもロシアW杯に出場したい」という強い野心が、日本代表での活躍を後押しした。

 原口と同じ”ロンドン五輪世代”の清武弘嗣や大迫勇也も続き、昨夏のリオデジャネイロ五輪に出場した久保裕也も、不調に喘ぐ本田圭佑とのポジション争いを現時点でリードしている。加えて、先のイラク戦では、CBの昌子源やボランチの井手口陽介が、新たにレギュラー争いに名乗りを上げた。

 年齢的に26、27歳のロンドン五輪世代がポジションを奪ったことは、遅きに失した感は否めない。しかし、彼らが主軸になったことで、さらに下の世代の突き上げを呼び込んだ。スタメンが固定されて新陳代謝がなかったチームに、競争原理が働くようになったことは素晴らしい変化だ。

 彼らだけではなく、攻撃的なポジションに目を向ければ、浅野拓磨や武藤嘉紀、南野拓実などがいて、守備的な選手では三浦弦太や植田直通など、まだまだ若い選手たちが控えている。多くのポジションでベテランから若手が揃い、日本代表の底上げが期待できる陣容になりつつある。

 そんな中、心配の種となっているのがサイドバック(SB)だ。このポジションは、2010年の南アフリカW杯前後に、右SBの内田篤人と左SBの長友佑都が台頭。それに続いて、ブラジルW杯の頃には酒井宏樹と酒井高徳が頭角を現し、日本代表のSBは世界の上位国と比べても、遜色のないものになった。

 しかし、現在、内田は長く故障に苦しみ、今年31歳になる長友のパフォーマンスは全盛期に比べると陰りが見える。ロンドン五輪世代の”ダブル酒井”がいるものの、現段階で彼らを脅かし、世界と戦えるような若手は見当たらない。

 W杯出場権がかかる、8月31日のオーストラリア戦、9月5日のサウジアラビア戦に向けて、長友とダブル酒井のうち誰かを欠くことになった場合、左SBは太田宏介や、リオ五輪にオーバーエイジで出場した藤春廣輝、右SBなら遠藤航を起用することで急場はしのげるだろう。とはいえ、太田は29歳、藤春は28歳と、今後の代表を担うべき年齢とは言い難く、遠藤は24歳だがSBは本職ではない。

ロシアW杯や、その先を見据えた時に、日本代表にとってSB育成が重要なテーマになることは間違いない。内田や長友、ダブル酒井が欧州へ羽ばたいたことで、SBは日本の”ストロングポイント”と思われることもあるが、彼らは特殊ケースともいえる。実際、日本サッカー界にはSB育成に悩まされてきた長い歴史がある。

 SBを育てるためには、4バックのフォーメーションを採ることが大前提となる。しかし、4バックを実践するにはCBが2人揃わなければならない。国内には2人で守りきれる能力を備えたCBの人数が限られているため、Jリーグには3バックを採用するチームが多くなっている。

 4バックと3バックの違いは、単にDFラインの人数が違うだけではない。3バックで守る場合、3人のCBと両ウイングMF、5人のポジショニングの距離が近く、スペースも狭くなるため、数的優位をつくりやすい。一方で4バックでは、2人のCBと両SBの綿密な連携がより重要になってくる。

 たとえば、左サイドを攻められた際、ボールの逆サイドに位置する右SBは、相手選手をケアしながらゴール前中央に絞るなど、ポジショニングに細やかな決まりごとがある。これは攻撃時も同様で、右SBが攻撃参加している時は、左SBはカウンターに備えて、やや下がり目のセンターサークル寄りのポジションを取る。

 このように、SBには攻撃参加のタイミングを見計らうだけではなく、瞬時に的確なポジションを取る能力も求められる。それらの判断ができるようになるには、試合で経験を積むことが大切なのだが、先ほども述べた通り、3バックを採用するチームが増えているJリーグではその機会自体が減少傾向にある。

 各クラブでの育成が難しい状況で、日本代表としては別のポジションでプレーする選手をSBとして育てることも視野に入れなければならない。その際には、守備能力が高い選手の攻撃力を鍛えるよりも、攻撃に長けた選手に4バックの守備を教えることが近道になるのではないか。

 守備を得意とする選手に攻撃力を身につけさせるのは、タイミングや技術面で多くの課題があるため大きな成長は望めない。だが、かつての内田がそうであったように、守備は経験を積むことで伸びるものだ。

 世界的に見ても、鹿島でのプレー経験もある元ブラジル代表のレオナルドは、もともとトップ下の選手だったが、優勝した1994年のW杯アメリカ大会には左SBとして出場している。持ち前のテクニックを活かして左サイドからの攻撃を司(つかさど)り、1998年のW杯フランス大会では本職のMFに戻ってチームを準優勝に導いた。

 レオナルドだからこそSBでも活躍できたのかもしれないが、攻撃的なポジションに人材が揃っている日本代表も、これに倣(なら)ってみてはどうだろうか。これはあくまで一案だが、ガンバ大阪からオランダ1部リーグのフローニンゲンへ移籍が決まった、堂安律のSB起用を試してもいいのではないだろうか。彼は左利きでテクニックとスピードがあり、体も強い。しかし現状では、本職である攻撃的なポジションで代表の座をつかむのは容易ではないだろう。

 無事にロシアW杯の出場権を獲得できたら、本大会までの期間、堂安を左SBで起用してもいいのではないか。堂安にとってはなかなか受け入れがたい選択だろうが、これから長く日本代表を背負うであろう逸材なだけに、レオナルドのように、本職ではなくても若くして大舞台を経験することは貴重な財産となる。

 そんな荒療治をしなければならないほど、日本代表のSB不足は深刻な問題だ。日本サッカー界がさらなる発展を遂げていくためにも、欧州のトップクラブでレギュラーを張るような若手SBが現れるように、育成に本気で取り組んでいくべきだろう。

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