メジャーでの挑戦がついに実った入江監督 『22年目の告白』3週連続1位の快挙!

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 エンターテインメント大作が大挙して押し寄せるサマーシーズンの到来を目前にして、『22年目の告白−私が殺人犯です−』が3週連続動員ランキング1位に。実写の邦画作品が3週連続で1位を獲得するのは、昨年3月公開の『暗殺教室 卒業編』以来、約1年3ヶ月ぶりとなる。それ以前の記録をたどってみても、これは1年に1本あるかないかという出来事だ。

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 公開時期が幸いして1位が続いているわけではなく、数字の方も堅調な『22年目の告白』。先週末の土日2日間で動員16万5000人、興収2億3100万円という記録は前週比約88%。初週と比べての70%以上をキープしている。今回の快挙には、入江悠監督も自身のアカウントで「3週連続1位なんて夢じゃないだろうか」とツイートするほど。ここまでの入江監督のキャリアは決して平坦なものではなかっただけに、その喜びにも特別なものがあるのだろう。

 近年、テレビ界出身の監督や、CMやミュージックビデオ出身の監督が、主に深夜ドラマの映画化作品やティーンムービー系の作品で比較的容易にメジャー作品デビューを果たすようになった一方、入江監督はインディーズ映画からのたたき上げでメジャー作品を手掛けるようになった数少ない監督の一人だ。また、日本映画界のいびつな構造を内部から指摘する監督が少ない中にあって、入江監督は自分の置かれている状況について、これまでその都度赤裸々に語ってきた。

 中でも多くの人に衝撃を与えたのは、2010年、長編3作目となった『SR サイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム』の完成後に、監督自らが作品のプロモーションに奔走すればするほど経済的に苦境に陥っていく、インディーズ映画界の現状について綴ったブログだった。当時、『SR サイタマノラッパー』シリーズの成功によってその名を広く知られるようになっていた入江監督だったが、そのブログでは、同シリーズ2本の制作と宣伝にかかりっきりになったことで収入が途絶え、東京から埼玉の実家に戻らなくてはいけなくなったと告白していた。

 その後、松竹で『日々ロック』、東宝で『ジョーカー・ゲーム』と、立て続けに2本のメジャー作品を手がけることとなった入江監督。『日々ロック』の劇場パンフレットの制作を手伝った際に、筆者は当時の入江監督に取材をする機会があったが、そこでは「自分がずっと想像していたメジャー映画の世界は、もうここにはなかった」ということを語っていた。映画会社の撮影所システムがすっかり崩壊してしまって久しい現代において、(予算や制約は別として)監督が現場でやれることはインディーズ作品とメジャー作品に大きな違いはない。それはある種の絶望でもあり、また、自分のやり方でやるしかないという希望でもある、という話だった。

 『日々ロック』と『ジョーカー・ゲーム』は内容的にも興行的にも決して成功とは言えない結果に終わってしまったが、インディーズに戻って撮った『太陽』を経て、入江監督は今回、ワーナーでの『22年目の告白』で再びメジャー作品に挑んだ。本作への高い評価と、文句なしの興行的成功は、入江監督のキャリアに新たな大きな可能性をもたらすことになるだろう。今年12月には、大森南朋、鈴木浩介、桐谷健太のトリプル主演による、深作欣二監督『狼と豚と人間』を彷彿とさせるノワール作品になると言われている監督自身のオリジナル脚本作品『ビジランテ』の公開も控えている。「注目の若手監督」から「現在の日本映画界における最重要監督の一人」への道程を確かな足取りで歩み始めた入江監督。その今後に、さらなる期待を寄せていきたい。

■宇野維正音楽・映画ジャーナリスト。「リアルサウンド映画部」主筆。「MUSICA」「装苑」「GLOW」「NAVI CARS」ほかで批評/コラム/対談を連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(新潮社)。